『ONE PIECE FILM GOLD』が描く世界の複雑さと、ルフィたちのシンプルな輝き
具体的にその重たい命題を背負っているのはルフィたちではなく、敵役のテゾーロだ。テゾーロは貧困ゆえに大切な人を何度も失い、拝金主義の権化と成り果てた男だが、その詳細は作中では多くは言及されない。しかし、尾田氏はテゾーロの人生について、A4用紙7枚にびっしりと書いたという。その理由を、本作のプロデューサーである東映アニメーションの櫻田博之氏、尾田氏自身は以下のように語っている。
設定を生かしてしまうとテゾーロの映画になってしまう。尾田さんはブレない。あくまでも、ルフィたちの活躍を描きたいんです。(参考:映画「ワンピース」原作者・尾田氏のヤバ過ぎる本気度…膨大作業で異例の関わり/芸能/デイリースポーツ online)
ルフィたちはテゾーロの悲劇を知ることなく戦いを終える。ルフィたちにとってテゾーロは、金で人々を縛り付ける、ルフィの言葉で言えば「大嫌いな奴にそっくり」な奴だ。しかし観客だけはテゾーロの事情を知っている。ワンピースの世界にも、金で苦労することがあり、金によって人生を狂わされる人がいる。それは現実世界にも多く起こるだけに、ただの悪党が倒されたという感慨以外の感情が去来するだろう。「お祭り」であるが故に、そうした暗さは全面に出すことはないが、しっかりと内包されている。
ワンピースの世界は、現実同様、一筋縄ではいかない問題を数多く内包し、世界観を拡大させ続けている。対照的にルフィたちの行動動機は一貫してシンプルだ。ルフィの「この海で一番自由な奴が海賊王だ」(原作52巻 第507話)の台詞が示す通り、今作も原作と同じく、彼らは自由というお金で測れないもののために戦う。世界が複雑さを増せばますほど、ルフィたちのシンプルさは輝くのだ。映画を観る我々の社会も、日々複雑さを増している。何者にも絡め取られないルフィたちの生き方は、黄金以上に眩しく見える。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■公開情報
『ONE PIECE FILM GOLD』
公開中
原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎(集英社 週刊「少年ジャンプ」連載)
監督:宮元宏彰
脚本:黒岩勉
音楽:林ゆうき
劇中曲:小島麻由美
キャラクターデザイン・総作画監督:佐藤雅将
美術監督:小倉一男
美術設定:須江信人
色彩設計:永井留美子
CGディレクター:能沢諭
撮影監督:和田尚之
製作担当:稲垣哲雄
出演:田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー、山路和弘
ゲスト声優:満島ひかり、濱田岳、菜々緒、ケンドーコバヤシ、北大路欣也
主題歌:「怒りをくれよ」GLIM SPANKY(ユニバーサル ミュージック)
(c)尾田栄一郎/2016「ワンピース」製作委員会
公式サイト:www.onepiece-film2016.com