広末涼子はいかにして“母親”を演じたか 『はなちゃんのみそ汁』に見る、女優としての現在地

広末涼子、女優としての現在地

 広末涼子を初めて見たのはデビューから間もない、1995年、クレアラシルのCMだった。当時15歳、キラキラした笑顔が印象的な活発で爽やかな女の子というイメージをもった。彼女と同世代にその存在について聞くと、男女ともに「ヒロスエ」とクラスメイトのように親しみを持って呼び、かつ1度は憧れを抱いた人が実に多い。これまでのつくられたアイドル像ではなく、存在そのものがオリジナルの魅力となり「ヒロスエ」は瞬く間に多数のCMやドラマ、映画に起用され、お茶の間の人気者となった。

 スクリーンデビューは1997年、『20世紀ノスタルジア』で映画製作に魅了されていく女子高生、遠山杏を演じ、日本アカデミー賞をはじめ数々の新人賞を総なめにした。以降、2015年現在に至るまでほぼ毎年、映画作品に出演し続けている。1999年『秘密』では事故で亡くした母の魂を宿しながら生きる娘の杉田藻奈美、同年『鉄道員』では主人公である駅長・佐藤乙松の一人娘の化身である佐藤雪子、2008年『おくりびと』では納棺師小林大悟の妻である小林美香…と出演作品とリンクしながら少女から大人の女性、そして、女優としてもその成長を見せ続けてくれている。

 そして最新作『はなちゃんのみそ汁』では、闘病の末、5歳の娘と夫を残しがんにより33歳の若さでこの世を去った安武千恵という女性を演じた。

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 今作は、がん闘病中に千恵が立ち上げたブログ『早寝早起き玄米生活』をもとに夫、安武信吾が2012年に描いた実話エッセイを映画化したものだ。発売直後からベストセラーとなり、多くのメディアに注目され、テレビの情報番組をはじめ、2014年にはテレビドラマ化、2015年には娘である安武はなの作文『ママとの約束』が小学校2年生の道徳の教科書に採用されるなど、社会的現象にまで至った。しかし、世間の注目が集まるということは、さまざまな評価を受けることにもつながる。本作においても想像に難くなく、「がん闘病」、「治療」、「自然食」「子育て」など、さまざまなキーワードを切り口とし、一部では、厳しく評されたこともあった。

 今回、映画化するにあたり阿久根監督は、ブログ『早寝早起き玄米生活』を読み込み、夫の信吾氏と面会を重ねた。がんと隣り合わせで生きた千恵と闘病を支える夫と娘、そしてたどり着いた「ちゃんと作る、ちゃんと食べる」という安武家を支えたモットーのもと、自虐すらいとわず貪欲に笑いを求め、最期まで明るく前向きだった千恵の意志に添うべく、これまでの作品に対する既成概念を払拭した。声楽を学んだ彼女のライフワークでもあった「歌を歌うこと」と、生きている間に娘にどうしても託したかった「みそ汁をつくること」を主軸にし、安武家の去りゆくもの、残されていくものの「約束の物語」として描くことを決心したという。

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