ヒッチコックからイーライ・ロスへ 『ノック・ノック』とヴィジット・スリラーの系譜

スリラーの系譜と『ノック・ノック』

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 本作は、映画『メイク・アップ』(1977)(『メイク・アップ 狂気の3P』としてソフトがリリースされている)を基にしている、じつはかなり忠実なリメイク作である。だが大きく違うのは、クライマックスでキアヌ・リーヴス演じるエヴァンが、度重なる拷問によって精神が限界に達し、紳士的な態度をかなぐり捨てて女性蔑視的な本音を吐露する、ショッキングなシーンが加えられているところだ。この瞬間だけ、加害者と被害者の立場が一瞬入れ替わってしまう。ユーモアがふんだんに散りばめられ、笑いながら見ることもできる本作だが、この描写については、無残なキアヌの姿にやはり少し笑ってしまうものの、背筋を凍らせるスリラーとして真に上質だ。ここに至って、キアヌのような清廉潔白なイメージの俳優を、このような役にキャスティングした意図が分かってくる。

 これまでのイーライ・ロス監督作に共通する特徴は、善人ぶった人間が極限状態で本性を現すという姿の描写である。一見すると、ロス監督の作風は、社会活動や女性の権利などをむやみに茶化しているように見える。だが、このようなシーンを見るにつけ、社会問題に対する、彼の意外に真面目な視点がうかがえるのは面白い(ロス監督本人は断固否定するかもしれないが)。またラストの改変も女性への配慮が感じられる、より痛快なものになっており、男が「不倫のこわさ」を味わうという、リメイク元の作品で描かれた寓話的な枠組みを脱し、はるかに現代的なものになっているといえる。このあたりは、過激な差別的ギャグで逆説的に差別を糾弾する、『テッド』のセス・マクファーレン監督のアプローチにも近いといえるだろう。

 忘れるところだったが、「ヴィジット・スリラー」ジャンルで、現在最も才覚を発揮しているひとりが、ハリウッド版『DEATH NOTE』を製作中の新鋭、アダム・ウィンガード監督である。『サプライズ』や、とくにカルト作として話題を集めた『ザ・ゲスト』は、スリラーを新しい世界に進ませる先鋭的な傑作だ。イーライ・ロス監督とともに、彼の作品も是非チェックして欲しい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ノック・ノック』
6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
監督:イーライ・ロス
脚本:イーライ・ロス、ギレルモ・アモエド、ニコラス・ロペス
出演:キアヌ・リーブス、ロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマスほか
配給:日活
2015/アメリカ/99分/シネスコ/デジタル/原題:Knock Knock
(c)2014 Camp Grey Productions LLC
公式サイト:http://knockknock-movie.jp/

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