成馬零一の直球ドラマ評論『とと姉ちゃん』
仕事と家庭の両立に悩む『とと姉ちゃん』ーー類型的な人物描写に感じた不満
このドラマは善人は善人、悪人はとことん悪人という演技を役者に要求する。それは過剰に芝居がかっていて類型的だ。演出も、暗い社長室でステーキを食べている場面を写すことで「こんな贅沢なものを食べている男は庶民の敵だ」という印象を植え付けようとしていて、あまりの安直さに見ていてゲンナリしてしまった。
もちろん、「悪い人に見えるけど実は事情があって……」というパターンを繰り返してきた本作らしく、赤羽根社長が過去に苦労してきたことを匂わせており、同じように家族で「あなたの暮し」を運営する常子の暗い側面を反映して描いているのはわかるのだが、もう少し見せ方のバリエーションはないのかと思う。人物描写がどんどん安直になっている。
こういった作劇方法自体が、花山伊佐次(唐沢寿明)が内務省でおこなっていた戦意高揚を煽るためのプロパガンダ的な手法に見えてしまうのは、なんとも皮肉なことである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/