山田洋次監督は“熟年離婚”にまつわる喜劇をどう描いた? 『家族はつらいよ』が伝えるメッセージ

『家族はつらいよ』が伝えるもの

 考えてみれば家族とは不思議なもので、自分が生まれた時にはすでに、父や母が家族として存在していたが、そもそもは父と母は他人同士なのである。構図としては、そこに私という存在が生まれることによって、父と母の血を私が半々受け継ぎ、二人を繋ぐ。そしてそこからまた他人が結びついて、新たな家族という形を成していく。しかし一緒に暮らすうちに、家族とは他人からの派生だという構図も、いつの間にか忘れてしまう。そして感謝すべきことでさえも、悲しいかな、当たり前に変わってしまう。ただその感謝の言葉、たった一言を聞いた瞬間、全てが許せ、報われてしまうのも、家族として生きて来た様々な想いがあるからこそ、なのかもしれない。

 周造は部屋で、小津安二郎の東京物語を見ている。部屋に戻った妻に、サインした離婚届を渡そうと準備している。笠智衆演じる周吉が、テレビの中でつぶやく。「妙なもんじゃ。自分が育てた子供より、いわば他人のあんたの方が、よっぽどわしらにようしてくれた。いやあ、ありがとう」そこには、すべての夫婦の縮図が集約されているのかもしれない。感謝を口に出して伝えることの大切さ。

 笑って笑って、そして最後にじーんと来る、そんな映画である。

 そして、この憎たらしく、口の悪い父・周造が、俯瞰レンズを通して見ると、なぜかとても愛らしく見えて来てしまうのが不思議でならない。

■大塚 シノブ
5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。以来、中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動。日本人初として、中国ファッション誌表紙、香港化粧品キャラクター、シンガポールドラマ主演で抜擢。現在は芸能の他、アジア関連の活動なども行い、枠にとらわれない活動を目指す。
ブログ:https://otsukashinobu5.wordpress.com/

■作品情報
『家族はつらいよ』
2016年3月12日 全国ロードショー
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、小林稔侍、風吹ジュン、中村鷹之資、丸山歩夢、笹野高史、木場勝己、笑福亭鶴瓶(特別出演)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次・平松恵美子
音楽:久石譲
撮影:近森眞史
美術:倉田智子
照明:渡邊孝一
編集:石井巌
録音:岸田和美
プロデューサー:深澤宏
製作:「家族はつらいよ」製作委員会 制作・配給:松竹株式会社
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
http://kazoku-tsuraiyo.jp/

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