成馬零一の直球ドラマ評論
『あなたのことはそれほど』は『逃げ恥』への強烈なカウンターだーー春ドラマ意欲作を読む
TBSは、日曜劇場が警察版『半沢直樹』と言える『小さな巨人』、金曜ドラマが定番化している湊かなえ原作の『リバース』は、安定感があるが新味はない。対して、絶好調なのが火10だ。いくえみ綾の少女漫画をドラマ化した『あなたのことはそれほど』は、最近流行りの不倫を題材にした恋愛ドラマなのだが、波瑠が演じるヒロインの渡辺美都が不倫に至る動機が学生時代に好きだった人と再会したからというだけで、葛藤が一切ないまま、肉体関係を持ってしまう。
この枠のヒット作となった『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)がとりこぼした結婚と恋愛(あるいは性愛)の分離は可能か? という難題に関して、本作は容赦なく踏み込んだ結果、『逃げ恥』に対する強烈なカウンターとなっている。ちなみにチーフ演出は『逃げ恥』と同じ金子文紀。こういう作品を作れること自体が今の火10の勢いの証明だろう。
そしてテレビ朝日。刑事ドラマの続編モノばかりで保守的と揶揄されがちなテレ朝ドラマだが、そんなテレ朝から、巨匠・倉本聰が手掛ける『やすらぎの郷』という、今期一番攻めているドラマが出てきたことには、驚きと同時にある種の必然性を感じる。高齢者向けのドラマという発想自体は、視聴者の高齢化を考えれば、いつ生まれてもおかしくなかっただろう。しかし、そのために番組編成を変えて新設枠を作り昼帯の2クールドラマを始めたことは、大きな改革である。
2010年代の朝ドラ一人勝ちの状況に対して何の手も打てなかった民放ドラマがやっと対朝ドラシフトの帯ドラマを打ち出してきたのだ。内容面でも尖っていて、高齢化することを単純に嘆くのではなく、高齢化という状況を受け入れた上で、今までとは違う“若い老人像”を打ち出している。
新しいことをやろうとしているフジテレビが滑りまくる一方で、高齢者向けに寄せて保守性に居直るテレ朝から、こんな怪作が生まれるのだから、世の中わからないものである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。