『初音ミクシンフォニー』10周年公演で見せた集大成とこれから 感動と興奮に沸いた横浜公演を振り返る

『初音ミクシンフォニー』の集大成を観て

 初音ミクをはじめとするバーチャルシンガー楽曲をオーケストラ演奏で届け、10周年を記念する『初音ミクシンフォニー2025 10th Anniversary』の横浜公演が10月4日、パシフィコ横浜 国立大ホールで開催された。昨日12月27日の神戸公演を終え、10年の集大成ともいうべき豪華かつ刺激的な内容で、観客を感動の渦に巻き込んだ横浜公演を振り返る。

 1曲目に演奏されたのは、このアニバーサリーイヤーに定番となった「Blessing」(halyosy)。クラシック専用ホールでの美しい演奏も記憶に残るが、映像演出にバーチャルシンガーたちの歌唱、さらに杉並児童合唱団によるピュアな合唱により、人生を祝福する幸福感に満ちた演奏に。2曲目には、一転して管弦の響きがドリーミーなメロディを強調しつつ、映像が不穏さを際立たせる「愛して愛して愛して」(きくお)が演奏され、フルオーケストラ×映像&歌唱の掛け合わせによる、初音ミクシンフォニーらしい懐の広さが感じられた。

 本公演もセットリストが光る。黒うさPによる「ACUTE」、その続編となる「ReAct」が連続で披露されたと思えば、鏡音リン・レンの名曲「右肩の蝶」(のりぴー)、MEIKOとKAITOの落ち着いた歌唱が和のテイストを引き立てる「番凩」(hinayukki@仕事してP)と、バリエーション豊かな展開だ。

 

 この日も指揮者・栗田博文と東京フィルハーモニー交響楽団の卓越した演奏はまったく揺るぎなく、あまりに幅広いセットリストに芯を通していく。前半の最終曲は、待ち望んでいた観客も多いだろう、19's Sound Factoryによる「Dear」。ニコニコ動画でも多くの歌い手がコラボした”合唱曲”であり、オリジナルにはない、初音ミクやその他のバーチャルシンガーたちの掛け合いと合唱団のコーラスが、メリハリの効いたオーケストラに映える。折り重なる歌声のなかで、ヴァイオリンの音色が切ない恋を歌い上げるような名演だった。

 そしてコンサートは怒涛の後半へ。冒頭からスペシャルゲストとしてステージに上がったのは、シーンと関係性の深い人気ロックバンド・ヒトリエだ。あまりにも輝かしい才能でリスナーを魅了し、2011年にwowakaを中心に結成されたバンドであり、今も彼の名曲たちはヒトリエのなかで生き続けている。オーケストラとバンドのスペシャルコラボで演奏されたのは、「裏表ラバーズ」 「ローリンガール」「アンハッピーリフレイン」「ワールズエンド・ダンスホール」と、シーンを追いかけてきたファンなら誰もが知る人気曲ばかり。オーケストラの繊細さ/華やかさと、ヒトリエの力強いビートが融合した厚みのあるサウンドに乗せて、初音ミクとシノダのツインボーカルが輝いた。

 シノダは初音ミクシンフォニーの10周年を祝い、「うちのメンバーが作った曲を演奏する機会をいただき、ありがとうございます」と頭を下げる。ステージから見えるのは、シーンを愛する観客で埋め尽くされた“最高の景色”。MCの締めくくりに、シノダは「wowakaならきっとこう言うでしょう。『俺の作った曲を愛してくれてありがとう』と」と熱く語り、「wowakaより愛を込めて」と前置きして、初音ミクにとっても特別な一曲「アンノウン・マザーグース」の演奏がスタート。<Whoa, whoa,whoa,whoa>のシンガロングが響き渡る、初音ミクシンフォニーでなければ体験できない空間が生まれていた。

 衝撃的なステージに揺さぶられた心を落ち着かせるかのように、本編を締め括ったのはkz(livetune)による、シーンを代表するアンセムのひとつ「Hand in Hand」。7月の東京・サントリーホール公演では、10周年を記念して制作されたヴァイオリンが使用され、シロフォンの跳ねるリズムとパイプオルガンの荘厳な響きが、未来へ向かう開放感と、切実なメッセージをそれぞれ強調していたが、本公演ではバーチャルシンガーたちの歌唱に寄り添うような優しさが際立っていた。

 鳴り止まない拍手に応えたアンコールもすごい。まずはオーケストラのみで「メズマライザー」(サツキ)、「オーバーライド」(吉田夜世)と、ともに2024年に大ヒットを記録した新規曲を鍵盤打楽器をフィーチャーした形で披露。“長く愛されてきた人気曲”だけにフォーカスせず、リアルタイムにシーンとシンクロしながら挑戦を続ける、初音ミクシンフォニーの真骨頂だ。

 さらに、美しい映像演出とともに始まった「初音ミクシンフォニー10th Anniversaryメドレー」。「ぽっぴっぽー」(ラマーズP)を軸に紡がれていく、各年の公演を象徴する楽曲のメドレーは、歴史を押しつけがましく伝えるのではなく、あくまで軽やかに未来に向かっていくイメージだ。続いて演奏されたMitchie M書き下ろしによる10周年記念楽曲「プレイオン」も同様に未来志向のメッセージを湛えており、終盤のハイライトを作ってみせた。

 怒涛のセットリストに大満足していると、最後にもう一曲、「メルト」(ryo (supercell))が演奏されるというサプライズが。イントロから目に涙を浮かべる観客の姿が散見されたが、心地よく響く管弦の音色に身を任せていると、ラスサビにはキャノン砲というド派手な演出もあり、弾けるような笑顔とスタンディングオベーションを残して、公演は終了した。

 冒頭に“10年の集大成”と書いたが、想像をはるかに超えて見どころが多く、心を揺さぶられるコンサートだった。映像作品、あるいは音源として、ふたたびこの一夜を振り返るのがいまから楽しみだ。

初音ミクシンフォニー2026 開催決定!

札幌公演
2026年6月20日(土)
札幌コンサートホール Kitara

東京公演
2026年7月5日(日)
サントリーホール 大ホール

※その他の公演、チケット詳細は後日ご案内します。
※札幌、東京公演はフルオーケストラによる生演奏となります。初音ミクを始めとする歌唱やスクリーン映像による演出はございません。

『初音ミクシンフォニー10th ANNIVERSARY BOOK』

『初音ミクシンフォニー10th ANNIVERSARY BOOK』

発売日:2025年12月27日(土)
発行:株式会社blueprint
仕様:A4、ソフトカバー、4色、128ページ
価格:6,600円(税込)

【目次】
・池田俊貴 × 佐々木 渉× Mitchie M 鼎談 初音ミクシンフォニー10年の軌跡
・ryo(supercell)が語る 初音ミクシンフォニーとボカロ文化の進化
・Concert History 2016-2020
・KEI×Rella スペシャル対談
・指揮者・栗田博文 密着取材レポ
・10周年記念ヴァイオリン制作工房レポ
・アレンジャー座談会
・Concert History 2021-2025
・mothy_悪ノPに聞く 初音ミクシンフォニーの醍醐味
・パイプオルガン奏者 石丸由佳インタビュー
・コントラバス首席奏者 片岡夢児インタビュー
・MC動画クリエイター 辻恭平(G2)インタビュー

初音ミクシンフォニー

公式サイト:https://sp.wmg.jp/mikusymphony/
公式X:https://x.com/mikusymphony

「初音ミクシンフォニー - 10th Anniversary - 特集」
https://realsound.jp/2025/03/post-1947137.html

■関連情報

初音ミクシンフォニー2025 神戸公演 国内、国外にてアーカイブ配信中!!

神戸公演限定!!10周年開催&年末スペシャル 交響曲第9番(ベートーヴェン) feat. 初音ミク も演奏!!
2025年12月27日(土) 17:30 放送開始|18:00 開始 配信チケット ¥3,900(tax in)
(購入期間:2026年1月11日 21:00まで)

国内PPV
https://abema.go.link/49WIk

海外PPV
https://https://abe.ma/49Yt0mi

初音ミクシンフォニー2025 横浜公演Blu-ray&CD 2026年2月4日(水)Release‼︎

https://mikusymphony.lnk.to/Miku2025
10th Anniversary Special Guest
ヒトリエ

初音ミクシンフォニーコラボカフェ 「10th Anniversary Party」神戸でも開催が決定!


予約受付中
https://party.escrit.jp/ip-collaboration/809/

【開催会場】
ア・ラ・モードパレ&ザ・リゾート メゾングラース
※会場への直接のお問合せはご遠慮ください

【開催期間】
2025年12月26日(金)~12月28日(日)、2026年1月8日(木)~2月1日(日)
※月火水は定休日となります
※一部金も休日となります。

〇コンサート10周年を記念したメニューやオリジナルグッズを販売します。
〇完全予約制となります。

©CFM
※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

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