【漫画】車の「赤ちゃんが乗っています」マークにイライラ……女性の対立を描くSNS漫画が考えさせられる
――Twitterのプロフィールには「駆け出しの漫画家」とありましたが、そうとは思えない社会派作品でした。
アサノヒロ:漫画は2016年頃に漫画制作ソフトを買って、2次創作を描き始めたのが最初です。2019年に漫画家賞で入賞、2021年に女性向けの電子コミックでデビューして、30代女子の恋愛ものを7回ほど連載させてもらいました。でも自分の描きたいものを見失い、一度インディーズで模索しようと。なので駆け出しです(笑)。
――『ベイビー・イン・カー』の着想については。
アサノヒロ:実体験を散りばめました。通勤に自家用車を使っていますが、私自身も渋滞時に「赤ちゃんが乗っています」が貼られている車を見ると複雑な気分になるんですよ。でもイライラしてはいけないとも同時に思っていて。だから何のために貼られているのかを知ろうと「baby in car」を検索したら、サジェストに「baby in car むかつく」と。
なので「そう考える人が結構いるのなら、その理由を考えよう」というのが起点でした。それで分かったんです。あれに気持ちが乱されるのは、例えば渋滞している時や仕事が忙しい時とか、自分に余裕がないタイミングなんですよね。それを膨らませて描いたのが本作で、当初は青年誌に投稿するつもりで描き始めました。
――作品も終盤でムカつく理由の本質は「ベイビー・イン・カー」自体ではない、ということが浮き彫りになってきます。
アサノヒロ:現代は何か問題があると、女性が分断させられる傾向にあると感じます。本作も独身者と子持ち女性の対立から始まりますが、そこが問題じゃないという流れは描きたかったことでした。
――一方で唯一登場する男性キャラクターは頼りにならない上司ですね。
アサノヒロ:年齢的にも王子様が出てくる作品は読めないですし、描けないなと思います。だからできるだけリアリティを持たせようと描きました。男性を頼りなく表現してはいるのですが、中間管理職である彼の立場も辛いことは承知しているので、完全な悪役にはしたくありませんでしたね。
とにかく今一番興味があるのが「分断」というテーマ。それを体現しやすかったのが、女性の職場における物語でした。
――「分断」に問題意識を持っている?
アサノヒロ:そうですね。例えば先日ネットで論争になっていた、飲食店における離乳食の無償提供の件も結局は「子持ち女性/独身女性」の対立になっている。でも問題は絶対そこじゃない。
社会全体が子どもに優しかったり、独身女性が生きやすくなるべきなのに、なぜか女性同士が対立して、しかも男性が「だから結婚できないんだ」と煽っていたりすることがある。そこに疑問を持っていたので題材にして作品を作りたいなと。
――『ベイビー・イン・カー』の幕切れはそれぞれが腹を割って話しあう、という点で希望が持てるものでした。
アサノヒロ:ラストは描き始めた時は決まっておらず、行き当たりばったりで作りました。職場が劇的に変わるエンディングの方が漫画的にウケるかなとも思いましたが、しっくり来なかったですね。小さな問題が一歩前進するけど、大きな問題は解決せず終わりたいという気持ちもあり、最終的に「ちょっとだけイライラしなくなった」という着地点にしました。
――次回作や今後、描きたい漫画を教えてください。
アサノヒロ:40代の独身女性を主人公にした漫画を描こうと思っています。自分自身が漫画を描き始めるのが遅かったので、それがコンプレックスでしたが、だからこそ描けるものがあるのかもしれません。才能のなさも感じますが、日々やれるところまでやってみるつもりです。