闇と光の“反復”はどんな恐怖をもたらすか? 『ライト/オフ』が辿り着いた、映画の根源的表現
闇のなかだけに現れる化け物に狙われた家族の恐怖を描く、ホラー映画『ライト/オフ』。本作の「闇」と「光」を使った恐怖表現は、ゾワゾワするような生理的な効果を発揮し、このワンアイディアだけで映画が成立しているほど圧倒的だ。なぜいままでこのスマートなアイディアが思いつかなかったのか。世界中のホラー映画作家が、頭を抱え地団太を踏んで悔しがる姿が目に見えるようだ。
スイッチを押して部屋の照明を消すと、暗い場所に人のかたちの不気味な「何か」の影が立っていることに気付く。「(あれ? ここには私以外、誰もいなかったはずなのに)」と照明を点けると、さっきの人影は消えている。もう一度照明を消すと、また人影が現れる。点けると消える。消すと現れる。この行為を繰り返していると、また照明を消した瞬間、いきなり自分の目の前に人の姿が現れるのだ。これは怖い! この劇中冒頭の演出は、予告編でも見ることができるので、ぜひ体験してもらいたい。
じつは、このシーンそのままの映像作品が存在する。それが、本作と同じデヴィッド・F・サンドバーグ監督が撮った、"Lights Out"「ライツ・アウト」である。動画サイト YouTube で、いまも無料公開されている3分にも満たない短編だが、その出来があまりにも良いために話題を呼び、すぐに動画の視聴回数は100万回を超えた(現時点では1200万を超えている)。それが、「ホラー・マスター」と呼ばれる若きホラー映画の巨匠、ジェイムズ・ワンをはじめとするハリウッドの映画人たちの目にとまり、これを長編映画化しようという流れになったのである。
まさにシンデレラ・ボーイとなった、スウェーデン在住のデヴィッド・F・サンドバーグ監督は、いままで過激なFlashアニメを製作し、"ponysmasher"「ポニー(かわいい馬)をぶん殴る者」というユーザー名で YouTube に動画をアップし注目を集めていたが、2013年からは同じアカウントで、恐怖をテーマにした短編動画のシリーズを公開し始めた。それらは全て自分の妻を主演させて、クローゼットや屋根裏など、自宅の中で体験するおそろしい怪現象を、2、3分、もしくは10数秒の実写映像で表現したものだ。
スウェーデンだけに、家具などの道具をIKEA(イケア)から買ってきて仕掛けを手作りし、自分で映像加工を行いながら、アパートの室内で妻と仲良くキャッキャしながらホラー短編を作り YouTube にアップするのである。本作でも、『ブレードランナー』から着想を得たという、化け物の「光る眼」を表現するために、蛍光テープを目の大きさに丸く切って、瞼に張り付けるという方法がとられているなど、楽しみながら映像表現を追求していることが伝わってくる。
その、いじらしくも幸せな光景とは裏腹に、作品はものすごく怖い。日常の光景のなかにぽっかりと口を開けた怪異は、それが生活臭を感じるような映像だからこそ、より迫真性が宿る。このシリーズの主演女優であり、監督の妻でもあるロッタ・ロステンは、本作『ライト/オフ』の冒頭にも出演し、「気を付けてね」と出演者に忠告する。いままで自分が体験してきた恐怖を、本作の出演者たちにバトンタッチするのである。