もしも『七人の侍』が多人種になったらーー『マグニフィセント・セブン』の圧倒的な格好良さ

田村千穂の『マグニフィセント・セブン』評

 2時間を超えるこの映画が、観客を飽きさせることは一切ない。私たちはおもにチザムがスカウトしてくる残り6人のメンバーを、つまり彼らそれぞれの魅力を、その登場順にただじっくりと観察し、それぞれに固有のアクションがいかに繊細でスマートでクールでチャーミングであるかをみてとり、魅了され、惚れぼれとして、メンバー全員のことが好きになるにちがいないだろう。

 フークアの15年前の作品『トレーニングデイ』で、ワシントン演じる複雑怪奇な悪徳刑事の相手役をつとめたイーサン・ホークが、ここでも同じようなひ弱な役で観客の心をとらえるだろう。いったん闘いから脱落する彼が、帰ってこようとこまいと私たちは彼の弱さを受け入れることができる。ホークの相棒であるナイフの達人を演じるのがイ・ビョンホン。無口で女性的な東洋人男性のステレオタイプはそのままに、静かな情愛と上品なユーモアを醸しだしている。

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 ニヤニヤとニヤけた顔つきにヒョロリとした体躯、独特の優雅な物腰で二丁拳銃をふるうメキシコ人役がマヌエル・ガルシア=ルルフォ。もっとも口数が少なく、英語が喋れることをあえて隠している知的なコマンチ族の戦士にマーティン・センズメアー。ギャンブラーで色男の落ち着き払った優秀なガンマンに笑顔の可愛いクリス・プラット。キーキー声の山男で、野蛮きわまりなくみえて女に優しいすてきな紳士がヴィンセント・ドノフリオ。そして、つねにゆったりと構えながらムダな動きを一切せず、何もかもがすばらしい我らがジョン・ウェイン=デンゼル・ワシントン。いうことなしである。

 『マグニフィセント・セブン』。この映画を見るために、原案となった『七人の侍』や『荒野の七人』を見ておくべきだろうか? そんな必要はない。もう映画は始まっているからだ。何も持たずに映画館に駆けつければよい(おサイフだけ持って)。バンバンいくしかない。バンバンいくしかないのである。

■田村千穂
1970年生まれ。映画批評・研究。著書に『マリリン・モンローと原節子』(筑摩選書)、『日本映画は生きている』第5巻(岩波書店、共著)。2017年度は中央大学にて映画の授業を担当。

■公開情報
『マグニフィセント・セブン』
全国公開中
監督:アントワーン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホーク、イ・ビョンホン、ヴィンセント・ドノフリオ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、マーティン・センズメアーほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2016年/アメリカ映画/原題:Magnificent Seven
公式サイト:Magnificent7.jp

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