『あなたのことはそれほど』は『逃げ恥』への強烈なカウンターだーー春ドラマ意欲作を読む

 今期の新作ドラマは保守的な作品がほとんどの中に、いくつか意欲作が目立つ。

 まずはフジテレビ。月9の『貴族探偵』と木10の『人は見た目が100パーセント』を見ているとキャスティングに力を入れていると思う。特に『人は~』でブルゾンちえみを起用するスピード感は流石だと思った。しかし、イケメン二人(with B)を従えて自信満々に振る舞う彼女に世間は喝采を送っているのに、リア充女子に劣等感を抱く女子モドキを演じさせている理由がわからない。渡辺直美に太っていることにコンプレックスを抱いている女性を演じさせて、ダイエットに挑戦するドラマを作るようなものである(今のフジテレビなら作りかねないのだが)。

 どちらも演出に力が入っているのはわかるが、それが見事に空回りしている。特に『貴族探偵』はミステリーのお約束をいじって滑りまくった『神の舌を持つ男』(TBS系)の失敗から何も学んでいない。おそらく今のフジテレビは脚本家の作家性ではなく企画の面白さで勝負したいのだろう。しかし、その題材がミステリーとマニュアル型恋愛ドラマということ自体が古臭い。そんな中、金城一紀が脚本を担当する『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』は奮闘していると言えるが、設定に新味は感じられず、現時点では物足りない。

 一方、日本テレビとTBSは、過去作の続編やリメイクといった焼き直しがほとんどだが、野心的な作品もわずかだが存在する。

 日本テレビの水10の『母になる』は、同枠で放送されていた坂元裕二脚本の『Mother』と映画『八日目の蝉』にあった子どもを誘拐した女が偽の親子として逃避するという話を実の母親の立場から描いた作品。

 亀梨和也と山下智久が共演する『ボク、運命の人です。』は、二人が12年前に共演した『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)と脚本の金子茂樹が書いた山下智久主演の『プロポーズ大作戦』のセルフリメイクに見える。

 一方、『野ブタ。』の河野英裕がプロデュースする『フランケンシュタインの恋』は、スタッフの座組みから『妖怪人間ベム』にあった異形の存在の視点から人間を語るというモチーフをティム・バートン監督の『シザーハンズ』テイストのファンタジードラマとして描いた作品となっている。いずれも完成度の高い良く出来た作品だが、セルフリメイクによる保守性の方が際立って見えてしまう。

 むしろ、注目すべきは深夜に放送されているバカリズム脚本の『架空OL日記』だろう。『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)や『黒い十人の女』(日本テレビ系)では、シュールなシチュエーションを生み出す発想力が注目されていたが、『架空OL日記』は、平凡な日常を淡々とスケッチしていく精密な生活描写にこそ、彼の本領があることがとてもよくわかる。おそらく前作の『住住』(日本テレビ系)で、何かを掴んだのだろう。バカリズムがOL役を演じていること以外は平凡な日常なのに、とてつもなく異常なことが起きているように見える問題作である。

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