46歳音楽評論家、初めてINIを観る “個”がぶつかり合って生まれる表現体、東京ドームで浴びた覚悟のエンタメ

おじさん音楽評論家、初めてINIを観る

 先に断っておかなければならない。私はINIについて、ほぼ何も知らない。

 一応、音楽評論家という肩書きで20年以上仕事をしてきた人間なので、INIが11人組のグループであることくらいは知っている。音楽番組でパフォーマンスを観たこともあるし、バラエティ番組に出演しているメンバーを見かけることもある。しかし、メンバーそれぞれのキャラクターや、これまで発表してきた楽曲、グループが歩んできた5年間の歴史について語れるほどの知識は、正直まったく持ち合わせていない。

 そんな46歳のおじさんが今回、初めてINIのライブを観ることになった。人生初INIである。しかも、INIにとって初となる東京ドーム公演『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』だ。

 会場に着いて、まず驚いた。信じられない数の人、人、人、人、人。ちょっと待って。平日の木曜日、しかも開場12時30分、開演14時30分という真っ昼間の公演だ。シルバーウィーク直前とはいえ、この時間帯の東京ドーム周辺が、MINIと呼ばれるINIのファンで埋め尽くされている。INIの動員力、一体どうなってるんだ…。

 9月16日、17日の東京ドーム2公演で動員した観客は計10万人。その数字を聞けば規模感は理解できるが、実際に現場でその熱気に触れてみると、数字以上のインパクトがあった。

 そしてこの時点で、軽々しい気持ちでINI初東京ドーム公演に来てしまったことを後悔しはじめていた。

 しかし、その数時間後。INIについてほとんど何も知らなかった私が、東京ドームの客席で喝采と共に感動の声を上げ続けることになるとは、知る由もなかった。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

東京ドームそのものをエンタメ装置にしてしまう

 先に結論から書いてしまう。

 今回のINIの東京ドーム公演は、東京ドームという巨大空間を立体的かつ多視点的に捉え、視覚、聴覚、さらには身体感覚まで刺激する、途方もなく巨大なエンターテインメントだった。

 私は仕事柄、これまで数多くの東京ドーム公演を観てきた。しかし近年、ここまで徹底して演出に物量と熱量とアイデアを投入したライブは、ちょっと記憶にない。もしかすると、私がこれまで観てきた東京ドーム公演の中でも、最もリッチかつ壮大で緻密なライブのひとつだったかもしれない。

 1曲ごとに照明や映像が変わる、などというレベルではない。巨大なセットそのものが目まぐるしく形を変え、動き、回転し、ときに上昇する。メインステージからアリーナ中央へ伸びる花道。その先には巨大な円形の回転ステージが設置されていて、さらに巨大なムービングステージがドーム内を縦横に移動していく。

 つまり東京ドームという巨大な「箱」の中にステージがあるのではない。東京ドーム全体が、コンセプト/ストーリーに合わせて躍動する巨大な舞台装置になっているのだ。

 その千変万化する空間の中心で、11人のINIがあまりにも多彩なパフォーマンスを繰り広げていた。

30人の群舞から浮かび上がる11人の“個”

 その思想を最も鮮烈に提示したのが、オープニングを飾った「Non-Stop」だった。

 INIの11人に、総勢30人ものダンサーが加わる。強烈なビートが東京ドームを揺らす中、それぞれの個性を活かしたモノトーンの衣装に身を包んだ11人が姿を現す。メンバーそれぞれの端正なルックスが実に映える。超カッコいい。テレビで見るよりも、もっとかっこいい。INIについてほぼ知識のない私も、この時点ですでに興奮気味。今まで出会ってこなかった新鮮な驚きと、その魅力に引き込まれる。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

 興味深かったのは、単純に「大人数で踊るから迫力がある」というだけではなかったことだ。30人のダンサーとINIが連動する群舞を眺めていると、このライブ全体に通底する「都市性における群衆と個」というテーマが見えてくる。30人のダンサーはさながら都市の中を行き交う人々。その群衆の中に存在するINIという11の“個”。それぞれ異なる個性が集合することで生まれる美しさと、一方で、誰かに見られ続ける現代社会の不自然なほどの孤独感も表現されている。

 今回のツアータイトルは『CITY OF LIGHTS』。「Non-Stop」は、このライブの世界観を宣言するプロローグとして、あまりにも鮮烈だった。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

ユニット曲で知ったINIのクリエイティビティ

 ライブ中盤では、INIの音楽的な面白さにも驚かされた。

 尾崎匠海、後藤威尊、佐野雄大、松田迅による「Give Me More」。バンドメンバーとともに、ミニマルなビートとトラックに乗せて繰り広げられるのは、恐ろしくアグレッシブなダンスパフォーマンスだ。何よりサウンドがいい。さまざまなベースミュージックを飲み込んだような、アンダーグラウンドなグルーヴ感。華やかな東京ドーム公演だからといって、シンプルでポップな方向へ安易に寄せない。

 それにしてもINIのサウンドチームは、なんてソリッドで攻めた曲をプロデュースするんだ。――と思って編集部に詳しく聞いてみると、メンバー自身が制作に関わっているという。尾崎がメロディを制作し、松田が作詞を担当。曲まで書いてるのか。

 続く池﨑理人、田島将吾、西洸人による「SWING」では、豪快にバウンスするリズムの上を、3人のラップが容赦なく攻め立てる。燃え上がる火柱。バットを打ち付けるような派手なパフォーマンス。そして、その視覚的なアグレッションに負けない、ヘヴィなグルーヴ。

 「アイドルの東京ドーム公演」という先入観を持って観ていると、いい意味で何度も裏切られる。音楽だけ切り取ってみても、メンバーたち自身が妥協なく攻めまくっていることが、徐々に見えてきた。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

「一瞬のために、ここまでやる」という覚悟

 ところが、その直後。木村柾哉と藤牧京介による「君がくれたもの」で、世界は一変する。

 先ほどまで火柱を上げ、バットを振り回し、強烈なビートを叩きつけていた東京ドームに、繊細なピアノの旋律が響き始める。純白のピアノ。トーチや燭台を思わせる静かな光。美しく、繊細で、流麗な旋律。さっきまでとの温度差がすごい。心が寒暖差で風邪ひきそう。

 しかし、ここからがさらにすごかった。

 楽曲が進むにつれて、ステージが少しずつ光に満たされていく。そして背面の扉が開いた瞬間、そこに現れたのは――盛大なストリングス隊だった。曲の終盤で生のストリングス!? オーケストラの豊かな響きが加わり、巨大な東京ドームが一瞬にしてスケール感を拡張させていく。気がつけば、空から紙の蝶々が舞っている。(歌詞が書かれていたらしい)その蝶々に向かって手を伸ばす観客たちの姿まで含めて、実に幻想的で美しかった。

 木村が鍵盤を奏でる指先から伝わってくる、震えるような緊張感も実にいい。一音一音を大切に弾くその姿から、東京ドームという場所に懸ける思いまで伝わってくるようだった。

 そして後に驚愕するのだが、このストリングス隊、この曲のためだけに登場したのである。出演時間、わずか数分。たった数分間の感動を生み出すためだけに、ここまでやるかINI!

 もちろんライブにおいて物量がすべてではない。しかし、一瞬の美しさのために惜しみなくリソースを投入することは、観客に対するひとつの誠意でもある。そして何より、演出に負けないINIたちのパッションとスキルが隅々まで漲っている。

 今回のライブには、その「一瞬のために、ここまでやる」という覚悟がいくつも垣間見えた。

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