歌声分析 Vol.7:松田聖子 なぜ“永遠のアイドル”であり続けるのかーー変化を内包する歌声、世代を超える普遍性
歌声分析
アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。
連載第7回目となる今回は、松田聖子を取り上げたい。
「青い珊瑚礁」が瑞々しさを失わない理由、“消費される若さ”から自立した響
なぜ松田聖子は“永遠のアイドル”と呼ばれるのか。その理由を、40年以上にわたり第一線で活動を続けてきたキャリアの長さに求めることはできる。しかし、それだけでは“永遠”にはならない。女性アイドルにとって、結婚や出産は避けられない役割の更新を伴い、アイドルというフェーズを完了させる区切りとして作用することが多い。にもかかわらず、松田聖子という存在は、年齢やライフステージの変化を経た今も、アイドルとして成立し続けている。それは、彼女の歌声そのものが、年齢や経験の変化を内包できる魅力を持っていた点にあると考察する。
2025年末の『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)で、初出場時にも歌唱した「青い珊瑚礁」を披露した姿は、その象徴的な場面だったと言える。さらに2024年には、NewJeansのメンバーであるHANNIが公演のなかで同曲を披露したことをきっかけに、日本の若い世代からも再注目されることとなった。同年6月には韓国のSpotify「デイリーバイラルチャート」で1位を獲得し、同時期にBillboard Japan「Japan Songs(国別チャート)」の韓国チャートでも1位を記録(※1、2)。1980年に生まれた日本のアイドルソングが、現代のグローバルポップの文脈で聴き直される現象が起きた。
「青い珊瑚礁」は、松田聖子を国民的アイドルへと押し上げた2ndシングルである。サマーポップスやAORの影響を感じさせる軽快な楽曲で、季節性の強いヒット曲として消費されても不思議ではなかった。しかし40年以上を経た今も瑞々しさを失わないのは、メロディに乗る彼女の歌声が、時代や季節といった時間軸を超えられる器を備えていたからだ。伸びやかでクリアなロングトーンは、強度と透明度を併せ持ち、プリズムのようにメロディを乱反射させる。澄んだ高音の奥にはわずかな湿度と艶があり、声の重心も安定している。この時点で、彼女の歌声はすでに“消費される若さ”から自立していた。だからこそ、昨年の『NHK紅白歌合戦』で披露された「青い珊瑚礁」も、若さを再現する方向へ進む必要がなかったのである。
KANEBOのBIOリップスティックのCM曲となり、本人出演のCMも話題となった「Rock'n Rouge」(1984年)は、松田聖子の歌い手としての対応力をより明確に示す楽曲だ。シンセポップやニューウェイブの影響を感じさせるリズミカルな曲調の中で、Aメロではリズム感を優先しつつ、語尾処理で可愛らしさを加える。ブリッジでは一気にトップトーンへと駆け上がり、直後のサビ〈PURE PURE LIPS〉では中高音域に移行するも、声の密度とピッチの中心を崩さないままニュアンスを変えていく。このピッチのブレない精度の高さが楽曲全体に立体感と推進力を与え、そして音域に左右されることなく透明感を与えている。






















