JuggrixhSentanaが体現する“自由である”という反骨 時間、スタンス、立場……軽やかに行き来する『Jewelry』のリアル

 JuggrixhSentanaのニューアルバム『Jewelry』は極めて軽やかな作品だ。そしてその軽やかさは特別なものとして聴こえる。時代とか、しがらみとか、そういうものに縛られず、煌めいている。

 『Jewelry』は率直で、タイトだ。何も分かりづらいことはなく、端的に我々に問いかける。7曲、全19分の夢心地。それはあまりにも短い夢だが、何度もそこに戻るために再生ボタンを押させてしまうほどの吸引力が備わっている。とても大事なことも言っている。

 横須賀を拠点とするクルー・YOKOSQUADのメンバーであるJuggrixhSentanaは、順調なペースで作品をリリースしてきた。今年はBIMをフィーチャリングしたシングル「Late Night Step feat. BIM」も発表。誰の目から見ても調子がいいと言えるだろう。『JUGG SEASON』シリーズで、ラッパーとしての自身のアティテュードやスタイルを提示してきたが、同時にEP『Sway Naughty』などでは、そのメロディアスな世界観を余すことなく展開させ、極上のトラップソウルをタイトにパッケージしていた。本作『Jewelry』は、そういった彼のこれまでの道程が詰め込まれた、ひとつの決定打になる作品だ。

JuggrixhSentana - Late Night step feat. BIM

 ジャケットに山下達郎の『FOR YOU』を引用し、本作のレイドバックした音楽性を体現する。そのコンセプトで紡がれる『Jewelry』はまさに、時代をはじめとしたさまざまな場所を行き来する作品だ。そのうえ、ものすごく気軽に、肩の力を抜いて――。繰り返される日常からの逃避的な時間、または、そういった大きな流れとは違うペースで動くこと。そういう逸脱した感覚がこの作品には溢れている。

 ループするサンプル、そのなかで浮遊感のあるサウンド、そしてメロディは、端的に現実世界からの逸脱に貢献している。1曲目「Sleep In Cloud」では、ジャジーなトラックでエレガントな空気を醸成し、6曲目「Your heart」では、温もりのあるシンセの音でノスタルジックなムードを提示。この辺りは『Sway Naughty』の延長線と言っていいようなメロウな質感を貫徹させている。極め付けは80年代後半のポップスサウンドを再現したかのような鋭く重量感のあるキックとスネアが鳴る「Time slip」。時代を遡ったような感覚のなかで、この作品のコンセプトを音楽的に高らかに宣言して締めくくる。

〈くだらないHaters無視して俺は音に乗って〉(「Sleep in cloud」)

JuggrixhSentana - Sleep in cloud

 思うに、今、YOKOSQUADほど遊びとしてのビジネスを体現している人たちはいない。要は、金を稼ぎながら遊び続けることを手放さない。彼らは明確に金を稼ぐこと、ビジネスについて言及しているが、それも遊びに変えてしまう。そんな感覚がYOKOSQUADの面々の作品には常に備わっている。直近の作品群であれば、Jellyyabashiの『Demo tape vol.1』にも、CFN MALIK『MADE MA WHOLE HOOD SWAGED UP』もあったはずだ。JuggrixhSentanaも例外ではない。

 問題はこの後期資本主義の社会で、損得を超えた仲間の連帯や愛というものが薄れていき、「他人に何か奪われるかもしれない」という、ピリついて張り詰めた緊張感がその存在を強くしていることだろう。

〈血は見たく無いんだもう/誰か笑い誰か泣く/誰か騙し誰か終わる〉

〈誰かをかましたとか/誰か陥れたとか/仕方ないなこれは文化/でもそろそろ辞めないか?/俺が言えた身ではねぇけど/誰かが言わなきゃ終わらねーだろ?〉

 金に踊らされる人々を描写する「Money dance」では、世に争いが蔓延る状況に対して言及。これは“文化としての争い”が度々話題になるヒップホップのこととももちろん取れるし、もっと大きく世界全体のこととも取れるだろう。

 こういう世界の認識があるからこそ、歴史や仲間、文化への愛とリスペクトを体現するようなこの作品は、大きな流れに左右されない、自由な感触がある。自由に金儲けし、自由に遊び、自由にサウンドに溺れ、自由に言葉を紡ぐ。それを手放さないことこそが反骨的だ。

 同時に、〈実はそこの君すらhustler/すぐそこにあるunderground〉(「5PM IN YOKO (feat. jellyyabashi)」)と、当事者性も忘れない。アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、ビジネスと遊び、過去と今。多くの場所を行き来するその足取りは、やはり軽やかだ。

 夢見心地で、現実から浮遊するようなそのスタイルそのものが批評性を帯びている。もちろん、海外のラップミュージックと並列して違和感なく聴こえるのもYOKOSQUADの音楽の魅力だ。それは、たとえばかつてアンダーグラウンドからミックスCDなどを通じて徐々にその姿を表してきたSCARSの音楽がそうであったように。KOHHの音楽がそうであったように。ただし今や、その越境的な感覚は自然体で、トラップ以降の空気を同時代的なものとして、血肉として受け継いで、再現している次世代のヒップホップアーティストは数多く存在する。JuggrixhSentanaによる本作は、あくまでそういった同時代性をベースにしてノスタルジックな雰囲気を再現している。

 そこには多くのリアルがあるということだ。ひとつの文化と言っても一言では語れない。YOKOSQUADはそういった性質を体現するこの時代のヒップホップクルーだ。そのユニークさの一側面として、間違いなくこのアルバム『Jewelry』の軽やかさは、輝くはずだ。

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