長瀬智也×吉岡里帆×坂口健太郎『ごめん、愛してる』、初回から描かれた片思いの交差
7月9日よりスタートした、日曜劇場『ごめん、愛してる』(TBS系)。第1話から実に見応えのある内容だった。まず、設定からドラマチックな展開がこれでもかと詰め込まれている。主人公の律(長瀬智也)は母親に捨てられ施設育ち。流されるままに裏社会へと足を踏み入れると、若頭のラン(イ・スヒョク)に気に入られて、子分たちからは嫉妬の対象に。「気に入られているからって、調子に乗るな」とボコボコにされるシーンは、いくつものドラマで見てきた王道パターンだ。闘争に巻き込まれ、命を狙われたランを身をていして守った律は、脳内に銃弾が残り、いつ死が襲ってきてもおかしくない体に……。
次々と起こるエピソードが、とてつもなく非日常的で、“今ドラマを見ているぞ“、という気分を高めてくる。おそらく物語が、韓国を舞台にスタートしていることも、“ここではないどこか“という効果を発揮し、偶然や大げさなエピソードを自然と受け入れやすくしているように思う。律と凜花(吉岡里帆)との出会いも、転んだところを「ケンチャナヨ=大丈夫?」と手を差し伸べる、なんともドラマらしい展開。そのあとすぐに凜花と律が身の上話をするほど急速に距離が縮まるのも、異国の地で出会った数少ない言葉が通じる人だと思うと大きく頷ける。
そうして、少しずつ紐解かれていく人間関係は、全員が誰かに片想い中だ。律は自分を捨てた母親・麗子(大竹しのぶ)に。凜花は幼なじみの心臓に病を抱えたピアニスト(どこまでも劇的!)のサトル(坂口健太郎)に。サトルはサックスを吹く才女・塔子(大西礼芳)に。さらに言えば、ランは律を“兄貴“と慕っていたり、同じ施設で育った若菜(池脇千鶴)も律にベッタリ……だが第1話を見る限り、いずれの想いも報われることはなく、むしろ相手も自分も縛り付ける鎖のように重い。初回から交錯する愛情の矢印。『ごめん、愛してる』というタイトルは、愛するあまり、相手の幸せを願えない懺悔のようにも聞こえる。
律は、脳内に銃弾という時限爆弾を抱えた体になったことで、黒い組織からも追い出されてしまう。命をかけても守りたいと思ったランからも、“用なし“と言わるかのように、子分から大金が渡される。お金があっても、自由があっても、そこに愛がなければ、なんの意味もない。抜け殻のようになった律からは、そんなメッセージを感じ取ることができる。いつ死ぬかもわからない今、自分を捨てた母親を探しにいこうと決心をした律は、日本へと向かう。
「自分のことを想ってもくれない相手のことを想い続けるなんて、時間の無駄だろ」繰り返し出てきたこのセリフが印象的だ。ランが律に、律が凜花に、それぞれ別の相手に想いを寄せている状態を指していう言葉。きっと他人からみたときには、片想いとはそんなふうに見えるものなのだろう。時間の無駄、そう思っていても、相手のことを想い、行動してしまう自分を止められない。塔子とデートするサトルがうまくいかずに自分に連絡をくるように願ってしまう凜花も、母親が自分を捨てることで手に入れた何かがあるのだと想像することができない律も、傍から見れば自分に都合のいいように解釈している滑稽さが拭いきれない。
「愛されてる人間には生きる価値があるんだ」そんな言葉が口をつく律にとって、捨てられたときに母親が持たせたと言われている指輪とお守りこそ、自分が生きる価値がある人間なのだという希望だったのだろう。そこには、小さな青い石が付いている。これがサファイアなのだとしたら、その宝石言葉は“誠実・愛情・徳望・不変・慈愛“。少しでもよい環境で育ってほしいと願ってくれたはずだと信じる律は、その指輪を母の愛の証として肌身離さず持ち歩いていた。