堀北真希に代わる、“郷愁感”を持った女優はまだいないーー88年世代トップスターの引退に寄せて

 堀北真希が電撃引退するという報道に、少なからずショックを受けはしたものの、「まあそうですよね」と、割と簡単に納得できてしまうのは、やはりここ1年近く表舞台で彼女の姿を見なかったからだろう。ちょうど1年前、『ヒガンバナ〜警視庁捜査七課〜』のときに彼女に関する記事を書いた筆者だが、当時すでに流れていた引退説について「このまま引退してしまうのはさすがに勿体ない」と、女優としてさらに力を付けていく彼女の姿に期待したものだ。(参照:堀北真希の女優キャリアはどこに向かう? 清楚系から実力派への道を検証

 とはいえ、納得するも何も、昨年12月に第1子を出産した彼女が、育児に専念するために引退を選んだのだから、喜ばしいことに違いない。彼女がデビューしたのは2003年。初めは他の若手女優と同じように、ドラマの端役や、ホラー作品への出演が目立った。それから14年が経ち、電撃引退を果たした彼女は、紛れもなく実力派女優として、堂々と第一線から退いたのだ。

 彼女がブレイクを果たしたのは2005年。夏に放送された日本テレビ系ドラマ『野ブタをプロデュース。』で、地味で冴えない転校生が華麗に変身を遂げて学校中の人気者になるシンデレラストーリーは、現実でも彼女を人気女優へと押し上げた。同世代の新垣結衣や戸田恵梨香(戸田は同じドラマで共演していたが)よりも先に、この年代のトップスターに君臨したのである。

 10代の頃の彼女が人気を集めた大きな要因は、その愛嬌にあった。同じ年の大ヒット映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で多くの映画賞の新人賞を獲得した彼女は、あっという間にすべての世代から認知される存在になったのだ。集団就職で上京してきた青森訛りの強い少女を演じた彼女から放たれる、純真無垢なオーラは、少なくとも21世紀の女優とは思えないほどにオールドファッションで、見るもの多くに安心感を与えた。

 人気のピークはおそらく2008年ごろに一段落を迎える。そこまでは、アイドル女優として愛嬌を徹底的に活かし続けた期間であった。20代になってからの彼女は、日米合作のラブストーリー『誰かが私にキスをした』や映画版『白夜行』、そして朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』など、人気先行のアイドル女優ではとても務められない大役を任される。そこから実力派女優としての道を進み始めたのだ。

 それは、持ち前の優等生的な落ち着きと、その中にわずかに残るあどけなさのギャップによって生み出された、簡潔に言えば“演技力”の賜物である。10代の頃の彼女を見続けてきた視聴者やファンにとって、まるで自分の孫や娘の成長を見守るような感覚でもあり、同じ世代の筆者からすれば、子供の頃に想いを寄せていた幼馴染の、大人になった姿を目の当たりにするような感覚にも似ていた。

 2013年に公開された映画『麦子さんと』は、そんな彼女の持つ郷愁感が最大限に発揮され、またその演技力を証明する代表作として、今後も語り継がれるに違いない傑作だ。同作は母の納骨のために母の故郷の町に訪れた主人公の麦子が、かつて母が町中の人々から愛されたアイドル的存在だったことを知らされるヒューマンドラマである。

 現代の娘と、母親の若き日を一人二役で演じ切った堀北。若い頃の母親に似ていると、町中のおじさんたちからチヤホヤされて困った表情を見せる場面は実に愉快だし、地元の祭りのステージでのシーンは、現代パートも回想パートもどちらも素晴らしい。終盤で、やんちゃな岡山天音を引っ叩くシーンの彼女の表情は、すっかり女優としての貫禄を携えていたようにも思える。今後も松田聖子の名曲「赤いスイートピー」を聴くたびに、この映画を思い出すことだろう。

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