『初音ミクシンフォニー』がボカロシーンに築いた新しい文化 10周年の歩みを振り返る

バーチャルシンガー楽曲をフルオーケストラで演奏するコンサートイベント『初音ミクシンフォニー』が2025年で10周年を迎えた。初開催の2016年は東京公演のみだったが、今年は札幌、大阪、東京、横浜、神戸の5公演で開催。チケットは常にソールドアウトで、海外からも多くのファンが駆けつけるなど、いまや「初音ミク」を中心に広がるカルチャーの一大イベントとして定着している。
ボカロ楽曲×オーケストラの意外な好相性と革新性
初音ミクシンフォニーの初開催に際して、クリエイターがPCと向き合って創作してきた新たな音楽ジャンルであるボカロ楽曲と、多くのプロフェッショナルが歴史と伝統を紡いできたオーケストラという、一見正反対にも見える取り合わせへの興奮とともに、観客には一定程度の戸惑いも感じられた。「バーチャルシンガーにも、オーケストラにも詳しい」という人は少数派で、「初めてフルオーケストラのコンサートを観る」という人もいれば、「バーチャルシンガーの楽曲はあまり詳しくない」という人も少なくない。そんな中で期待と不安が入り混じる開幕となったが、それもほんのひと時のことだった。


クリエイターの個性が爆発した楽曲たちを見事に“翻訳”したアレンジの妙、いまや初音ミクシンフォニーのアイコンになっている栗田博文の曲想を深く理解した指揮と、東京フィルハーモニー交響楽団の卓越した演奏。「ハジメテノオト」のような優しいバラードや、中世物語調の「悪ノ娘」「悪ノ召使」のようにオーケストラとのマッチングがよさそうな楽曲だけでなく、「初音ミクの消失」や「裏表ラバーズ」のような“ザ・ボカロ曲”な難曲も新たな魅力を湛えた名演となり、初回から“興味本位で観に行くコンサート”ではなく、“純粋に上質な音楽を楽しむコンサート”であることを示した。


第一回の公演は、クリエイターたちの新しい発想と伝統あるオーケストラの懐の深さが「過去と未来」をつなぎ、音楽ファンの新たな楽しみを生み出すものだったと言えるだろう。回を重ねるごとに、栗田博文の合図で演奏中に「手拍子」が広がったり、またオフィシャルグッズのバングルライトなどにより観客席がバーチャルシンガーのイメージカラーで彩られたりと、初音ミクシンフォニーならではの楽しみ方も広がっていった。演奏者や編曲家に話を聞くと、肩の力を抜いて楽しめる「クラシックコンサートの入り口」としても素晴らしいコンサートだと高く評価されている。
シーンへのリスペクトに溢れた「初音ミクシンフォニー」の魅力

一方で、初音ミクシンフォニーはバーチャルシンガー/クリエイターの歴史を尊重し、シーンへのリスペクトを持って開催されていることも見逃せない。
例えば、2017年の公演では初音ミクとともに、10周年を迎えた鏡音リン&鏡音レンをフィーチャー。10周年記念メドレーとして「炉心融解」「ココロ」「悪ノ娘」「悪ノ召使」「ロストワンの号哭」が演奏され、観客を沸かせた。2022年のKAITO15周年にはDios/シグナルPが「怪人」、2024年の巡音ルカ15周年にはナナホシ管弦楽団が「ヴィーナス」を書き下ろすなど、初音ミク以外のバーチャルシンガーオリジナル楽曲も多数展開。また、初開催時には40mP、2017年にジミーサムP/ナユタン星人など、クリエイターにフォーカスした企画も最初期から定番化しており、mothy(悪ノP)による「悪ノシリーズ」が15周年を迎えた2023年には、「悪ノ交響曲」と題されたロングメドレーが誕生している。

こうした初音ミクシンフォニーの姿勢に呼応するように、人気クリエイターが提供してきた「テーマ曲」も豪華そのものだ。初開催から演奏され、人気曲として定着しているMitchie M「未来序曲」をはじめ、2018年にはふわりPによるオールキャスト曲「たいせつなこと」、5周年の2020年にはジミーサムP「舞台」、2022年にはkeeno「青を焚べて」など、数々の名曲が誕生。そして2025年、Mitchie Mが10周年を記念して書き下ろしたのが「プレイオン」だ。これまでの歴史をあたたかく振り返りながら、未来を見つめて「演奏を続ける」ーー「G線上のアリア」や「歓喜の歌」という耳馴染みのあるクラシック楽曲を織り交ぜた希望に溢れる一曲は、今後長く演奏され、愛され続けていくだろう。
10周年イヤーのさらなる進化と“次の10年”への期待

記念すべき10周年イヤーとなった2025年は、初音ミクとゆかりのある北海道・札幌での待望の初公演、初音ミクのキャラクターボイスを担当した藤田咲をMCに起用した、栗田博文による楽曲解説コーナー、mothy(悪ノP)/ ryo (supercell)というレジェンドのゲスト出演に、ヒトリエのバンド演奏とオーケストラのコラボレーションなど、観客を楽しませる多くの企画が催されており、さらなる進化を感じさせる。各公演のセットリストを見ても、「これまでの人気曲を演奏する」という守りの姿勢ではなく、新規演奏曲やリアレンジ曲を多くラインナップしており、挑戦を続けている。

この10年、筆者は観客やクリエイター、アレンジャーや演奏者など多くの人に話を聞いてきたが、共通しているのは、これだけ労力と情熱を要するコンサートイベントが、コロナ禍も乗り越えて続いていることへの敬意と、感謝を語る声だ。その上で、海外公演の要望も年々高まっており、またクリエイターからは「オペラ/音楽劇」との親和性、より即興性のあるバーチャルシンガーとオーケストラの掛け合いなど、将来的なさらなるチャレンジに期待を寄せる声もある。


10年の足跡を振り返れば、ファンは何も心配することはない。『初音ミクシンフォニー』は次の10年もシーンへのリスペクトを忘れず、卓越した演奏と新たな企画で観客を魅了し続けるだろう。チケットの争奪戦は激しくなっていきそうだが、可能な限り会場に足を運んで楽しみたいところだ。

初音ミクシンフォニー2025
札幌、東京公演を収録した開催10周年アニバーサリーCD
2025.10.1(Wed)Release‼︎
『Miku Symphony Live at Sapporo & Tokyo - 10th Anniversary Best -』

10周年アニバーサリーCDオフィシャルサイト:
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/10th/anniversary_best/
■初音ミクシンフォニー2025札幌公演(札幌コンサートホールKitara)・東京公演(サントリーホール)2公演分の全演奏曲収録‼︎
■LPサイズパッケージ仕様の超豪華初回生産限定盤‼︎
『初音ミクシンフォニー2025 10th Anniversary』
【神戸公演】SOLD OUT
2025年12月27日(土)
神戸国際会館 こくさいホール
開場17:00/開演18:00
指揮:佐々木新平
演奏:兵庫芸術文化センター管弦楽団
合唱:三田少年少女合唱団
10th Anniversary Special Guest
ヒトリエ

『初音ミクシンフォニー 10th Anniversary Book』
2025年12月27日(土)発売予定
発行:株式会社blueprint
仕様:A4、ソフトカバー、4色、128ページ
予価:6000円+税

初音ミクシンフォニーコラボカフェ「10th Anniversary Party」
開催期間:2025年10月02日(木) ~ 2025年11月08日(土)
開催時間:カフェ
①11:00~12:15 ②11:30~12:45 ③12:30~13:45 ④13:00~14:15
⑤14:00~15:15 ⑥14:30~15:45 ⑦15:30~16:45 ⑧16:00~17:15
⑨17:00~18:15 ⑩17:30~18:45 ⑪18:30~19:45 ⑫19:00~20:15
⑬20:00~21:15 ⑭20:30~21:45
※75分の完全入替制となります
※最終入店時刻は各回開始10分後です
※各回ラストオーダーは終了時刻の30分前です
開催場所:Cafe Fan Base
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい2-2-1ランドマークプラザ5階
ご予約ページ:https://www.tablecheck.com/shops/cafe-fan-base/reserve
詳細:https://cafefanbase.com/event/mikusymphony2025/

【初音ミクシンフォニー】オフィシャルサイト
https://sp.wmg.jp/mikusymphony/
【初音ミクシンフォニー】オフィシャルX
https://x.com/mikusymphony
【初音ミクシンフォニー】オフィシャルグッズ
https://axelstore.jp/mikusymphony
©Crypton Future Media, INC.
「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

























