『すずめの戸締まり』の映像企画会社STORYがDMMグループCLLENNと縦読み漫画制作のなぜ キーパーソンが語る挑戦と展望

『すずめの戸締まり』の映像企画会社STORYがDMMグループCLLENNと縦読み漫画制作のなぜ キーパーソンが語る挑戦と展望

 近年、異業種から漫画の制作に進出する企業が相次いでいる。特に、『すずめの戸締まり』など、これまで数々の映像作品の制作を行ってきたSTORY inc.(以下STORY)は、そのノウハウを生かして漫画作りに挑戦しようとしている。照準を定めるのは、急速に市場が拡大しているWebtoonなどに代表される縦読み漫画の世界だ。 

  DMMは縦読みマンガへの参入に際し、2022年にGIGATOON Studioを設立。現在は株式会社CLLENN内のレーベルGIGATOONにて縦読み漫画を制作している。今回、『レッドピルブルーゲイザー』を手掛ける、STORY inc.代表取締役の古澤佳寛氏、GIGATOON編集部の部長である株式会社CLLENNの五十嵐悠氏の2人に、縦読み漫画の展望、そして日本のコンテンツ産業が目指す方向性について話を聞いた。

なぜ、いま「縦読み漫画」なのか

左からGIGATOON編集部の部長である株式会社CLLENNの五十嵐悠氏、STORY inc.代表取締役の古澤佳寛氏。

――映像作品の制作を行ってきたSTORYが、Webtoon、すなわち縦読み漫画の制作に参画したのはなぜでしょうか?

古澤:Webtoonを試しに一度、作ってみたいと思ったのがきっかけです。今回の原作に入っている渡部辰城さんは脚本家もしている方なのですが、彼とシリーズドラマの企画のやりとりをしていました。そのなかで、映像にするのは難しいものの、違った形でこの物語を届ける方法はないか――。そう考えたときに、Webtoonでやってみたいとなったのです。

  Webtoonは新しいメディアで、スマホを通じて世界中の人に見てもらえます。渡部さんが脚本を手掛けた『今際の国のアリス』は日本発の漫画原作ドラマとしてNetflixで人気が高いです。一方『梨泰院(イテウォン)クラス』はWebtoon原作で韓国発のドラマとしてヒットしていて、日本でも、このフォーマットに乗せて作品を作ってヒットすれば、次は映像を制作できるのではと思いました。

――五十嵐さんはどのような形で関与しているのでしょうか。

五十嵐:あくまでも実際の制作はSTORYさんや原作者の方で、私たちは製作委員会のような形でCLLENN内のGIGATOONという縦読み漫画のレーベルとして参画しています。弊社ではこれまでに縦読み漫画を30作品以上世に送り出しており、Webtoonに関するノウハウが蓄積されているため、それをもとにSTORYさんにフィードバックさせていただきました。以前から、Webtoonの座組で何か制作できないかと、ふわっとした構想はあったんですよ。それに対し古澤さんが前向きだったので、形になったといえます。

市場規模が拡大する縦読み漫画の世界

――縦読み漫画の市場規模、盛り上がりが近年加速している印象です。今後の可能性についてどのようにお考えでしょうか。

五十嵐:昨年度だけで、電子コミック市場の約10%がWebtoonなどの縦スクロール漫画でした(参照:https://research.impress.co.jp/topics/list/ebook/673)。右肩上がりで市場規模が拡大しています。2020~21年にはWebtoonに関するニュースが明らかに増えましたし、ピッコマで配信された『俺だけレベルアップの件』の月間販売金額は月1億円を超えて話題になりました。これを機に、漫画に縁のなかった企業も参画するようになり、ますます市場規模が拡大しています。

古澤:Webtoonはご存知の通り、韓国が最先端を走っています。日本は従来から横読みの漫画が強いですし、現状、アニメ化される漫画は横読みがほとんど。韓国はそういった土壌がそこまでなかったので、縦読みが一気に流行ったわけです。

――五十嵐さんは長らく出版社に勤務され、紙の雑誌の現場におられたのち、GIGATOON Studio(現在は株式会社CLLENN)に移籍しました。紙を手掛けた経験から見た縦読み漫画の魅力はなんでしょうか。

五十嵐:Webtoonは第一にマーケットインで制作された作品が多いですね。Webtoonが発表されるLINEマンガやピッコマのプラットフォームは、マーケットインで制作するうえで本当に優れているんですよ。一方で、紙媒体のようにコンテンツそのものの魅力でヒットに繋がった作品が、まだまだWebtoonの市場には足りていないんですね。STORYさんと協業するのであれば、頭一つ突き出たものを作り、市場の拡大に貢献していきたいですね。

――STORYの社内でも期待は大きいのではないでしょうか。

古澤:いえ、社内ではそれほど大事に捉えられていません(笑)。僕だけでやっている社長の単独プロジェクトです。何しろ、社員が12人しかいませんから。映像は一本制作するのに時間もお金もかかり、ハードルが高い。それなら一度Webtoonでやってみようという感覚です。従来のWebtoonのヒットジャンルからすれば異色の作品ではないかと思います。

  ヒットしているジャンルの枠組みで制作するのではなく、オリジナルとして純粋に面白いと感じるものを作りたいと思っています。STORYのメンバーで『君の名は。』を作った時にも、その後ジャンルとして似たような映画がたくさんあったのですが、中々ヒットは難しく、お客さんはまた新しい切り口で面白いものを求めているんだと感じていました。

縦読み漫画は新たな表現を開拓した

――縦読み漫画だからこそ可能な表現、魅力について教えてください。

五十嵐:Webtoonは、スマートフォンというプラットフォームに、本当によくマッチしています。今や、漫画を読むユーザーはスマホで読む体験が多くなっていますし、学生は漫画をスマホで読むことが当たり前になっています。あと、アプリで読む、無料が当たり前というのも特徴でしょうね。30代もWEBで漫画を読む層が増えていますが、彼らは書店で紙の本を買う流れを体験している人が多い。しかし、電子書籍が出てきてからは電子書店、さらにアプリを使い、無料で読むのが普通の感覚になりつつあります。

  表現としてはシンプルな作りでありながら、フルカラーで、縦に能動的にスワイプして読んでいける点が魅力です。横読みの漫画って、100%能動的に読めるんですよ。対して、映像って受動的じゃないですか。映像と紙の漫画の中間に位置するのがWebtoonです。市場規模の拡大とともに演出手法も凄い勢いで開発され、進化しています。

――今回の漫画はSNSがテーマですが、現状で縦読み漫画と親和性が高いジャンルなどはございますか。

五十嵐:極端に親和性が高いものはないと思いますが、縦読み漫画は基本的にスマホで読むために作られているので、スマホの中で起きている出来事の方が親和性は高いという傾向はあるかもしれません。逆に親和性の低いジャンルとして、Webtoonは読み返しづらいので、伏線が複雑だったり、キャラが多いなどの複雑な物語は向いていなかったりします。しかし、『レッドピルブルーゲイザー』は敢えて伏線を複雑にしています。極論ですが、読者は面白ければどんな作品だって読むと思うんですよ。面白いものを読むときって、手間を感じないじゃないですか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「出版キーパーソン」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる