Litty、3Li¥en、Manaka……台頭する新世代フィメールラッパー ヒップホップの“越境性”が育む豊かな個性
今の日本語ラップシーンの多様性は音楽性、キャラクター、活動の幅広さという多くの点において次のフェーズに来ていると言える。
男性中心的な前時代の業界のなかでは、フィメールラッパーはあまりにも光を浴びず、可視化されていなかったが、今や“フィメールラッパー”という括りを意識しなくてもいいほどに、バラエティに富んだアーティストたちがシーンを引っ張り、次々に若い世代も台頭している。たとえば、つやちゃん『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)をはじめとする、厳密さを失わずに、意識的にフィメールラッパーに光を当てるような批評が、そういった歴史のなかで、フィメールラッパーたちに相応しい評価を与えてきたことも、ここ数年のシーンで重要な役割を担ってきたはずだ。
今や多様性という言葉は前提で、多くのものが混ざり合っていることが現状である。文化とは、ある程度の閉鎖性によって成り立つものであるが、その形式のなかでいかに自由かつ屈託無くいられるか。そういった状況でこそ、ヒップホップの“越境性”は光り輝く。それは生まれ育った環境からの逸脱でもあるし、多種の人格(オルターエゴ/アイデンティティ)を併せもち、そこにフロウやサウンドが密接に関係してくるラッパーのスタイルでもあるし、別ジャンルの音楽へ導いてくれるようなサウンドでもある。それはアーティストのオリジナリティにも深く関わってくるだろう。
今回紹介する新世代のフィメールラッパーたちは、ある一定の価値観から脱するような、堂々とした出立と個性、そして越境性を感じさせるようなアーティストである。
Litty
ボストン生まれ、東京で育ったのちアメリカの大学に進学し、再び戻ってきた東京を拠点に活動するラッパー・Littyは、言葉の通り“越境”する新世代のラッパーだ。メロディアスな歌唱に近いスタイルのなかで、ライミングやワードプレイを散りばめる音楽性は、R&Bとラップミュージックの境を完全に溶かし、新時代のポップミュージックに昇華されている。アメリカの大手ディストリビューター「EMPIRE」と契約し、今年リリースされたアルバム『Get Litty?』は、C.O.S.A.、Worldwide Skippa、Manakaと国内の多様なラッパーを揃えながら、ロサンゼルスのラッパー・310babiiやプロデューサーにはDiego Ave(アルバムでは「Regular」「Stack」の2曲を手がける)を迎えるなど、幅広い話題性に溢れた。全体をメロウでポップな形に収めながら、Lion Meloが大部分を手がけたトラックの展開と細部のフロウには多様な試行が見られ、そのウェルメイドな作品の出立から想像できる以上の仕掛けが施されている。言語やスタイルにとらわれないような音楽性は、彼女のアーティストとしてのポテンシャルを十分に感じ取ることができるものだ。その個性的な低い声質と音としてのバリエーションの豊かさが同居している様からは、派手さとクールさをポップに昇華する、現代的なラップミュージックのひとつの在り方が見えてくる。
3Li¥en
ナイジェリア人の父親と日本人の母親を持つ3Li¥enは、多様なスタイルや音楽性を併せ持つ新世代のラッパーだ。千葉雄喜「チーム友達(GALS Remix)」への参加、『RAPSTAR 2025』(ABEMA)への出演などで爆発的にその知名度を上げた彼女だが、その個性的なキャラクター、そして自称を“エイリアン”としていることも興味深い。たとえば、オルターエゴを掲げたり、キャラクターを使い分けるような多人格性を持つラッパー、かつてのPファンクにおけるフィクションキャラクターやサン・ラが自身を“土星人”とするようなルーツミュージックの歴史は(当然各々の違いはあるが)、それぞれの環境や属性にとらわれない自由自在な感覚を獲得している。彼女の“エイリアン”と自称するスタイルは、ひとつの枠に収まらない彼女自身のキャラクター性や多様な音楽性にそのまま繋がっているだろう。Littyと同じく「EMPIRE」からリリースされたアルバム『High Energy』は、そんな彼女の多様なルーツが垣間見える作品だ。プロデューサー・fouxが手掛ける多彩なビートがアルバム全体を覆い、ハードなドリルからメロディアスなトラップソングまで乗りこなす。シーンのなかでも特異な存在感を醸すキャラクター、音楽、スタイルが混ざり合った彼女の独自性を、このアルバムで確認できるだろう。
Manaka
Little Glee Monsterの元メンバーであるManaka。持ち前の歌唱力とスキルフルなラップを兼ね備える彼女の個性も特筆するべきものだろう。昨年リリースのデビューEP『Pretty Machine Gun』は、90年代から00年代頭のヒップホップ/R&Bを想起させるような「Bad+Sad Boi」から、クラウド的なビートに乗り、マンブルフロウを披露する「(:3 」∠)」など、多彩なビートを採用し、自らのラッパーとしての引き出しの多さを示すような作品だった。固定化されたイメージにとらわれない、または勝手に決めつけられることのないように、変幻自在な個性を積極的に見せつける彼女のスタイルと高いスキルは、最新曲「Look At Me Now」でももちろん感じられる。変則的なビートに対する的確な言葉のデリバリーとスムースに歌唱を入れ込むフロウの技巧は、ラップの言葉を音として捉えながら聴きやすさも決して失わずに、ハイレベルな達成を見せている。多様なビートへアプローチするその挑戦的かつ実践的なスタイルは、これからの作品や活動への期待を煽る。


























