『テッド2』お下劣ギャグと人権問題の意外な関係とは? 過激な表現の意図を読む
テッドは「人間」か、「所有物」か。
さて、続編である『テッド2』では、さらに新たなテーマを設定している。それが、テッドの人権問題である。ぬいぐるみでありながら、仕事の同僚であるスーパー・マーケットの看板娘と結婚したテッドは、倦怠期を迎え、養子を見つけようと画策する。しかし役所では、テッドは「人間」でなく「所有物」であると結論づけられ、養子を迎えることを拒否されてしまう。ジョンとテッドは、弁護士見習いである若い大麻好きの女性(アマンダ・セイフライド)を仲間に加え、物語は意外にも法廷での闘いに焦点が移っていく。ただ、そこはやはり「テッド」。作戦を練るために法律図書館に行ったところまではいいものの、三人はそこでやはり大麻を吸いまくりハイな状態で青春ミュージカル映画『ブレックファスト・クラブ』風のダンスを踊ったりするだけだ。全く勝てる気がしない。
劇中でちらっと名前が出るが、この法廷劇は、約150年前にアメリカで実際に起きた、「ドレッド・スコット判決」を基にしている。言うまでもないが、アメリカ白人の商売人達は、かつて南部を中心に、アフリカから連れてきた黒人を強制的に働かせ、利益を得ていた歴史がある。ドレッド・スコットは南部の黒人奴隷であったが、奴隷制のない州に行った際、自分が奴隷であることは違法であると裁判所に訴えた。だが裁判所は、黒人は「人間」ではなく「所有物」なので、そもそも裁判所に提訴する権利自体がないと判決を出した。しかし、アメリカ国民の間でこの判決は問題となり、それがきっかけで、人権派であったリンカーンが台頭し、奴隷制を廃止する展開になったのだ。つまり、この裁判は奴隷解放を生む歴史の転換点になったのである。
劇中の裁判では、「テッドに魂があるか」ということが重要な点として争われる。奴隷解放前のアメリカでは、大学教授などの南部の知識人が、「黒人は魂を持たない」という考えを広めていた。アメリカ人の多くが信仰するキリスト教では、「異なる人種も、男も女も、奴隷も自由な人も、全ての人は神の下で皆平等である」とされている。しかし、黒人は家畜と同じく魂を持たないので、奴隷ビジネスをしても問題ないというのだ。もちろん、現在ではそのような判決も理論も間違いとされているが、性別や人種などに対する差別や偏見は、いまも世界中に根強く残っている。セス・マクファーレンはそのような考えを許さない。全てのものをバカにして笑うために、全てが平等でなくてはならないのだ。テッドやジョンを含め、劇中のおバカなキャラクター達は、ビジネスのため差別意識を振りまくような大人の「知識人」などよりも、はるかに知的で公平に描かれている。そう考えると、「テッド」のキャラクター達が、より愛おしく感じられないだろうか。
テッドは果たして、人間と認められるのか。裁判の行方は映画を観てもらうとして、『テッド2』のようなお下劣な映画で、真面目に人権問題をテーマになどしなくてもいいじゃないかと思われる人もいるかもしれない。だが、このような作品をクリエイターが作り続け、我々観客が楽しむことができるのも、劇中でその重要性が強調されている基本的人権において、言論の自由や表現の自由が保障されているおかげなのだ。上からの規制や周囲の圧力によって、日々その問題に直面しているのは、「テッド」のような作品に携わるクリエイターなのである。我々観客もそれに応え、お下劣ギャグを楽しむ人権を行使する自由にひたりながら、『テッド2』に大笑いしたい。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『テッド2』(原題:『Ted2』、北米公開6月26日)
監督:セス・マクファーレン
脚本:セス・マクファーレン、アレック・サルキン
出演者:マーク・ウォールバーグ、アマンダ・セイフライド、モーガン・フリーマン 他
(C) Universal Pic tures.
写真:Iloura/Universal Pictures and Media Rights Capital
レイティング:R15+
公式サイト:http://ted-movie.jp/
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