【書店ルポ】北海道編 大型店奮闘も名物本屋閉店や新商業施設への出店なし……先行き不透明をどう打開?

■外国人が支える観光地は活況

JR札幌駅。高層ビルはJRタワー。北海道新幹線が開業予定のため、再開発が進む。

 羽田空港から飛行機に乗って、北海道の玄関口、新千歳空港に2年ぶりに降り立つと、景色が一変していた。コロナ騒動の様々な規制が緩和された影響だろう、新千歳空港にはとにかく外国人の姿が多いのだ。その後に、札幌、小樽、富良野などの観光地を訪問したところ、とにかくどこでも外国人に出会う。

「ジュンク堂」は開業15年を迎え、地域に根差しつつある。

  北海道の経済は、外国人観光客によって支えられつつあると言っていい。その筆頭がニセコだろう。筆者はまだ訪れていないのだが、過去にはルイ・ヴィトンのポップアップショップが期間限定で開店したり、リゾートホテルのリッツ・カールトン・リザーブではハンバーガーの値段が“9600円”になっていたりと、異世界のようだ。独自の経済圏ができていると言っていいほど、活況のようである。

「ジュンク堂」周辺にはブックオフやアニメイトなどもある。

 インバウンドの勢いは様々な分野に及んでいるようだ。札幌のルイ・ヴィトンの店舗やブランド品の中古販売ショップなどに足を運んだところ、外国人がパテックフィリップやロレックスなどの時計を買い漁っている光景が見られた。一時期銀座に多かった転売目的のバイヤーとは異なる雰囲気で、観光に訪れたついでに高級品を買い求めようとしているのであろう。なんともリッチな旅行だと思う。

  その一方で、主に日本人によって買い支えられている書店業界は、苦境に陥っていると言わざるを得ない。北海道在住の友人に話を聞くと、札幌以外の地方では、ひっそりと中小の書店が閉店する事例が多いようだ。そして、比較的安泰とみられていた札幌近郊の書店も営業を終えるケースが目立っているという。

■島本和彦経営の書店閉店の衝撃

 北海道の書店に関する話題で、ネットでたびたび話題になった事例といえば、2024年1月31日、漫画家の島本和彦が経営していた「TSUTAYAサーモンパーク店」と「アカシア書房ちとせモール店」の閉店であった。いずれも所在地は千歳市であり、新千歳空港からも車でアクセスしやすい立地であった。

  島本が経営していた書店は、札幌郊外、道央道札幌インターチェンジ近くの「TSUTAYA 札幌インター店」もあったが、こちらはコロナ騒動の真っただ中である2020年11月8日にも閉店している。もともと1996年に島本の父が始めた店であったが、後に島本が社長に就任。青山剛昌、あだち充、藤田和日郎などのサインが壁面に描かれた店内は漫画ファンの聖地となっていた。

  島本は、メディアの取材に、「本が売れなくなっていることやDVDなどレンタル市場も厳しい状況になっており、採算が合わない状況が続いていた」と苦しい心境を語り、「2018年の北海道胆振東部地震で店舗補修費用がかさみ、投資負担を少しでも回収するために閉店時期を延ばしていたが、それも限界に達した」と回答している。

  本は電子書籍の普及で売れなくなっているし、DVDなどのレンタル事業はコロナ騒動の巣ごもり需要で爆発的に契約者が増えたNET FLIXなどのサブスクによって、市場が急激に縮小している。島本はカリスマ的な人気のある漫画家であり、筆者の知人は今回の閉店を惜しんでわざわざ東京から北海道まで足を延ばしたという。しかし、ファンの需要だけでは支えきれないほど、書店のニーズが減少している事態が浮き彫りになったといえる。

■札幌の書店は大型店が中心に

JR札幌駅前の百貨店、大丸。その傍(写真左)に「紀伊國屋書店 札幌本店」がある。今や札幌駅前唯一の大型書店。

 札幌の中小書店はいつの間にか消滅しており、いわゆる大型店が中心になりつつある。この状況は他の政令指定都市とほとんど変わらないように思える。主要な書店として、まず、数年後に北海道新幹線がやってくるJR札幌駅前、大丸の横に「紀伊國屋書店 札幌本店」がある。また、大通公園の近くには「MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店」がある。この2店が札幌の大型書店の中核といったところだろう。「ジュンク堂」の近くにはアニメイトなどのアニメ系のショップが入ったビルがあり、相乗効果はありそうだ。

大通公園の傍にある「MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店」。

 札幌最大の歓楽街であるススキノには、いわゆるニッカウヰスキーの看板で有名な「すすきのビル」の向かいに、2023年11月30日、東急不動産などが主導して開発した商業施設「COCONO SUSUKINO」が開店した。しかし、施設には「TOHOシネマズすすきの」などの映画館は入ったが、書店が入店しなかった。一昔前であれば、再開発で誕生する商業施設には書店が入るのが鉄板だったが、最初から入らないパターンが増えているようで、書店の集客力低下を感じずにはいられない。

札幌最大の繁華街であるススキノ。
ススキノの再開発で誕生した「COCONO SUSUKINO」。
「まんだらけ」などの中古アニメショップが入るビル。

  道内の経済は札幌が事実上独り勝ちと言っていい状況にあり、小樽、ニセコ、富良野などの世界的に知名度のある観光地がそれに続いているといったところだろうか。道内を取材で回っていると感じることだが、札幌など一部の観光地を除けば、駅前や中心市街地が訪問するたびに衰退している印象を受けるのが残念だ。釧路駅や稚内駅などは気の毒になってしまうほどで、札幌と旭川の間にある深川駅、滝川駅などの駅前は特急が頻繁に停車し、札幌圏へのアクセスが便利な位置にあるのに衰退が著しい。

  北海道出身の漫画家は多く、『はいからさんが通る』『あさきゆめみし』の作者の漫画家・大和和紀らを発起人として、ゆかりの漫画家が連携して「北海道マンガミュージアム構想」が推進されている。非常に夢のある企画だし、新たな観光の名所が誕生しそうな勢いだ。しかし、せっかく漫画の新たな聖地が誕生しそうなのに、書店が少なくなっているのは悲しい。流れを受けて、書店業界も盛り上がって欲しいものであるが……。

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