『とと姉ちゃん』最終回に寄せてーーテーマ・キャストの魅力と、脚本・演出への不満点

 西田征史の脚本は、見せたいテーマとキャラクターが明快でお話としてよく出来ている。しかし、わかりやすさを優先するが故に、登場人物が類型的になりすぎて、良い奴は良い奴、悪い奴はとことん悪い奴という描写になっている。それでも、序盤は、主人公に敵対する人にも実はその人なりの事情があってという、ひっくり返しを丁寧におこなっていて、西田なりに人間の複雑さを描こうと格闘していたように見える。しかし、終盤になっても同じことを繰り返しており、商品試験のくだりで気持ちが萎えてしまった。

 こういった脚本上の弱点は、本来なら演出サイドでフォローできるものだったのだが、脚本の安直さをより際立てる方向に演技指導が働いていたように思えてならない。街や屋内を撮影する際に見せた臨場感のあるカメラワークは魅力的だっただけに、演技面での安易な見せ方が最後まで引っかかった。戦時中の戦争に向かう日本と戦後の復興から高度経済成長に向かう日本を対比する構成でありながら、経済発展に対する内省的な視点が戦争批判に較べて踏込みが浅いことも不満に感じた。
 
 普通の連続ドラマならヒロインの成長物語を半年かけて描ききり、高視聴率を獲得した時点で充分合格で、それ以上の深みや作家性を求めるというのは贅沢な注文なのかもしれない。

 今や朝ドラはテレビドラマの中心として、多くの人々が注目する放送枠である。だからこそ、脚本と演出は最高レベルのものであってほしいし、テーマももっと深く掘り下げてほしかった。朝ドラだから、複雑な現実を単純なストーリーに落とし込むのではなく、朝ドラだからこそ、複雑なテーマと表現を追求してもいいのではないかと、保守的な作りに見ていて歯がゆく感じた。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

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