『カルテット』宮藤官九郎登場で、第2幕は大波乱の予感!?  第5話までを振り返る

『カルテット』第5話までを振り返る

 火曜10時のドラマ『カルテット』(TBS系)の第1幕が終演した。とはいえ、ストーリーは一段落するどころか、謎が謎を呼んで加速する一方。次回予告を見ると、さらに目が離せない展開が待ち受けているようだ。来週から始まる第2幕。その開演時間までの休憩気分で、のんびり第5話までの振り返りに、お付き合い願いたい。

アリにもキリギリスにもなれない大人たち

 話は、偶然(?)出会った30代の男女4人がカルテットを組み、共同生活を始めたことからスタートする。真紀(松たか子)、すずめ(満島ひかり)、別府(松田龍平)、家森(高橋一生)は、ゆるやかに人生の下り坂を感じながらも、奏者という夢をあきらめきれずにいる大人たち。それぞれ楽器に向き合うときには靴下を脱いだり、メガネを拭いたりと儀式めいたものがあったのは、1人ひとりのこだわりの強さを示唆しているようだ。「唐揚げにレモンをかけるか」や「ゴミ捨ては誰がいくか」という、どこの家庭でもある話題が持ち上がっていたのも、他者を意識して生活ができるか=社会になじめるかを象徴したものだろう。こだわりは歳を重ねるほどに強固になり、ときに自分をグルグル巻きにする。あれ? もしや登場人物の中で、一番の年長で「真紀が息子を殺した」という思い込みに支配されている義母・巻鏡子(もたいまさこ)の名前も、ここからきていたりして……。

志のある三流は四流

 同じごはんを食べ、同じシャンプーを使い、血はつながらないけれど、まるで家族のような共同体になった4人。徐々にお互いの背景を知り、それぞれのこだわりや心にあいた穴も受け入れてきた。だが、一向に奏者として日の目を見ることがない。その理由を演奏テクニックが三流だからだと思い込んでいたが、本当に向き合うべきは自分たちのこだわりと社会との調和なのかもしれない。そんな現実を突きつけられたのが、別府の弟が手配した仕事だった。初めて「君たちには華がある」と褒めてくれる人が現れ、大きなステージが用意され、今度こそ上り坂だと張り切るも「演奏は、している振りだけでいい」と言われ意気消沈。「注文に応えるのは一流の仕事。ベストを尽くすのは二流の仕事。三流は明るく楽しくお仕事をすればいい。志のある三流は四流」表向きは褒めていた人物が4人に向けて放った言葉は、筆者の胸にもズシンと重くのしかかった。

いい大人が見る夢

 ポリシーを曲げてまで、仕事をすることに意味があるのか。職業が、必ずしも自己実現とイコールではないが、社会において自分が何者であるかを証明するのは、やはり職に直結しているように思う。社会とうまくやっていくというのは、自分を殺すことなのだろうか。理不尽な要望をすぐに断ろうとした家森とすずめは無職、「三流なりにやってやろう」としがみついた真紀と別府は仕事を持っているというのも、興味深い。4人が抱くそれぞれの夢も「破天荒な人と言われたい」(別府)、「家内安全、無病息災」(真紀)の現実的な2人に対して「お布団の中に住んで、部屋に回転寿司を引く」(すずめ)、「ジュノンボーイか、ベストジーニスト」(家森)と、まさに夢見がち。いい大人が何を言っているんだ、という人もいるかもしれない。では、何歳まで夢を見ていいのだろうか。

嘘から出た真

 納得のいかない仕事に涙を流しながらも、その分4人の絆は深まっていった。義母・鏡子に依頼されて真紀に近づいたすずめは、真紀への親しみを感じるほど、嘘をついていることに後ろめたさを感じ始めるように。詐欺師の父を許せなかった自分が、真紀についた嘘を許してほしいと願うなんて、童謡「めだかの兄妹」にある<大きくなっても すずめはすずめ>。チュンチュンだ。自分がどんなに望んでも血は争えないという、呪いのようである。しかし、嘘から始まったが、目の前にある親愛に嘘はない。3割嘘で7割が真実。ズボンは履いているけど、ノーパン。そう思い込んで、大切に育んできた関係性をぶち壊しに来たのが、すずめの嘘に気づいた有朱(吉岡里帆)だ。

全員嘘つき

 「この世で一番のナイショ話は、正義はたいてい負けるってことでしょ? 夢はたいてい叶わない。努力はたいてい報われないし、愛はたいてい消えるってことでしょ? そんな耳触りのいいこと口にしてる人って、現実から目そむけてるだけじゃないですか」と、真紀とすずめに対して「みんな嘘つき」だと言い放ったのだ。有朱は「炎上ばかりしていた」と語っていた元地下アイドル。おそらく、自分自身が夢を叶えることができず、努力したことが報われなかったのだろう。有朱が「夫婦」の安全神話は、そのままアイドルとファンの愛情に置き換えられたのかもしれない。恋愛感情に白黒つけたら、オセロのようにひっくり返って炎上した。そんな経験もあったのではないか。だからこそ、こうした言葉が出たのだろう。

全員片想い

 そして、いつも目が笑っていない有朱が、ここまで熱くなったのには、そこに本気の感情があったからではないか。それは、有朱からすずめに向けた片想い。カルテットの4人は、家森→(最初は有朱)すずめ→別府→真紀→真紀の夫(→“夫婦”から逃げられた家森?)、と片想いの矢印が向いている。ここに有朱→すずめの矢印もあったのではないか。ガールズトークで盛り上がり、恋愛指南をしてハシャぎ、有朱にとってすずめは、これからもっと親しくなっていきたい相手。だが、身内からもコミュニティークラッシャーと言われる有朱の愛し方は、相手のことが大好きで大好きで殺してしまうものだった。すずめと真紀の関係性は狙い通り破壊され、すぐさま「味方です」と言ってのけるあたり、この展開が有朱にとってよくある流れなのだと感じる。相手のコミュニティーを奪うことで、自分との繋がりを強めようとする。有朱もまた、現実に向き合っているつもりで、他者との調和ができない1人なのだろう。親近感を持ちながらも、同時に「私はちがう」という同族嫌悪も湧き上がったのかもしれない。

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