2015年映画興行成績の実態は? 松谷創一郎 × 宇野維正が徹底検証

宇野「残念ながら映画批評は機能していない」

宇野:洋画については、昨年これだけいい数字が出たのは洋画ファンとして嬉しかったけれど、大ヒットシリーズの続編やリメイクが2015年に集中することは数年前からわかっていたことなので、まぁそれに応じた結果が出たかな、と。ただ、今年が昨年よりシェアを拡大するかというと、それは相当難しいと思います。ジブリがなくなったのと歩調を合わせるかのように、ピクサーの作品も精度が落ちてきているようにも思うし。『ベイマックス』や『アナと雪の女王』みたいな作品が出て来れば、もちろん数字も変わってくるんだろうけれど、そういう機運も今のところあまり感じられない。海外では相変わらずアメコミ映画全盛期で、『デッドプール』が特大ヒットとなって、『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』と『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でさらに盛り上がるんでしょうけれど、日本でどこまでいくか。『アントマン』のような続編ものではない作品でもようやく10億を超えたように、ちょっとずつ裾野が広がってはいるんですけど。

松谷:日本ではたぶん、マーベルはそれほど盛り上がらないですよね。一方で、去年は『ジュラシック・ワールド』が大ヒットしたように、アトラクション元年といってもいいほど、MX4Dのような新規格が盛り上がったじゃないですか。ここでまたNetflixの話が絡んでくるんですけれど、要は自宅のテレビでも気軽に高画質、大画面で映画が観られるようになったことで、映画館に足を運ぶ理由が改めて問われていることの現れでもあると思うんです。そう考えると、たとえば『俺物語!!』のような作品を映画館で観る意味は、果たしてどれだけあるのかと。

宇野:そういう事情を踏まえて、映画業界もbonoboみたいな配信サービスを始めていますよね。新作についても、劇場との同時配信はさすがにまだ先の話だと思いますが、早めに出していく方向に確実に進んでいくでしょう。ただ、アメリカでNetflixがオリジナル作品の『BEASTS OF NO NATION』を劇場で公開しようとしたら、映画館運営会社が上映をボイコットしたみたいに、やっぱり配給と興行は利害が対立することは避けられない。配給側の本音としては、もう公開日にでも配信したいでしょうが、そうなると映画館は潰れてしまいますからね。

松谷:たぶん、配給会社が「映画館は潰れてもいいや」、と思うタイミングがきたら、公開と同時配信しますよね。でも、日本の場合は配給と興行が同じ資本であるケースが多いので、そんなに簡単にはいかないと思いますが。

宇野:いずれにせよ、ネットの力がこれだけ大きくなって人々の嗜好が多様化して、自宅でも簡単に映画が観られるという状況になると、ヒットを狙うにはわかりやすい超大作を作るか、あとはインディーズ作品を細々と作るかという状況になってくる。そうなると、全体の数字は落ちていないんだけれど、中ヒットがなくなります。昨年の洋画のランキングは、まさに超大作ばかり。デヴィッド・フィンチャーやスティーブン・ソダーバーグといった監督は、そういった現在の映画状況を悲観して、テレビの方に流れてしまったわけで。

松谷:でも、日本の映画興行におけるメガヒット率(※図2)を見てもらうと、実はあまり変わっていないんですよ。20億円台とか10億円台の作品が結構あります。シネコンが主流になって、大ヒットと小ヒットが分かれる傾向っていうのはあるんですけど、邦画に限れば満遍なく10億から30億くらいまであるんです。

宇野:一方、『アメリカン・スナイパー』が22.5億で、あれだけ騒がれた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が18億……。アメリカで大ヒットした作品でも日本では中規模ヒットになって、アメリカで中規模ヒットとなった作品はまだ日本ではなんとか公開されているものの、おそろしいことに、中規模のヒットにさえ届かなかった作品はもう公開すらされなくなるかもしれないってことなんですよね。コメディ映画とかを中心に、これまでも日本公開が見送られることは少なくありませんでしたが、それが全ジャンルに及んできている。これは大問題です。

松谷:シネコンだと、一週目で当たらなかったものはすぐに公開しなくなるので、伸びにくくなるという傾向は強まったと思います。

宇野:でも『ミニオンズ』シリーズなんかは12億、25億、50億と興行収入が倍々で増えている。『ワイルド・スピード SKY MISSION』も地方にお客さんが入るようになって、35億に乗っかったわけです。だから、シリーズを育てるという面でいうと、まだ日本の洋画界は機能しているといえるかもしれない。ただ、大変残念ながら批評は機能していないですね。シリーズものであれば、『テッド2』や『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のように向こうでコケたものでも当たっているのが現状で、それは誰も専門家の批評なんて気にもとめてないし、そもそも日本ではちゃんとした批評がほとんど書かれていないということだと思います。その逆もあって、たとえば『007』シリーズでいうと、2012年の『007 スカイフォール』はその前作の『007 慰めの報酬』から、世界中のほとんどの国で興行収入が2倍以上になったんですよ。これは作品の中身が評価されて爆発したわけだけど、日本では前作から微増しただけでした。これもつまり、批評が届いていないということの証拠で。

松谷:映画研究者のアーロン・ジェローが歴史を踏まえて指摘したように、日本の映画評論は面白いかどうかという感想ばかりですからね。例えば、Rotten Tomatoesみたいな人々の評価を集計する批評サイトがあると、多少は変わるのかなと。

宇野:日本にもいくつかレビューサイトがありますが、自分はそこには懐疑的です。こういう映画サイトをやっている身としては、粛々と真っ当な批評をサイトにアップしていくしかないとしか言えませんね。放っておくと5000万の興収しか稼げない映画を、せめて2億くらいにする、そのくらいの力はまだあると信じて。

松谷:そうですね。そういう意味で『マッドマックス』は、悪い数字じゃないと思うけれど……。

宇野:でも、あれだけロングランして18億だから。『テッド2』とか『ターミネーター:新起動/ジェニシス』にも全然負けているんですよ。せめて30億くらいはいってほしかったな。

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