にしな、深まり続ける日々への慈しみ 『つづ井さん』ED主題歌「ねこぜ」で得た気づきのすべて
ドラマ『つづ井さん』(読売テレビ)のエンディング主題歌として書き下ろされた、にしなの新曲「ねこぜ」。周りに理解されなくとも好きなものを追求し続けて日々を生きる作品の主人公・つづ井さんの姿に、今のにしなの気分がばっちり重なった、さりげないけど最高の一曲である。
「It's a piece of cake」も「plum」も、それから「これもなにかのきっかけ」というコンセプトのInstagramのブランドキャンペーンに際して書いた15秒だけの楽曲「今日も今日とて」もそうだが、最近のにしなの楽曲はどんどん正直に、そして聴く人に向けて明確にメッセージするようなものになってきている。「いろいろあるけど日々を楽しんで生きていく」というにしながずっと貫こうとしてきた生き方が、自分だけのものではないことに、きっと彼女はどんどん気づいていっているのだろう。そんな心境の変化と、今のにしなが描こうとしている世界について語ってもらった。(小川智宏)
紆余曲折あるのがいちばんハッピーなのかなと思います
――「ねこぜ」、個人的に今のにしなのモードを体現している感じがして、すごくいいなと思いました。自分ではどんな曲になったと思いますか?
にしな:『つづ井さん』のタイアップがあったからこそ書けた部分もすごくありますし、自分らしさもしっかりあるというか。時代とか性別とか、年齢は多少あるかもしれないですけど、あんまりとらわれず、ゆるゆると聴いてもらえる曲になったんじゃないかなと思ってます。
――どんなふうに作っていったんですか?
にしな:コンペのような形で『つづ井さん』の主題歌を募集していて、それに向けて作ったんです。「こんな感じの曲」というお題みたいなものがあって、それを踏まえて書いていきましたね。
――『つづ井さん』という作品についてはどんな印象を持ちましたか。
にしな:正直、影響を受けすぎてもよくないと思い、曲を書くまではあんまりしっかり読んだことがなかったんですけど、曲をちゃんと書き終わってからあらためて読み込んだんです。そうしたら、「めっちゃおもしろい!」と思って。自分自身も友達になった感覚で読めるし、ドラマ化されたら観る人にとっても楽しい時間になるだろうなって。そこに自分の曲で花を添えさせてもらえるのはすごい幸せなことだなって思いました。
――じゃあ、曲を書いている時は、そこまで作品に寄り添ってみたいなことでもなかったんですか?
にしな:知りすぎないほうがいいかなっていうのもあったんです。でも、なんとなく感じる部分はあったので、そこに自分の寝暗さとかオタク観みたいなのを降臨させつつ書く、みたいな(笑)。つづ井さんはオタク観を持ちながら社会人としてちゃんと働いている人なので、そういう意味では自分と一緒なのかなと思ったんです。私はすごい突き詰めるタイプではないですけど、オタクっぽいところはありますし、働き方は違うかもしれないけど、互いに社会人じゃないですか。そういう意味では必ず通じる部分もあるなと思って、そこにいちばん着目しました。月曜日から金曜日まで働いて、土日を迎えていく、そういう人間のライフスタイルみたいなのを想像しながら書きましたね。
――いろいろとしんどい思いもしながら、でも好きなものとか好きなことを胸に一生懸命生きていくっていうのがこの曲に描かれる姿ですけど、そういう心持ちというのはにしなさんのなかにもあった。
にしな:そうですね。誰しもだと思うんですけど、上司の人から怒られたり、でも帰ったら自分の好きな楽しみがあったり、それが「こう暮らしていきたい」ということなのかはわからないですけど、紆余曲折しながら続いていく日々みたいなものはひとつの幸せだし、これがずっと続いていくんだろうな、みたいな。イヤな時もハッピーを見出せたらいいな、という感じですね。
――つづ井さんはBLが好きだったりしますけど、にしなにとってそういうものって何なんですか?
にしな:なんですかねえ……。でも、最近すごく感じるのは、「お金使うのって楽しい」みたいな(笑)。旅行もそうですし、服とか好きなものを買うって、学生の頃ももちろん多少なりともしていたけど、やっぱり自分で稼いだお金を使うってすごく幸せだなって思うんです。そのために頑張れる部分はあるなって。私、くだらない雑貨とかを買うのが好きなんです。
――くだらない雑貨?
にしな:雑貨屋さんとか入って「かわいい!」って思ったらそれを買える感じ。
――ああ、実際に使うか使わないかとかは度外視して。
にしな:そうです。見た目で気に入ったものを買える喜びってありますよね。あとはくだらないことで言うと、カードゲームをやったりもしてます。
――それも自分で一生懸命働いたからこそ課金できる楽しみということですね。
にしな:はい。
――だから、「好きなことだけやって生きていきたい」わけでもなければ、「一生懸命働くことが生き甲斐なんだ」っていうわけでもなく、「両方バランスをとって生きていくのが幸せなんじゃないの?」というのがこの「ねこぜ」っていう曲なんだと思うんですけど、それってすごくリアルですよね。その部分をすごくストレートに歌っているなと思ったんです。理想でもなければ、現実すぎることもないっていう。
にしな:たしかに。楽しいだけだったら、それも楽しくなくなっていきそうですし、やりたくないこともやったりしながら、紆余曲折あるのがいちばんハッピーなのかなと思います。
「どうでもいい」っていうのはすごく……愛だな、みたいな(笑)
――今、にしなさんは音楽を仕事としてやっているわけじゃないですか。きっとそのなかにもいろいろあると思うんですよね。しんどいこととかストレスを感じることも少なからずあって、でも喜びもあって。はたから見ると「楽しそうだな」と思うけど、「でも実はそれだけじゃないんだよ」というところも含めて正直に書いているなと。にしなの曲、どんどん正直になってきていますよね。
にしな:うん、着飾ってない。“音楽をやってるにしな”っていう視点の書き方もあるかもしれないですけど、この曲はそうじゃないというか。なんて言うんですかね、もっと、人? 人として「好きなことをバカにしやがって!」「でも、気にしないでどんどん行くよ!」みたいな。全部なしにして、人として書いている感じがします。
――にしなさんが最近Instagramのキャンペーンに書き下ろした「今日も今日とて」という曲があるじゃないですか。あの曲もまさにそういうものですよね。
にしな:ああ、たしかに。「今日も今日とて」は、インスタのストーリーズに載せると考えた時に、日常を切り取るけど「そんなたいそうな日々じゃないしなあ」みたいな。自分もそうだし、なんかしょうもないシーンだったりするじゃないですか。でも、それが逆にいいっていう。愛をもってして、「どうでもいい」っていう。それは今に始まったものではないかもしれないですけど、「どうでもいい」っていうのはすごく……愛だな、みたいな(笑)。
この投稿をInstagramで見る
――なるほど。だから、そのどうでもよさを肯定するというか、「どうでもいいんだけど、でも楽しいよね」みたいな気分だったり、「生きてるとなんとなくいいこともあるよね」というような、すごくニュートラルな気分の表れな気がしますよね。きっと過去にはそうじゃなかった時もあったと思うけど。
にしな:うん、あったと思います。「もっとドラマチックにしたい」みたいな気持ちのときもありましたし。
――そこからの変化が今のにしなさんの曲にもライブでのパフォーマンスにも、たとえばこういうインタビューでの発言にも出ている感じがしますよね。
にしな:今はより「書いてはいけないことってないな」と思っているし、すごく自由だし、言ってることが明日違ってもいいし、っていうマインドで作れていますね。もしかしたら楽曲ごとの一貫性はないかもしれないけど、自分の精神衛生上、その時その時でクリアな状態で曲を書くことがすごくできている気がしてますね。