SNSは“死者の恨み”も共有する……全編PC画面で展開するホラー『アンフレンデッド』の革新性

『アンフレンデッド』が描くSNSの恐怖

 いまは誰もが電子メールを使い、TwitterやFacebook、Instagram、LINEなどのSNSも当たり前のものとして日常に溶け込んでいる。しかし一方で、SNSでは人と対面せずに匿名で活用できる分、罪悪感を抱くことなしに嘘をついたり、誹謗中傷をしたりする者も少なくない。無断で個人情報を晒す、他人になりすまして嫌がらせを加える、といった被害もネット上ではよく起こることだ。

 『アンフレンデッド』は、SNSのそうした負の側面にスポットを当てた、新感覚のホラーだ。タイトルである「アンフレンデッド(Unfriended)」とは、Facebookで「友だちリスト」から名前を削除することを指している。ネットにまつわるコミュニケーションやモラル、ネットいじめを題材にした物語を、徹底して“パソコンの画面上のみ”で描いたコンセプチュアルな作品である。『インシディアス』や『パラノーマル・アクティビティ』シリーズのプロデューサー、ジェイソン・ブラムが製作総指揮を手がけ、約1億円で製作されたが、全米で公開されるやいなや4週連続トップ10入りのスマッシュヒットを記録、32億円以上の興行成績を上げ、続編製作も決定している。

 フランスの映画批評家で、ジャド・アパトーについてのドキュメンタリー映画『ディス・イズ・コメディ』(2014)の監督でも知られるジャッキー・ゴルトベルクは、2015年のベスト映画の一本に『アンフレンデッド』を挙げ、「5人の若い青年たちがSkypeで会話しているところに、まったく匿名の別の誰かが割り込んでくる様子が、一台のPCモニター上だけで捉えられている。モニター上の画面の中に複数のウィンドウが開くことでシーンが移り変わっていくわけだね、だからモンタージュが存在しない。こういう試みはほかの作品でもあった気がするけど、作品としてはこの映画がダントツに素晴らしい」と評している(映画批評誌「NOBODY issue」45号)。全編が主人公ブレア(シェリー・ヘニッヒ)が使っているPCの画面内で展開されるため、大きなひとつの画面の中に様々なウィンドウが出現するわけだが、その操作のすべてを行うのは彼女だ。そのため、私たちはブレアが行うタイピングひとつひとつやマウスの微細な動きなどから彼女個人のプライベートはもとより、その思考のプロセスに直接触れているような錯覚にもとらわれる。この試みは、POV映画のひとつの新たな可能性といえるだろう。

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 恐怖はちょうど一年前、学校の校庭で拳銃自殺して亡くなったはずの友人ローラ・バーンズ(ヘザー・ソッサマン)がSkype上に現れたことからはじまっていく。当初はローラを装った何者かによるネット空間へのいたずら的な侵入かと思っていたが、それはネットいじめの被害者であった彼女の恨みが実体なき<幽霊>かのように増幅し、ブレアたち6人に襲いかかってきたものである。ソーシャルメディアを前面に打ち出した表現方法と、心霊がもたらす恐怖表現とがここでは効果的に結びついている。ローラのオンライン空間への降霊は、スカイプで会話をしているブレアらの虚飾を剥ぎ、彼らを疑心暗鬼に陥らせていく。

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