昭和を代表する大女優・原節子を訪ねてーー川喜多映画記念館が伝える、誇り高き女優像
そのいわばホームの地での会は、映画女優・原節子を感じられる品々であふれている。館内に一歩足を踏み入れるとまず目に飛び込んでくるのが、天井近くの壁に飾られた昔なつかしい立て看板用の大型ポスターの数々。これだけで実際に体験したことはないが、どこか戦前から戦後にかけての日本映画黄金期にちょっとタイムスリップしたような気分が味わえる。
今回の企画展は、こういった出演作のポスターや映画関連の写真が主体。数々の出演作を通して、原節子の映画人生をたどる内容だ。ところどころには、小津監督をはじめ、彼女とタッグを組んだ監督たちが雑誌や新聞などのインタビューに答えた“女優・原節子”評のコメントをパネルで紹介。これは良く知られることだが、“大根役者”と言い切った監督もいれば、小津監督のように彼女の演技に魅了された監督もいて、なかなか忌憚のないコメントが並んでいて、これらの言葉に目を通すだけでもなかなか面白い。そのコメントからは、同時に名だたる監督たちが、原節子という女優に何を見出していたのかも垣間見えるといっていい。一方で、原自身の作品や役へのコメントもいくつかパネルで紹介されており、それも合わせてみると、原節子がどう女優としてどのように開花して成長していったのかも見えてくる。
また、今回の企画展でもいくつか展示されているが、新聞社のインタビューや映画雑誌の本人の手記など、女優として活動していた期間に関しては、原節子の言葉がけっこう残されている。そこでは、監督と対立したことや自身の結婚観といったことをけっこう包み隠さず語っている。その言葉の数々からは、ある意味、女優をきっぱり辞め、その後、公の場に一切出なかったという原節子の肖像、そしてその生き方が見えてくる。今回の企画展で原節子に興味をもった人は、「原節子 伝説の女優」(千葉信夫著)などあるので、彼女の言葉をたどってみるのも一考。女優というよりひとつ何かを成し遂げた誇り高き女性の自画像が見えてくるはずだ。
このように女優・原節子の足跡が辿れる本展だが、その中でもひときわ目を引く、いわば大きな見どころといえるのは、写真家・秋山庄太郎氏による原を収めた貴重なポートレートだ。公私ともに親交のあったという秋山氏が撮影したポートレートは女優というより、ひとりの女性としての原節子が写っているかのよう。シンプルで飾り気のない自然体の原の姿が収められている。中には、愛犬とともにパンツルックで収まった、ほんとうにプライベートなショットもあり、これには原節子を古くから知る人も大いに驚くだろう。このフォトは必見といっていい。また、個人的に目に止まったのが、東宝カレンダー。三船敏郎ら当時、東宝所属の銀幕スターが揃い、その月ごとの顔になっているのだが、これがなかなか今ではちょっと考えられない背景をバックに撮られていて、ある意味、シュール。どんなコンセプトで撮られたものなのかちょっと想像がつかないものもあったりして、1ページ、1ページとみていくと思わぬ発見があるのでチェックしてみてほしい。
そして、同館では特別展とともに原節子出演作品の映画上映も現在実施中だ。今後は、小津安二郎監督の『麦秋』『晩春』『東京物語』、黒澤明監督の『白痴』、豊田四郎監督の『風ふたゝび』、熊谷久虎監督の『智惠子抄』などの上映される。なお、5月27日(金)13:30~は、『晩春』『麦秋』『東京物語』で原節子が演じた紀子を通して、小津監督の戦後を紐解いた『紀子 小津安二郎の戦後』の著者である黒田博氏をゲストに迎えてのトークイベント付き『晩春』上映会が開催される。
この機会に、女優・原節子の魅力に触れてみてはいかがだろうか?
(文=水上賢治)
■展覧会情報
『特別展:鎌倉の映画人 映画女優 原節子』
場所:鎌倉市川喜多映画記念館
日程:2016年3月18日(金)~7月10日(日)
[特別展観覧料金 ( )内は団体20名以上]
一般300円(210)円 小・中学生150円(105)円
[映画鑑賞料金]
一般1000円 小・中学生500円
詳しくはホームページにて:http://www.kamakura-kawakita.org/exhibition/lecture/