日食なつこにとってライブとは? 来る『大日食観測会2026夏』、未発表曲ツアー第2弾を前に語る今のモード

日食なつこにとってライブとは?

 「新しい冒険に出ます」という一言にワクワクする。これだけでいかに日食なつこの調子が良いかがわかるだろう。新曲が溜まりすぎているという発言も頼もしく、2026年は彼女の真新しい一面に出会う年になるはずだ。

 昨年の『令和モダニズム Ⅱ "lapin"』以来、久しぶりのワンマンライブが開催される。まずは8月、東京の昭和女子大学 人見記念講堂と大阪のNHK大阪ホールで行われる『大日食観測会2026夏』、そして10月に始まるZeppツアー『日食なつこ未発表曲ツアー「エリア未来2 “ブラックホール”」』である。前者は自身最大規模を更新するワンマンライブであり、日食なつこの音楽をド派手に体感する夏の企画になる模様。そして後者は一昨年行われた未発表曲のみ(!)のツアーの第二弾であり、前回よりも会場を大きくしての開催である。今の日食なつこの新曲ならば、間違いなく度肝を抜いてくれるだろう。

 ふたつの企画の話を皮切りに、ざっくばらんにここ最近の心境について聞いてみた。技術の探求、生まれてくる新曲、ライブへの気構えーー次のステージを見据え、随分心持ちが変わったようである。(黒田隆太朗)

ピラミッドを1個ずつ積み上げていくような姿をお見せしたい

ーー8月には久しぶりのワンマンライブ、『大日食観測会』が控えていますね。

日食なつこ(以下、日食):「エリア未来2」のことを考えている時に、このまま行くと今年は大きい会場で日食なつこの既存曲を聴いてもらうワンマンがないぞ、ということになりまして。10月のツアーの方を先に思いついていたんですけれど、それをやる前に一旦ここまでの日食なつこをおさらい的に見てもらおうと思いました。今年に入ってからいろんな対バンやイベントに呼び続けていただいているので、そこにかまけてしまっていた部分もあるのかもしれないですね。気づけば自分発信のワンマンライブがない、というのがこのライブをやろうと思ったきっかけです。

ーープレスには「ピアノ弾き語りスタイルを主軸に据え」と書かれていましたが、弾き語りメインのライブになるんですか?

日食:いや、形態は色々混ぜていこうかなと。

ーーじゃあバンドメンバーも入るんですね。

日食:もちろんです。せっかく大きい会場なので、日食CREWと他にも何か足せたらと考えています。『令和モダニズム II』以来のワンマンライブですし、あれこそ弾き語りだけのライブだったので、今回はど派手に日食なつこの音楽を浴びられる機会にしたいです。いろんな編成や出し方を考えています。

ーー人見記念講堂もNHK大阪ホールも大きい場所ですね。

日食:そうですね、過去一番ぐらいの会場です。今回はホールにさせてもらったので、夏休みということで子供さんと一緒に来る人が多いといいなと思っています。夏休みの思い出に家族で出かけるところを考えている人に、「日食なつこのライブあるらしいじゃん、じゃあみんなで行こうよ」みたいなニュアンスになるといいなと。それでメインビジュアルを青空に立ち上っていく入道雲と、それを囲んでいる楽しげな人たちや遊園地っぽい風景にしていて、いろんな年代に開けてるイメージで作らせてもらいました。

ーー『大日食観測会』は、歴史的建造物や趣ある会場を巡った『令和モダニズム』と未発表曲ツアーという、珍奇なものに挟まれているじゃないですか。

日食:そうかもしれない(笑)。

ーー珍しい会場でツアーをやることや、一風変わったセットリストでライブをしたいというのは、変わらずモチベーションとして持っているんですね。

日食:それは変わらずあると思います。でも、最近は好き放題に日食なつこがやりたいものをみんなと共有する、というところからは脱却してる感じがありますね。ちゃんとお客さんを連れて次の段階にいくーーこの段階が終わったら次の段階というように、ピラミッドを1個ずつ積み上げていくような姿をお見せしたいです。数年前と比べたら、そういう責任を背負うモードになっている気がします。

ーー何故変わったんですか?

日食:やっぱり関わってくださる方の影響ですかね。沢山の方が関わってくるようになって、そういう人たちは普段日食なつこ以外の現場も出入りしてる中で私の現場にも来てくださるので、そこで聞ける話がいっぱいあるんですよ。そうすると自分よりも上のステージの情報が流れ込んでくるようになる。それを凄いね、と聞いてるだけでは悔しいんですよね。

臓腑の底にドスっと落ちてくるような未来を浴びてもらう

ーーそして10月からは未発表曲しかやらないツアー、「エリア未来」の第二回目が開催されます。

日食:私はいまだに黒田さんの「たまげた」の4文字が頭から離れないんですよね(※)。

ーー(笑)。あのライブは本当にびっくりしました。何故このタイミングでもう1回やろうと思ったんですか?

日食:単純に新曲が溜まりすぎているので。あと、1リリースに対して、2ツアーをやることに味を占めたところもあります。もう1回やってもお客さんがついてこようとするのか、もうお腹いっぱいですとなるのか、それを見てみたくて2回目をやることにしました。規模は『銀化』のツアーで回らせていただいたZeppを、まさかの未発表曲でやるっていう、これは本当にチャレンジです。

ーー前回のZeppツアーはその時の最大規模でしたからね。

日食:前回の「エリア未来」はチケットがバーストしたところも多かったので、そんなに期待値が高いならもうちょっと拡張してみようと思いました。ライブハウス規模ですらお客さんの異様な空気が凄かったので、あれをZeppでやるとどうなるんだろうという興味もあります。

ーー普段のツアーとはお客さんのリアクションも違いました?

日食:全く違います。それがすっごく面白くて、シンガロングとか合いの手が一切ないんですよ。なので凄くフロアが静かです。お客さんは初めて聴く情報を浴びせられ続けるんで、英語のリスニング会場みたいな感じです。

ーー(笑)。

日食:1文字たりとも聴き逃すまいっていう空気がフロアに充満しているので、それはしめしめという感じで見てますね。

ーー「ブラックホール」という副題にはどういうテーマがあるんですか。

日食:1回目の「エリア未来」と何が違うのか、ということをサブタイトルにつけるべきだと思い、その差を色々考えたんですよね。1回目でやった曲に対して、2回目でやろうとしてる曲には重厚感があると思います。臓腑の底にドスっと落ちてくるような未来を浴びてもらうことになるんじゃないかなと思って、それで「ブラックホール」と名付けました。

ーーちょっと重苦しさがあるんですね。

日食:あくまで私の主観なので、お客さんが聴いたら全然違うと思うかもしれないですけど。もしかすると曲に対しての重苦しさじゃなくて、私のモードに対する重苦しさなのかもしれないですね。「エリア未来1」は周年企画でベストアルバムを出すなど、色々やるべきことがある中で、唯一の自分へのお楽しみとして作ったものだったんです。15年間を振り返るというタスクはやるから、その代わりに15年間の中にまだ存在していない新曲をやるという、ちょっと変なツアーで私の機嫌を取らせてくださいというのが「エリア未来1」でした。

ーーなるほど。

日食:そういうカウンター的なあり方が「エリア未来2」にはないですし、周年の一企画ではなくなったので、今回はこれ1個でお客さんに元を取らせないといけない。それに周年が終わってからは私も(アーティストとしての)ステージが上がったような実感があるので、「エリア未来1」をやってた時とは違うスタンスで、責任を持って頑張ってますよっていうのを示さないといけないと思っています。そういうところで重厚感や重苦しさを感じていて、それがブラックホールに表れているのかな。

ーー新曲が溜まっているというのは、制作の調子が良い証ですね。

日食:そうですね。「エリア未来2」の曲は自然発生のものしかなくて、なんかもうほっておいたら曲はできるんですよね。それ以外のことは頑張らないといけないですけど、曲は真っ当に生活してたらそれへのお返事として出てくるみたいな感覚にまでこぎつけました。クオリティは担保されていると思いますし、曲のバリエーションも増えてます。前回のツアーとは全く違う曲がいっぱいあります、ということだけお伝えしておきます。

ーー音楽的にはどういうものが今の気分に合っているんですか?

日食:ピアノに戻りました。やっぱり全ては自分自身の技術と楽曲制作能力に戻ってくるんだな、というのをいろんな人の姿を見て実感しています。その背中を見て羨ましくなったり、悔しくなったり、やめたくなったりを繰り返した結果、「いろんな人に囲まれていながらも最後は自分だな」というところに戻りましたね。最近、佐藤竹善さんのイベント(『Cross your fingers 26』)に出させていただいて、素晴らしいピアニストの方々とご一緒したんですけど。ピアノ1本で50、60歳まで生き残る人たちってテクが凄まじいんですよ。やっぱりどう売り出すとか、どういう曲を書くとかじゃなくて、生き残るのはテクニックなんだなと。それで今凄く練習を頑張っています。それに基づいた曲が「エリア未来2」では出てくるかな、という感じです。

ーー練習ってどんなことをしているんですか?

日食:まずは基礎練です。ピアノ教室で渡されたハノンを30分ぐらい指鳴らしでやって、その後はたとえばライブの前だと、苦手な曲の苦手な箇所をテンポ半分まで落として右手だけ弾き、次に左手だけ弾く。上手くいくまで続けてできるようになったら両手でやるーーという割と見てても全然面白くない作業を自宅でとにかくやっています。

ーー苦手なフレーズがあるんですね。

日食:あります。私は和音とかリズムは好きなんですけど、横に流れるアルペジオやバラードっぽいフレーズは弾けないんですよ。実は私の曲でそういうことをやってる曲はほぼありません。なのでそういう曲をやりたくなったら他の楽器やトラックにお任せするとか、技術的には結構逃げてたんですよね。でも、この先もこれでいいのかなと思って、今ちょっと自分に鞭打っているところです。

ーー新曲の「煙と水晶」もピアノが主体でしたね。

日食:「煙と水晶」もその一環で、鍵盤とコントラバスと、ちょっとしたシンセしか入っていません。

ーーしかも結構久しぶりの新曲です。『銀化』以来ですか?

日食:そうなりますね。『銀化』はそれこそほぼ全部バンドサウンドで作っていて、1曲だけトラックメーカーさんと一緒にやった曲がありますけど、ピアノソロっぽい曲はご無沙汰してました。なのでちゃんとピアノ弾き語りとしても存在し続けてますよ、という皆さんへの中間報告みたいな感じもあります。私自身いつかキャリアを振り返った時に、ここで1回ピアノ弾き語りっぽい曲を出しといたのが効いたな、と思えればいいなと思います。

ーー日食さんの春の曲はしんみりしてるんですよね。

日食:自分の春の思い出はそういうものなんですよね。前に行こう、新しい生活を始めよう、みたいなことがそんなになかったので。自分の書く春はそっちの方がいいのかなって思います。

ーーいつ頃から作っていた曲なんですか?

日食:サビは2025年の真ん中ぐらいには存在していて、『銀化』のリリースツアーのサウンドチェックで歌ってました。春っぽい曲では「やえ」が根強い人気を誇っているので、ああいう春の桜が散る時に、自分の中で何かが一緒に散っていくのを重ねるような人たちにぴたっと合ってくれそうな曲を、もう1曲ぐらい書いてみたいと思って作りました。

ーーちなみに夏の曲も今作っているんですよね?

日食:そうです。去年の夏場ぐらいに作り始めました。よき日本の夏を日食なつこ的に歌ってみようと思い、じわじわと進めていって、こっちは今までにない曲になったかもしれない。お楽しみにという感じです。

ーーちなみにコロナ禍以降どんどん音楽的な趣味が広がってると言われてましたよね。最近はどんなものが好きですか?

日食:それこそ竹善さんのイベントでご一緒した、ジャズピアニストの塩谷哲さん。元々拝聴はしていたんですけど、ステージから見たらとんでもねえなと思いまして、改めてそういう耳でアルバムを聴いています。あとは趣味でiriさん。あー、声いいな、どうやったらこういう発声できるんだろうと思いながら浴びています。

ーー日食さんもiriも言葉が強いですよね。iriさんは聴いていてズシンと来る感じがあります。

日食:そうですね。iriさんはボキャブラリーが半端ないですし、リリックに容赦がない。そしてあれだけ自在にステージができるので、もっと調子に乗ってニコニコしてもいいはずなのに、全然クールなままでそこも好きです。ずっと地に足付けてる感じがします。

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