長瀬智也、母への愛に葛藤ーー『ごめん、愛してる』が問いかけるもの

 「お前はどう思う?」律(長瀬智也)が、若菜(池脇千鶴)に、自分の生い立ちを投影した例え話を始める。「もしお前にさ、双子の妹がいるとして。コウノトリがお前と妹を運んでくるときに間違ってお前だけゴミの山に落としちまったとする。妹だけが母ちゃんのとこに運ばれて、幸せに育つ。うんと金持ちで何不自由無い暮らしだ。お前はどう思う? その妹に対して」それまで1人で生きてきた律にとって、これは初めての人生相談だったのかもしれない。若菜は、かつて律と一緒に児童施設で育った幼なじみ。律のおもかげを追って、道路に飛び出したことで交通事故に遭ってしまい、そこから知能は7歳程度のままだ。そんな若菜は、律の質問にこう答えるのだった「うーん……良かったねって思う」。

 7月16日に放送された、『ごめん、愛してる』(TBS系)の第2話は、まさにこのドラマを見ている視聴者にも、この問いが投げかけられるような回だった。やむを得ない理由から自分を捨てたと思っていた母親・麗子(大竹しのぶ)には、溺愛する息子・サトル(坂口健太郎)がいた。再会しても、実の息子だと名乗り出ることができない律。なぜ同じように育ててもらえなかったのか、なぜ自分は選ばれなかったのか……。そんな戸惑いを抱えていると、「得体の知れない者」「ろくな育ちをしていない野良犬のよう」と、麗子の容赦ない言葉が律の心を痛めつける。

 自分を捨て、再会した印象も最悪。一度は「クソババア」と罵った律だが、溺れかけたサトルの命を救ったことで、麗子の態度に変化が見られる。「ありがとう」その言葉には、思わず律の頬が緩む。サトルは、麗子の英才教育と持病のために、男友だちがほとんどいない。新鮮な存在に映った律に親しみの感情を抱くサトル。人懐っこく律の身の上を聞き、ゲームに誘う年下の青年に、律もかつて自分を「兄貴」と呼んだ、ラン(イ・スヒョク)を重ねるのだった。コウノトリが間違えなければ、きっと仲睦まじく育ってきたであろう、兄弟の姿がそこにあった。悲しみと憎しみから、麗子を追い詰める暴露記事をフリージャーナリスト・加賀美(六角精児)に依頼していた律だったが、「ちょっと待ってほしい」と保留を提案。「麗子のことがもっと知りたい」その関心こそ、母の愛を一方的に求めていた律から変化していることを、まだ本人は気づいていない。

 愛の始まりは、興味と関心だ。自分に興味を持ってほしいと願うこと。相手が自分と関わってどう変化していくのか知りたいということ。自分の感情をアウトプットして、相手の反応をインプットして……と、自分と他者の変化をキャッチボールし合うこと、そんなふうに感じる。若菜の「妹は助かったんでしょ? 良かったねって思う」という答えは一見、無償の愛のようにも見えるが、そこには自分への関心がないのが危ういところだ。無垢と無知は紙一重。若菜は無垢ゆえに人を憎むことを知らないが、無知ゆえに自分を売ってしまっていることにも気づけない。自分を投げ出してまですべてを受け入れることが、自分を大事に思っている人を傷つけることも知らないのだ。逆に、律は愛を知らずに育ったがゆえに、他者への関心をどう表現したらいいのかがわからずにいる。好意を持ってくれる若菜や、気にかけてくれる凜華(吉岡里帆)にも、そして最も愛してほしいと願っている麗子にも、いつもぶっきらぼうでうまく感情をアウトプットできていないのが、もどかしい。挙句の果てに「俺は野良犬なんだから」と麗子の屋敷にマーキングしてみせる。愛されるべき人間なんだという自信を持てずに育った律も、精神的には子どものまま、成長がストップしているのかもしれない。

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