歌声分析 Vol.7:松田聖子 なぜ“永遠のアイドル”であり続けるのかーー変化を内包する歌声、世代を超える普遍性
自らの声を最も輝かせる表現力、“松田聖子”というブランド
「マイアミの午前5時」(1983年)では、語尾に甘さを添えるしゃくりの精度がさらに際立つ。AOR的な都会性を持つこの曲のサビで、彼女はフレーズをすべて同じようにして響かせている。フレーズ後半の語尾を少し鼻に通すような独特の甘さを出すしゃくりは、後の女性アイドルの歌い方に大きな影響を与えた。音の立ち上がりだけに柔らかさを加えているため、甘さが過剰にならないのも、松田聖子のスキルそのものだ。また、一音一音を切るように歌っても旋律が途切れないのは、音と音の間を含めて歌っているからだろう。出した声のあり方を即座に判断し、次の声へと最適な距離で繋ぐ自己モニター能力の高さが、ここでは明確に表れている。
彼女の楽曲解像度への高さが極まった例が、「赤いスイートピー (English Jazz Ver.)」(2023年)である。原曲の可憐なイメージを大胆に裏切るジャズアレンジの中で、松田聖子は装飾をそぎ落とし、中低音を巧みに使いながらメロディの芯を際立たせる。旋律をなぞるのではなく、コード進行の中に声を落とし込むような歌唱は、声の柔軟性と同時に、歌い手としての器の強度を明確に示している。
自ら作詞曲を手掛けた「新しい明日」(2017年)は、彼女の歌声の本質を別の角度から照らす一曲だ。丸みのある発音と安定したブレスによって、声の包容力が自然に引き出されている。歌い手としてだけでなく、作り手としても自分の声が最も美しく響くポイントを把握しているからこそ成立する歌唱だと言える。
どんな曲調でも、松田聖子の歌声の透明度は揺らがない。その声は、音域が変わっても常に明るさと密度を保ち、質感が濁ることはない。この均質性こそが、長いキャリアを通して印象を更新しながらも、“松田聖子”というブランドが失われない理由だろう。
松田聖子が“永遠のアイドル”であるのは、時間を止めたからではない。時間を引き受け、その変化を声の中に通過させてもなお、歌を成立させ続けるだけの器を持っていたからである。だからこそ、彼女は懐かしさに回収される存在ではなく、今なお現在進行形のアイドルとして、その歌声でメロディをキラキラと輝かせ続けている。
※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-kr-daily/2024-06-28
※2:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/139951/2

























