『鋼の錬金術師』20周年で振り返る名キャラクター 女性も惚れるオリヴィエのかっこよさ
4.「有事の際には私を見捨てろ」というシーン(18巻)
18巻ではレイブン中将の件について、オリヴィエは「私が独断でやった事にする」「事が露見した場合は私に責任の全てをふっかけて私を見捨てろ」と部下を前にして言う。後の場面でも軍部上層部に対して同様のことを言っている。
「有事の際には私を見捨てろと言い含めてある」
「ブリッグズの掟は弱肉強食!!私がここでくたばろうとも、それは私が弱かっただけの事として切り捨てられる」
予測不能の事態が起こったとき、自分を切り捨てろという言葉。最終的に、命をかけてでも全責任は自分が負う、という宣言であり、これを意気に感じない部下はいないだろう。そして部下たちは、何があってもそれぞれの役割を全うしようと考える。これは卓上で議論をしているのではなく、ともに戦場で戦っているオリヴィエだからこその言葉でもあると思う。厳しくもあるが、実に合理的で、そして優しさに溢れた言葉のようにも感じる。
5.バッカニアに情けをかけるシーン(18巻)
オリヴィエは白黒と考えがはっきりとはしているものの、なんでも切り捨てているわけではない。24時間以内に戻ってこられなければ見捨てるしかない、という危険が伴う状況で、ブリッグズ地下の先遣隊捜索に出て行った側近のバッカニア。無情にも24時間を過ぎてしまうが、オリヴィエは故意に、壊れていて24時間が経過することがない時計を部下に渡しており、「見捨てるつもりなどない」ことを示していた。
バッカニアの忠誠心と、それに応えるオリヴィエの関係性の美しさ。合理的な判断に重きを置いていても、人の心は白と黒だけではないということが垣間見られる、筆者も好きなシーンのひとつだ。
こうして漫画を読み直してみると、まだまだ語りたいことは多いが、いずれにしても、オリヴィエのかっこよさはリーダーに求められる資質そのものだ。実に合理的で、リーダーとして方向性を示し、危機意識や当事者意識を常に持ち、自らも厳しく律して周囲にも徹底させる。さらに、変化を脅威に感じず、新しい発想も取り入れていく。そして、リーダーである責務を全うするのだ。
「これからこの世を背負って行く若者に今この世を背負っている大人の……我らの生き様を見せんでなんとする!」
一番好きな、オリヴィエの言葉だ。
こうして、かつて読んだ漫画を今になって読み返してみると、それぞれ違った気づきがあるかもしれない。自分が少しでもオリヴィエに近づけたかどうか、いまはまだわからないが、5年後10年後に再度読み返したときに、また違うことを感じられるような自分でありたいと思う。
■書誌情報
『鋼の錬金術師』1~27巻(ガンガンコミックス)
作者:荒川弘
出版社:スクウェア·エニックス