『百瀬アキラの初恋破綻中。』晴川シンタ×田淵智也 特別対談 10年来の理想が結実、漫画×音楽の“答え合わせ”

音楽プロジェクト・MAISONdesと少年サンデー編集部による、“サンデー作品の音楽化”アーティストプロジェクト『日曜日のメゾンデ』。ボーカリスト・礼衣の存在を一貫した軸としつつ、これまで『アイツノカノジョ』(小学館)を音楽化した「ふり」や、『写らナイんです』(小学館)から生まれた「バケバケ」など、多彩な楽曲を世に送り出してきている。
そんな『日曜日のメゾンデ』から新たに、漫画『百瀬アキラの初恋破綻中。』から生まれた楽曲「恋のいうとおり」が2026年2月18日より配信リリースされた。楽曲を手がけたのは、これまで自身のバンド・UNISON SQUARE GARDENのみならず、数多くの外部提供曲・プロデュース業を行なっている田淵智也だ。バンドマンの枠組みを超え、今や敏腕プロデューサーと言っても過言ではない八面六臂の活躍を見せる田淵は、“漫画作品の音楽化”にあたってどのようなアプローチで制作に臨んだのか。また彼のワークスを、原作者・晴川シンタはどのように受け取ったのだろうか。
今回リアルサウンドでは、そんな両者による対談を実施。タッグの裏話のみならず、互いの創作論・クリエイター論についてもじっくり語り合う、非常に熱い時間が詰まった対談稿をお届けしたい。(曽我美なつめ)
晴川シンタ、憧れの存在とのタッグ 音楽×漫画の理想的なマッチング
ーーお二人は今日の対談までに、どこかでご面識などはあったんですか?
晴川シンタ(以下、晴川):私は一方的にUNISON SQUARE GARDENさんのファンというだけで……本当に嬉しくてたまらない気持ちで今日を迎えました。日頃から「これ、いい曲だなあ」と思ってクレジットを見たら田淵さんが手掛けてる、って曲も多くて。
田淵智也(以下、田淵):いやあ、人生の喜びを噛み締めています。もう(取材が)いつ終わってもいいぐらいですね(笑)。
ーー(笑)。そして田淵さんはいかがでしょう、『百瀬アキラの初恋破綻中。』はご存知でしたか?
田淵:いえ、不勉強ながら今回のお話をいただいてから初めて読ませてもらいました。僕、すべての週刊連載をしている方を尊敬の眼差しで見てるんですよ。尊敬というか、「そんなことできるの!?」と思いながらですね。同じクリエイターとしても、考えられないペースで作品づくりをされてるので。
作品的な部分だと、一番強烈に刺さったのはギャグのスピード感とか、絵やセリフの表現による“熱量”が毎話ある点ですね。毎週これやってんのか、ってすごい感動しました。長編エピソードで何年かかけてゴールに向かうよりは、一話一話で一撃かます、みたいなタイプの漫画なので、毎回のギャグの熱量がすごいなと。恋愛漫画なのか、ギャグ漫画なのか、田舎漫画なのか……いろんなカテゴライズができるんですけど、やっぱりギャグの力強さ、みたいな部分が強烈に心に残りましたね。
晴川:うわ~、嬉しいです……! もともと作品を作る中で、二人の恋愛だけだとどこかで見たことある作品になるな、と思っていて。なので恋愛漫画を読みながら、読者さんの隙を突く形でギャグ要素を入れると「なんか今知らない衝撃がきた!」というサプライズができるかな、と考えてたんです。二人の性格がより一層わかるのも、やっぱりギャグパートなのかな、と思っていますね。

ーー数多の漫画作品にも触れている、田淵さんならではの慧眼が光る話ですね。ちなみに今回の『日曜日のメゾンデ』というプロジェクトのお話を聞いた際、率直にお二人はどんな印象を持たれましたか?
晴川:正直、すごい大きな企画が始まったな、という印象が最初にあって。私はもともと単純にサンデー読者だったこともあり、読者目線でも好きな漫画たちが音楽になるのがひたすら楽しみだな、と思っていました。打ち合わせを重ねる中でも、皆さんが本気でこのプロジェクトに取り組まれていることをすごく感じて、とても背中が伸びたというか。少年誌という枠組みで、読者さんも作家さんもみんながワクワクする企画だな、と感じましたね。
ーーそんなプロジェクトに、ご自身の作品が携わると知った時はいかがでしたか?
晴川:「本当ですか?」って担当さんに何回も聞いた記憶があります(笑)。企画をいただいた当初は、まだどなたに曲を作っていただくかはわからなかったんです。打ち合わせで作品のイメージや曲の雰囲気についてのお話をして、最終的に田淵さんだと聞いた時に、「え? あの田淵さんですか?」って震えたのをすごく覚えてます。もともとバンドのファンでしたし、それこそ「シュガーソングとビターステップ」はカラオケでリアルに50回ぐらい歌ってますし。あと、「天国と地獄」もすごく好きで。
田淵:あ、アルバム曲じゃないですか。
晴川:そうなんですよ、本当に好きなんです(笑)。『Mステ』とかに出演された時も、友達と「今日テレビ出るらしいよ!」「走って帰んなきゃ!」的なやりとりをしてたので。いろんな思いが脳内を駆け巡って、本当に嬉しかったです。


「漫画に曲を」ーー出版社へ持ち込んだ過去も
ーーまさしく「漫画を描いていてよかった」と思う瞬間のひとつになりましたね。田淵さんはいかがでしょう。
田淵:僕はそもそも、MAISONdesというプロジェクト自体がかなり衝撃で。「そんなやり方よく考えつくな、すごい人もいるもんだ」と思って結構いろんなインタビューも拝見してたんですよ。従来の考え方だと、やっぱりパーマネントなボーカリストがいないとどこかアーティスト未満の存在になるんじゃないか、という価値観だったと思うんです。でも逆に固定ボーカルの制限をなくして、歌う人が変わってもプロジェクト名としてのアーティスト像を打ち出すことで、むしろその他のいろんな制限・障壁を見事に解決できるな、と感動しました。それこそ今回のお話をいただいたのが、実はバンドの活動や他諸々の都合で提供案件のお仕事をかなり絞っていた時期で。ただマネージャーから話を聞いて、「あのMAISONdesに参加できるんですか!?」と(笑)。ほかの方には非常に申し訳ないですが、ちょっとこれだけは……と思ってお受けした経緯があったんです。
あと、今回のお話を受けた理由がもうひとつあって。実は10年ぐらい前から、漫画に曲をつける企画があればいいのに、とずっと思ってたんです。一度知り合いの編集者さんを介して、出版社に話を持ち込んだこともあるんですよ。漫画ってそもそも完結作から新作、アニメ化されてないものまで膨大な作品がある。一方で音楽を作るクリエイターにも、漫画好きって大勢いるんですよね。「この作品なら絶対、自分が誰よりもいい曲作れます」って特定の漫画に大きな愛を持ってる作曲家はプロアマ問わずたくさんいるので、「そこを結び付けたら最強なのでは?」と思っていました。その時は結局、時代がまだそこに向いてなかったというか。漫画はテレビアニメになるのが一番理想的なゴールで、やっぱりこの発想は流行らないのかなと考えてたんです。
ーーなるほど。以前からそのような思いがあったんですね。
田淵:はい。先ほど晴川さんもおっしゃってましたが、この企画って本当に本気度がすごいんですよ。こういうことをちゃんとやるには、当然小学館さんやクリエイターさん、漫画家さんと大勢の方を口説かなきゃいけない。それを実現まで漕ぎ着けてること自体に感動しましたね。自分じゃここまでの行動力はなかったな、と。そんな企画に参加させていただけるなんて、こんなに光栄なことはない、と飛びついちゃったんですけど(笑)。
ーーこれまでプロデュース業ほか多彩なお仕事を経験する田淵さんだからこそ、『日曜日のメゾンデ』のすごさを人一倍感じられるところがあるのでしょうね。
田淵:せっかくなので、この機会に僕からも晴川先生に質問していいですか? 僕、それこそ10年前の話の時に出版社の人に言われたのが、作品がテレビアニメ化した際に“もともとあったイメージソング”は足枷になると考える人もいる、ということで。場合によっては「元の曲がよかった」って意見もあったり、あとはたとえば漫画のボイスコミックからアニメになった時、声優さんが変わることにも賛否両論あったりするじゃないですか。その辺りのバランス感というか、原作者さんの感覚はどうなんだろう、と。
晴川:私はそういう感覚はまったくないですね。いろんな形で作品を盛り上げていただけて、シンプルに嬉しいと言いますか。実際に、漫画の読者さんって確かに音楽をいろいろ聞いてる方が多いイメージはあって。アニソンや主題歌もですけど、中には作品の“イメージソング”を探したり挙げてくださる方もいますよね。もし今後アニメ化しても、その前にこうやって曲を作っていただけるのは、より一層物語に入り込んでくれる入口がひとつ増える感覚ですね。なので不安より、圧倒的にワクワクの方が大きい。それこそ私自身、田淵さんの音楽に人生を支えられてきたところがあって、音楽の力のすごさを強く実感してるので。
田淵:いや、とてもグッとくるお話でした。基本的に漫画を描いてる人は音楽は書けないし、音楽を作れる人は漫画は描けないじゃないですか。たまに米津玄師さんみたいに絵もむちゃくちゃうまいみたいな人もいますけど(笑)。だからこそ、その両者ってマッチングすることもめっちゃあると思うんですよ。漫画家さんや出版社の編集さんの中には、ストーリーを描きながら「アニメ化するなら主題歌はこんな感じかな」「このキャラはこんな声かな」って想像してる人もいると思うし、一方で作曲家も勝手に作品のイメージソングを作ったりすることもあるんですよ。ここが一致するのって、誰も悲しむ人がいないすごく素敵な未来だな、と思うわけです。
晴川:漫画家としては、その逆も結構あるというか。好きな曲に対して「この曲の絵を描きたい!」ってなることもあるんですよ。たぶんこの曲ってピンクだな、青だな、真ん中で女の子が走ってて……みたいな。そういうインスピレーションの面でも、やっぱり絵と音楽って相性がいいんだな、と最近よく実感しますね。

ーー非常に興味深いクロスオーバーですね。その話から重ねてもう一点田淵さんに伺いたいのは、これまで作られたアニメ主題歌やプロデュース曲・提供曲等との間に制作面の意識差や手法の違いについてです。いかがですか?
田淵:うーん、そうですね……実はあまりなくて。無理やり差異をつけるなら、アニメ主題歌の場合は「1クールで大体何話、何巻まで進むのか」を考えて作ったり、最終回後にこの曲を聴くとまた少し聴こえ方が変わる、みたいなことも考えて作るので、それが違いと言えば違いかな。今回のようなケースだと、漫画って一巻を読んだ時点で大体方向性がわかるというか。それをきっかけにもっと読み進めてみよう、となる人が多いじゃないですか。なので楽曲を作る時も、一巻を読んだ中でパッと思い浮かんだインスピレーションで書くとそんなにハズレがないかな、と。ただ僕、アニメ主題歌しかりユニットへの提供曲しかり、普段から割と同じ手法で曲を書いてるんですよね。アニメ主題歌を書く際も、原作の一巻を読んで「この方向に話がいくんだろうな」って仮説を立てて読み進めることが多いので。それとやり方はあまり変わらない気がしますね。
加えて『日曜日のメゾンデ』はすでに既存曲もあったので、イメージはかなり掴みやすかったです。MVの作られ方とかも見て、やっぱり作品紹介の要素が強いのかな、と思って。一巻、もっと言えば一話目を読んだ時に浮かんだもので、おそらくズレもないし間違ってないだろうな、と書き進められました。今までと少し毛色の違う作品制作・オファーでしたが、臨む上で困ったことはあまりなかったですね。





















