『3月のライオン』アニメは秀逸な仕上がり! 制作会社シャフトの個性はどう活かされたか

 漫画が実写映画化される時には必ず議論が起こる。筆者は映画と漫画は別物と見ているし、いくら実写化の内容がよくなかったとしても、原作作品が駄目になるわけではないと思っている。ただ、熱心なファンであれば、自分の好きな作品の世界観を崩されるのはつらいという気持ちはわかる。しかしながら、漫画を映画にするような、(商業的理由を抜きにすれば)表現媒体をわざわざ変えるのだから、新しいエッセンスが見たいという気持ちもある。

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 現在、羽海野チカ原作の漫画『3月のライオン』のアニメシリーズがNHKにて放送中だ。『3月のライオン』は年明けには、神木隆之介主演で実写映画2部作も公開が控えている。最近アニメ化と実写化両方とも企画されるケースが多くなってきている。

シャフトと『3月のライオン』の意外な相性

 さて、『3月のライオン』のアニメ制作を担当しているのは、『魔法少女まどか☆マギカ』や『<物語>シリーズ』で知られるシャフトだ。シャフトは現在のアニメ業界随一ともいえる独特の画作りをすることで知られており、だいたい3分視聴すれば、それがシャフトの作品かどうか判明するくらい、強い個性のある作風を持っている。

 シャフトはその強い個性ゆえに、原作ものを手がける時、必ず賛否両論が生まれる。監督を務めた新房昭之監督自身も、「今までも、制作がシャフトと発表になった途端、叩かれました」と公式サイトのインタビューにて語っているのだが、それはシャフトの強烈な個性が原作のエッセンスと一致するのかどうかが不安に思われるからだろう。実際、今まで数多くの原作ものを手がけているシャフトは、どんなジャンルの作品であれ共通した演出スタイルを貫いていて、原作ファンにとってそれが馴染めないケースもあった。

 公式サイトのインタビューによると、シャフトの登板は羽海野チカの希望であったらしい。羽海野氏がシャフトのファンであったらしく、むしろシャフトとアニプレックス側が尻込みしていたところを説き伏せたような格好で企画がスタートしたという。シャフトがアニメ化を請け負うと聞いた時の筆者の印象を忌憚なく言わせてもらうと、不安の方が大きかった。筆者はシャフトのような強烈な個性を持った作風を愛しているが、それが『3月のライオン』とマッチするとは思えなかった。非常にシャープな繋ぎと、独特のタイミングのカットイン、余白をあえて作る構図や、斜めにクビをかしげるカットなど、概して鋭い刃物のような印象を与えるのがシャフト演出の特徴で、一方、『3月のライオン』の原作は、羽海野チカの柔らかいタッチの絵から生み出されるゆったりした空気と、貼りつめた緊張感が同居するのが魅力だ。後者はまだしも、前者はどうだろうかと感じたのだ。

 しかし、これがなかなかどうして上手くやっている。それに、シャフトらしさを封印しているわけでもない。きちんと原作のエッセンスを映像に定着させながらも、シャフトの個性も発揮できていて、とてもバランスのいい仕上がりになっている。

 月島の下町ならではの柔らかい空気感も損なうことなく表現できているし、将棋の戦いの緊張感、そして原作よりも大局の流れがわかりやすいのもいい。一方で夢のシーンなど心象風景にはシャフトらしさも覗く。第1話冒頭で、主人公の夢の中で、義姉の香子がモノクロで微笑むカットは存分にシャフトらしく、魔女のような彼女の魅力が短いシーンにしっかりと収められていた。シャフトのアニメ化で最も恩恵を受けたキャラクターは、この香子だろう。

 原作漫画に登場する主要女性キャラは、やさしいほんわかした人が多いのだが、香子だけは異色ともいえるほど悪態をつく。アニメの香子は原作よりも悪さ、妖艶さが増している。声優の井上麻里奈の技量にもよるところが大きいが、原作通りの出番にもかかわらず、シャフトによる映像化によって存在感が大きく増している。ちなみに、実写映画で香子を演じるのは有村架純だ。彼女は魅力的な俳優だが、アニメの香子によってかなりハードルが上がったかもしれない。有村架純はこの傷つきやすい魔性の女をどう演じるのかも気になるところだ。

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