社会から疎外された人と猫を包み込むーー動物愛護施設「LOVE&PEACE Pray」の熱意

社会から疎外された人と猫を包み込む

「ディスレクシア」の自分が見つけた居場所

 本書に登場する人々はみな、それぞれ違った障がいや苦しみを抱えているのだが、その中でも自分と重なったのが、一般職に就き、半卒業生となった立花氏。還暦間近の彼は読み書きが困難な「ディスレクシア」や対人恐怖症、不安障害を抱えている。

 立花氏が自分は人と違うと気づいたのは、小学生の頃。読み書きができず、授業についていけなかったが当時はそれを障害だと思う人はおらず、教師には劣等生のレッテルを貼られ、クラスメイトからは暴力を伴ういじめを受けたそう。

 出席日数ギリギリで中学校を卒業してからは、家業を継ぐという名目で畑や田んぼを手伝ったが、もともと両親と折り合いが悪かったこともあり、精神的に辛い日々を送った。

 40代になると家業を継ぐことをやめ、建築関係の職に就いたが、気性の荒い親方に怒鳴られ続け、精神的に限界に。河に身を投げようと考えたが、死にきれなかった。生きるのが苦しいのに、死ぬこともできない自分に立花氏は絶望。しかし、「LOVE&PEACE Pray」で猫たちと触れ合ううちに、少しずつ「死」よりも「生」に目を向けられるようになった。全幅の信頼を寄せ、身をゆだねる猫たちが、立花氏の心を照らしたのだ。

 また、施設のスタッフや藏田氏は、これまで気づけなかった自分の良さに目を向けてくれた。人から怒鳴られ、否定され続ける人生を歩んできた彼にとって、「LOVE&PEACE Pray」は居場所になったのだ。

 自分のことは好きにはなれないけれど…と前置きしながらも、立花さんはこんな言葉を漏らす。

“まだ死ねないなあとは思います。明日も猫に会いたいから……”

 この言葉を目にし、筆者の頭に浮かんだのは19歳の自分。障がいがネックとなって就職がうまくいかず、最後の頼りだと思っていた心療内科のカウンセラーから「そんな奇妙な身体でどうして生きていられるの」と聞かれ、死にたくてたまらなかったあの頃、絶望から救ってくれたのは人ではなく、1匹の子猫だった。

 ゴミのように遺棄されていたその猫は人から裏切られたのにも関わらず、筆者を無条件に受け入れ、膝の上で眠った。その姿を見た時、誰かにとって必要な存在になれていることに、泣けてたまらなかったのだ。こんな自分でもできることがある。そう感じたから、もう少しだけ生きてみようかと思え、今に至る。

 生と死の狭間から抜け出せなくなった時は、壮大な生きる意味が欲しくなる。でも、「ただ、明日も猫に会いたいから」という理由だって、立派な生きる意味だ。立花氏と同じく、筆者もまだ自分を認められはしないけれど、それでも愛猫がいるから生きていきたいと思う。

 見過ごされ、支援の手からあぶれた命に「ひとりぼっちじゃない」と寄り添ってくれる本書。この温かさに元気を貰える人は、きっと多い。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報

『優しい手としっぽ 捨て猫と施設で働く人々のあたたかい奇跡』
著者:咲セリ
写真:カジ
出版社:オークラ出版
出版社サイト

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