アニメ界の異才・湯浅政明、なぜ国際的評価? 『夜は短し歩けよ乙女』“奇抜な画の動き”を考察

『夜は短し歩けよ乙女』

国際市場での湯浅政明

20170420-koiseyootome-sub7.jpeg

 

 湯浅監督の設立した制作プロダクション「サイエンスSARU」は、少人数の国際色豊かな人員で構成されている。韓国出身でロンドンでアニメーションを学んだチェ・ウニョン氏、スペイン出身のフラッシュアニメーター、アベル・ゴンゴラ氏とホアンマヌエル・ラグナ氏らが主なメンバーだ。サイエンスSARUは元々、アメリカのカートゥーン・ネットワークの作品を手がけるのをきっかけに結成された会社で、フラッシュアニメーションを積極的に用いることを特徴としている。

 これは作業の効率化のための手法という意味合いが強いそうだが、湯浅監督の理想とするようなシンプルさを実現するためにも向いている手法だろう。その意味では質を落とさずに作業効率を高めて、労働状況を米国のアニメスタジオ並にしていこうという意欲の現れでもあるようだ。

20170420-koiseyootome-sub6.jpeg

 

 ところで、湯浅監督は国内にも多くのファンを持つが、海外のアニメーションファンの中での評価もすこぶる高い監督だ。土居伸彰氏は湯浅監督の長編映画『マインド・ゲーム』は海外のアニメ映画祭ではある種神格化されている部分もあるとまで語るが、人体デッサンにとらわれずに自由に線を動かし、イマジネーションをそのまま具現化したような湯浅監督の映像は、自らのイメージと持てる技術が幸福に融合した例だろう。(参考:ワールドアニメの生態学 第3回 自由な「実験場」と異形の才能たちの時代【WIRED】

 2014年の『ピンポン THE ANIMATION』以降、アメリカのカートゥーン・ネットワークに参加し、アニー賞候補になったり、キックスターターで資金を募った短編『キックハート』を発表するなど、活躍の場を海外に広げていた湯浅氏。彼の作風は近年の日本アニメのメインストリームでは決してなく、国内市場に行き詰まりを感じていたこともあったようだが、海外での高評価で自身の作風により一層の自信をつけたのではないだろうか。

20170420-koiseyootome-sub2.jpeg

 

 彼のスタイルや個性は確実にAプロをはじめとする日本アニメの伝統の中にあるものでもあり、そこにさらに国際的センスを身に着けた上で、再び日本アニメの最前線シーンに帰ってきてくれた。『夜は短し歩けよ乙女』も世界中で湯浅政明にしか作れない、ケレン味がたっぷりと詰まった怪作だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『夜は短し歩けよ乙女』
現在公開中
出演:星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人
原作:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫刊)
監督:湯浅政明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION
制作:サイエンス SARU
製作:ナカメの会
配給:東宝映像事業部
(c)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
公式サイト:https://kurokaminootome.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる