MIKADO『FAME FLAME』に潜む“摩擦”によって広がる炎 証明する真の成り上がり、有言実行性が生むカタルシス
ジャケットに写っている彼の片手には閃光がまたたいている。和歌山出身のラッパー MIKADOのニューアルバム『FAME FLAME』は、タイトルが示す通り“炎”のモチーフを決して手放すことはないが、ここに収められているのは、さらに原初的な蠢き、ある種の摩擦である。
全19曲に及ぶ内容は、ここ2、3年で急激に知名度を広げていったMIKADOの現在地点を十分に確認できるものになっている。これまでの人生、上がる知名度、成功とその代償、群がる偽物の友達と本当の友情、そして決して廃れることのない地元和歌山の連帯。MIKADOのこれまでの作品にも見られたテーマが満遍なく詰め込まれながら、彼が新たな景色を見せようとしていることを示唆する。
そのストーリーを彩るのは同郷の盟友 Homunculu$をはじめ、TRILL DYNASTY、Neetz、VetteBoy、june、ineedmorebuxらビートメイカーたちによるサウンド。〈聴いてたYSL WAKAも日本でゆうところのSouth〉(「俺たち」)と歌っているように、これまでの彼のベースにあったトラップサウンドは、さらに多種多様な色を魅せ、アルバムを通して表情を切り替える。前作『HOMUNCULUS』から引き続くように垣間見えるビートスイッチや「俺たち」における抒情性を際立たせる松原みき「-Cupid-」の引用を含めた独特のサンプリング、さらにあえてプラグ的なビートでリル・ウージー・ヴァートの初期の代表曲を引用するような「Money Longer (feat. Kohjiya)」など、遊び心にも溢れる。決して耳を飽きさせることなく進む本作は、Young Coco、T-Pablow、Jellyyabashi、Tiji Jojo、Kohjiya、HARKA、Mel Edenといった客演陣の登場も含め、ソリッドな形式であった前作に比べて、スケール感を拡大し、巨大な景色を獲得しようとする野心が全編をほとばしる。それぞれの個性が的確に当てはめられ、MIKADOとマイクを共有することで、これまで以上の摩擦を起こしている。
MIKADO自身の声質にも注目したい。彼の声はヒリヒリしているが柔軟にフロウし、声を枯らして歌うようなブルージーさが漂う。彼の声の音としての物質的な感触は、彼が歌詞のなかで浮き立たせる情景を、より立体的に実体を持った形で浮かび上がらせる。
また、当然散りばめられる固有名詞も彼の音楽の具体性を担保する重要な側面だ。たとえば、地元和歌山のイベントホール・和歌山ビッグホエールの名前を曲名に冠し、何回も名前を出しながら、自らのスケール感を示す(「ビックホエール」)。日本武道館を見据えつつ、“不眠遊戯ライオン”などの箱の名前もさりげなく出すなかで、アルバムの終盤でビッグホエールを集合地とするのは「地元ごと引き上げていく」という一貫した彼の姿勢の裏打ちだろう。場所の言及を中心に注目するだけでも、生活や環境の変化を捉えながら、地方性やアンダーグラウンド性をメインストリームに巻き上げられないままで巨大な存在になろうとする彼の意識が見えてくる。いわば、彼の成り上がりが、利己的なシステムに従属することのない、真の成り上がりであることの説得力が全編に敷き詰められているのだ。
〈仲間と広げてるのさBusiness/でもマインドはF*ck Business〉(「Intro *Spit Fire*」)
MIKADOの音楽のカタルシスは、その有言実行性によって実体を獲得していく様にある。それはただ実名を並べているわけでも、感情を並べているわけでもない。極めてフィジカルなサウンドと具体化された精神性が擦れることで生まれるものだ。代表曲「言った!!」における〈口から出たことが本当になるからな〉というラインは象徴的だった。MIKADOの言葉は、何かを価値あるものに変える。何もないところからすらも火をおこすように。MIKADOがその摩擦によって起こした炎は、存在感を放ちながら、力強く引火していく。



























