なぜ“俳優・草彅剛”は進化を続けられるのか? 『日本アカデミー賞』受賞から1年――3つの要素の好循環が支える演技
草彅剛が1月18日、主演舞台『シッダールタ』の大千穐楽を迎えた。同日、香取慎吾とともにパーソナリティを務めるラジオ『ShinTsuyo POWER SPLASH』(bayfm)では、「みなさんに支えられて、今回もいい舞台の旅ができました。たくさんの実りのある“教え”というか、いろんなものをもらいました。ありがとう。また次の未来につなげていけたら」と、穏やかな充実感をにじませた。
「どんどん進んでいく草彅剛。次は何ですか?」と香取が問いかけると、「いや、ないですよ。もうスケジュール真っ白じゃないですか。ようやく」と笑う草彅。「極端だよね。ドラマとか、ずっと途切れなかったから。台本が、次の次のがきてましたからね」と、怒涛の主演作ラッシュだった日々を懐かしむように語った。
2025年は、前年末から続いていた舞台『ヴェニスの商人』で幕を開け、4月にはNetflix映画『新幹線大爆破』が配信開始。10月には連続ドラマ『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ/フジテレビ系)がスタートし、その合間を縫うように舞台『シッダールタ』の稽古と本番が続いた。
舞台『ヴェニスの商人』で草彅が演じたのは、偏屈な高利貸しとして世の中から理不尽な扱いを受け続けてきたシャイロックだった。生まれながらに偏見と差別を背負わされた憤りが、胸を貫く。長年“稀代の悪役”として扱われてきたシャイロックは、本当に“悪”なのだろうか――そんな問いを突きつけてくる。
続くNetflix映画『新幹線大爆破』では、“鉄道人”という使命感と、ひとりの人間としての深い愛情を併せ持つ人物を体現。本当の思いと、今自分がなすべきこと。そのあいだで揺れ動く姿は、仕事とは何か、生き様とは何かを観る側に問いかけた。
葛藤しながら生きた先に待ち受けているのは、誰もが避けて通れない“死”だ。連続ドラマ『終幕のロンド』では、遺品整理士として人生の最期と真正面から向き合う姿が描かれた。そこには、草彅の愛犬・くるみちゃんとの別れと作品のテーマが重なり、画面越しにも胸の詰まるような思いが伝わってきた。
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そして、「永遠とは瞬間を焼き付けること」という言葉が印象的に響いた舞台『シッダールタ』。草彅は舞台という場で、何度も何度も人生を生き直す。生と死、苦悩と悟りを往復するなかで、“生きる”とは何かが、観客と体験を共有しているこの瞬間そのものにある――そんな境地にたどり着いたようにも見えた。
役を生きるたびに、草彅剛は自身の人生と時代の空気感と呼応しながら、その輪郭を更新していく。だからこそ、その演技は観る者の時間とも重なり、深く、長く心に残り続けるのだ。時代も国も超えた演劇の旅を終え、久しぶりに“令和の日本に生きる草彅剛”というホームに戻ってきた。そんな感覚に近いのかもしれない。
こうして振り返れば、「ようやく」という言葉が自然と口をつくのも頷ける。「チャージします」と話す草彅に、香取は「彼に台本を渡してください!」と、早くも次回作を待ち望む気持ちをぶつけていた。その言葉は、ラジオを聴く多くの“俳優・草彅剛”のファンの思いを代弁しているようでもあった。
昨年3月、映画『碁盤斬り』(2024年公開)で『第48回日本アカデミー賞』優秀主演男優賞を受賞した草彅。その活躍は、出演作ごとに“最高傑作”を更新し続けている印象すらある。演技に対するストイックな姿勢は、デビュー当時から変わらない。では、なぜ俳優・草彅剛の表現は、今なお進化し続けているのだろうか。
その理由のひとつは、年齢を重ねたからこそ徹底されている自己管理だろう。ラジオでは“健康つよぽん”としておなじみの草彅。健康的な食事、質の高い睡眠、隙間時間の運動。言葉にすれば当たり前のことを、日々実行し続けている。
この日の『ShinTsuyo POWER SPLASH』でも、入浴は芯まで温まること、食事はしっかり噛むこと、睡眠は「長く寝ればいいわけではない」といった持論を展開。その話を聞きながら、以前の取材で記者陣に「耳栓、買ったほうがいいですよ。音を聞きながら寝るなんて信じられない。今日、帰りに買って!」と力説していた姿を思い出した。それほどまでに、草彅にとって“眠る”という行為は集中すべき大切な時間なのだ。
“体が資本”と言うのは簡単だが、日々の行動を律し続けるのは容易ではない。それでも草彅は、数分でも時間を見つけてはトレーニングを実行する。その積み重ねが、役を生き抜く身体と精神を支えている。それは、自分自身を律する強さにほかならない。
さらに印象的なのが、年々深まっているように見える“感謝”の感覚だ。この日、それが象徴的に表れたのが「足の裏への感謝」トークだった。「足の裏って、いちばん偉いと思うんだよね。俺の25.5cmがふたつで、全体重を支えてるわけだからさ。毎日感謝してるよ。『シッダールタ』終わったあと、『ありがとう』って言って、冷水かけて」と語る草彅。
すり鉢状の舞台セットに砂が敷き詰められ、毎公演裸足で駆け上がっていた『シッダールタ』。クッション性の高い靴を履いていたときには気づかなかったであろう、足の裏の感触。この足の裏が踏ん張っているからこそ、自分は表現できる。その“再発見”をこれほどの熱量で語れるのも、草彅らしい。
その“ワクワク”を自ら生み出し、楽しむ力も健在だ。香取が『シッダールタ』観劇後に訪れた楽屋には、大量の古着が並び、まるで古着ショップのようだったという。そこには「Mr.KATORI HOLD」と書かれたタグがつけられていたそう。草彅は、自分が古着店のオーナーになった妄想を楽しみながら、「HOLD」のタグをつけるという話をたびたび披露していたが、まさか楽屋にまで及んでいたとは驚きだ。しかも、この「HOLD」タグをつける理由は、“売りたくない”気持ちを味わいながら、オーナーだけが着られる状態を楽しむのだというから、かなりマニアック。
「ほんとにわけがわからないんですけど」と苦笑いする香取に、さらに「Mr.INAGAKI HOLD」もあるのだとも。そして、「(稲垣)吾郎さんが絶対選ばないようなボロボロのやつにつけるのがたまらない」と笑うのだ。
誰かのためでも、誰かに求められてでもない。ただ、自分が楽しいからやっている。その“好き”というパワーがどれだけ人を輝かせるのかを、草彅自身が知っている。どこかの誰かが着たヴィンテージアイテムに、新しい1日の始まりが楽しみになるほど心を踊らせる草彅。そんな草彅の表現を見るのを、同じくらい楽しみにしている人たちがいる。
自己管理という土台に、感謝する心の潤い、そこに“好き”が巡るエネルギーの好循環が、俳優・草彅剛の作品にも息づいているのだろう。
草彅に久しぶりに訪れたゆっくりとした時間。ぜひとも好きなものに囲まれながらたっぷりとチャージしてもらいたい。そして、また次の作品で私たちを圧倒させてくれることを期待している。

























