TenTwenty、『Abyss Red』に閉じ込めたクリエイターとしての業と歓喜 2作連続EPから紐解く今のモードとは

TenTwenty、新EP『Abyss Red』全曲レビュー

 斎藤宏介と須藤優によるバンド、TenTwenty。UNISON SQUARE GARDENのボーカル&ギターとしても活動する斎藤も、サポートベーシストとして名だたるアーティストと仕事をする須藤も、踏んできた場数が凄まじく多いスーパープレイヤーだ。「きみは幽霊」の〈現場の数なら年間100〉という歌詞を驚くべきことに真実として成立させてしまうTenTwentyは、結成から4年間で3枚のフルアルバムをリリース。プレイヤー気質の彼ららしく、バンドは走り出した。彼ら自身の好奇心、二者間での化学反応、ライブで対面する観客の熱狂がその道標となってきた。

 フルアルバム3枚を作り上げ、バンドとしての自己紹介を終えた彼らは、2025年3月にバンド名を現在の表記に改め、短いスパンでのリリースを宣言。そうしたギアチェンジを経て発表されたのが前作『Border=Border』であり、そこから1年も経たずして、今作『Abyss Red』がリリースされた。

 EPというフォーマットでのリリースが続いていることからも分かるように、さまざまな可能性/方向性を試し、スピード感を持ってリスナーに届けていくことが今のTenTwentyのモードなのだろう。

『Abyss Red』全曲レビュー

 溢れる創作意欲と渇望感は1曲目から全開だ。表題曲「Abyss Red」はBPM199と、前作表題曲「Border=Border」を上回るスピード。〈少しでも速く〉と繰り返し歌われており、その裏ではまるで自分自身を追い立てるように、スネアがバシバシと打ち鳴らされる。この曲を支配するのは、エナジーと肉体の躍動。歪んだ音色で細かくリズムを刻むバッキングギターとデジタルサウンドが電気のように体内を走るなか、各プレイヤーは、個人の限界に迫ろうという勢いで出力している。このどこかアスリート的なアンサンブルの在り様こそがTenTwentyの真骨頂であり、止まらない創作意欲の源泉なのだろう。〈誰も追いつけないスピードで行けば/全て歪に輝き始める〉というフレーズも、彼らのマインドを象徴している。

 2曲目の「Eleven Back」は、TenTwenty結成前から存在していたという。“須藤が作ったトラックに、斎藤がメロディと歌詞を乗せる”という現在の制作スタイルの原点にあたる曲のため、レコーディングでもサポートミュージシャンは入れず、斎藤と須藤の2人で完結させた。そして今作への収録にあたって、メロディも歌詞もアレンジも大きく生まれ変わった。トランプゲーム・大富豪のイレブンバック(革命)をモチーフに、未来の不確実性や勝負に出る瞬間の勇気を歌った曲だが、この曲の成り立ち自体が、さまざまな可能性を試しながら未来を切り拓こうとするTenTwentyの挑戦である。TenTwentyには珍しくダンスミュージックのマナーやビートを取り入れた楽曲で、ライブでの盛り上がりも期待できそうだ。

 一転して、3曲目の「柊」は、ミドルテンポのウィンターバラードだ。クレジットは“作詞:斎藤、作編曲:須藤”となっており、須藤作のデモやそこに当てられていた仮歌詞を受けて、斎藤が改めて歌詞を綴った。この曲では、もういない〈あなた〉への想いが歌われている。〈ぽっかり空いた穴は/あなたの形のまま〉というフレーズは切実だが、そこにあるのは悲壮感ばかりではない。全体を通して、喪失を埋まらないものとして肯定する姿勢が貫かれている。その根底にあるのは、誰かの代わりはいないと認める誠実さと、他者へ向ける優しい眼差しだ。サウンドが描く雪景色も温かく、TenTwentyの楽曲に初めて参加した和久井沙良(Key)の音色も美しくきらめいている。

 4曲目の「マツリカは夜に咲く」は、今作で最も底が知れない曲だ。冒頭、斎藤の低音ボーカルに寄り添うように遠くで鳴るサックスは、まるで深夜に響く獣の鳴き声のよう。フィルムノワール的な退廃美が漂うなか、A→B→C→D→A'→B→Eと展開する構成は定型を拒み、うねるベースやレイドバック気味のボーカルが拍感さえもぼやかしていく。音楽の魔力に取り憑かれ、夜の深淵へと潜るクリエイターの足取り、特有の集中と陶酔が表現された、TenTwenty流アートロックと言えるだろう。夜の静寂に容赦なく切り込む、鋭利なロックサウンド。〈掌でセラヴィ〉という言葉に滲むある種の諦念と、それ以上に強い音楽への執着。知性の影に潜ませた、凄まじい生存本能が顔を覗かせている。

 そのスリリングな実験を経て辿り着くのが、ラストを飾る「ハレ」だ。ここで鳴っているのは、ロカビリーやジャズの語法をパンク的なスピード感でドライブさせたハイブリッドサウンド。まるで、ヴィンテージなパーツとモダンなパーツを組み合わせながら、エンジンの回転数を上げまくった改造車のような――そして各々経験を重ねたミュージシャンでありながら、「まだまだ新人バンドですから」と言わんばかりの勢いで次々とクリエイトするTenTwentyの心身にもフィットするサウンドである。外の空模様がどうであろうと、自分の光も影も含めて、私がそう認めたらハレの日。聴く人の目線を上向きにさせる須藤のベースラインも、斎藤のクリアなボーカルも冴えわたっており、間奏のギターとベースのユニゾンフレーズもたまらないポイントだ。この曲では〈何もかも勉強中〉〈もう少し検討中〉と保留の姿勢が歌われているが、今すぐ答えを出さないのは、未来の自分を信頼しているからだろう。その可能性を胸にどこまでも行こうと自分たち自身に、そしてリスナーに語りかけるエンディングはとても爽やかだ。

TenTwenty「ハレ」Music Video

 深淵(Abyss)から光(ハレ)へ。クリエイターとしての業と歓喜に満ちたEP『Abyss Red』。異なる顔を持つ5曲は、TenTwentyの溢れる創作意欲の結晶だ。斎藤宏介と須藤優はミュージシャンとしては円熟の域にありながら、その精神はかつてないほど野性的だ。答えを急がず、変化を楽しみ、自らを追い立てるように加速する。そのスピードの先で、次はどんな景色を見せてくれるのだろうか。その目撃者になれる喜びを今は噛み締めたい。

■リリース情報
2nd EP『Abyss Red』
発売中
配信リンク:https://tf.lnk.to/TenTwenty_AbyssRed

初回生産限定盤A[CD+BD]TFCC-81177〜81178:¥7,700(税込)
初回生産限定盤B[CD+DVD]TFCC-81179〜81180:¥6,930(税込)
通常盤[CD]TFCC-81181:¥2,530(税込)

『Abyss Red』初回限定盤A
『Abyss Red』初回限定盤B
『Abyss Red』通常盤
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『Abyss Red』初回限定盤B
『Abyss Red』通常盤
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『Abyss Red』初回限定盤A
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<CD収録内容>全形態共通
01. Abyss Red
02. Eleven Back
03. 柊
04. マツリカは夜に咲く
05. ハレ

<初回生産限定盤BD/DVD収録内容>
『TenTwenty ONE MAN LIVE 〜ハレ〜 at Zepp DiverCity (TOKYO) 2025.10.20』
煌めき / きみは幽霊 / シトラス / Vivid Noise / No More / So Many Stars / Fantome / 4:43 AM / 曙空をみつけて / 次の朝へ / スプレー / ユースレス・シンフォニー / あれ / Answer5 /TenTwentyメドレー ハレver. (Stay Mellow / ZZZZZ / タイニーダンサー / 正者の行進 / アシ) / 月と蝶 / Border=Border / ハレ / マツリカは夜に咲く / E△7 / うらら

■公演情報
『TenTwenty ONE MAN LIVE TOUR 2026「Abyss Red」』
2026年2月18日(水)福岡県 DRUM LOGOS
2026年2月26日(木)大阪府 なんばHatch
2026年2月27日(金)愛知県 DIAMOND HALL
2026年3月06日(金)宮城県 Rensa
2026年3月08日(日)石川県 EIGHT HALL
2026年3月11日(水)神奈川県 KT Zepp Yokohama

『TenTwenty Billboard Live Tour 2026「NIGHTFLY」』
2026年4月7日(火)東京都 ビルボードライブ東京
2026年4月9日(木)大阪府 ビルボードライブ大阪

■関連リンク
公式サイト:https://tentwenty-web.com/
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YouTube:https://www.youtube.com/@TenTwenty_official

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