『鬼滅の刃』をさらに深掘りするためにーー物語や伝説における「鬼」とは何かを考える

『鬼滅の刃』21巻

 『週刊少年ジャンプ』での連載が終了し、「鬼滅ロス」なる言葉まで生み出した吾峠呼世晴のヒット作『鬼滅の刃』だが、7月3日に発売されたコミックス第21巻の初版部数はなんと300万部(電子版を含めたシリーズ累計発行部数は8000万部突破)と、ますますその人気に拍車がかかっている。そこで今回は、同作の世界観、特に「鬼」という存在をより深く知るためにうってつけな本を2冊、紹介したいと思う(いずれも4月と5月に発売されたばかりの比較的新しい本なので、いまなら入手しやすいだろう)。

 まずは、『鬼を切る日本の名刀』(監修・小和田泰経/エイムック)。同書では、「鬼狩りの達人」として名高い伝説的な武士たちの愛刀の数々が、豊富な図版や写真とともに紹介されている。たとえば、源頼光が大江山(異説では伊吹山)の鬼・酒呑童子を切ったとされる「童子切」や、渡辺綱が女性に化けた鬼の腕を切ったという「鬼切(髭切)」、そして、藤原秀郷(俵藤太)が大蜈蚣(おおむかで)を切ったとされる「蜈蚣切」などの“実物”の写真が、B5サイズ(ものによっては見開きのB4サイズ)で多数掲載されている。

 もちろんいずれも『鬼滅の刃』のキャラクターたちが使うような異形の刀ではなく、見た目は“普通の日本刀”なのだが[注1]、平安時代や鎌倉時代に作られた「鬼を切った」という伝説を持つ名刀が、何本も現存(というかそもそも“実在”)していることに驚かされる。

[注1]ただし初期の刀は反りがない「直刀」なので、一般的な日本刀のイメージとは少々異なる形状をしているものもある。

 同書によると、「鬼」というのは、東北の蝦夷(えみし)や九州の熊襲(くまそ)のような、中央の政権に抗った地方勢力の人々のことを意味しているのだという。そしてそれだけでなく、徒党を組んで山を根城にしている盗賊のたぐいもまた、同じように「鬼」だと考えられた(なのでもしかしたら、酒呑童子というのはその種の「賊」の頭のひとりだったかもしれない)。いずれにしても、そうした“周辺”に潜(ひそ)むアウトサイダーたちと命を賭して戦ったのが平安時代の武士たちであり、彼らが「鬼」を討つために愛用したのが、刀身に反りという湾曲がある片刃の武器――日本刀だったのである。

 さて、『鬼滅の刃』の読者に注目してほしいのは、そんな武士たちの中でももっとも英雄的な存在だといっていい、源頼光と四天王(渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武)の5人だ。同書のカバーでは、彼らのことを「平安鬼切隊」と書いているが、むしろ(開き直って)「元祖・鬼殺隊」とでも書いたほうがいまならアオリ文句としては「引き」が強いかもしれない。

 要するにこの平安時代きっての鬼退治のエキスパートたちは、「主人公」の源頼光だけでなく、配下の四天王のキャラも(まるで鬼殺隊の「柱」たちのように)ことごとく立っているのだ(何しろ坂田金時は「足柄山の金太郎」というサイドストーリーを持つ怪童で、美男子の渡辺綱は光源氏のモデル、源融の子孫である)。江戸時代には源頼光と四天王の物語が講談や絵双紙になってかなりの人気を博していたというから、昔の人たちも現代の『鬼滅』ファン同様、それぞれの“推し”を見つけて盛り上がっていたのかもしれない。

 また、源頼光と四天王といえば、彼らが酒呑童子を討伐するまでを描いた「絵巻」を、漫画のコマ割りで(さらに紙を綴じた「本」の形で)再構築するという、驚くべき1冊が先ごろ出た。大塚英志・監修/山本忠宏・編『まんが訳 酒呑童子絵巻』(ちくま新書)である。

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