M!LK「好きすぎて滅!」や=LOVE「とくべチュ、して」などで注目! 槙田紗子に聞く、“踊りたくなる”振付の秘密

槙田紗子、“踊りたくなる”振付の秘密

 超ときめき♡宣伝部、FRUITS ZIPPERなど、数々の人気アイドルグループの振付を担当し、ヒットを生み出し続けている槙田紗子。2025年もその勢いは止まることを知らず、中島健人「JUST KENTY☆」、M!LK「好きすぎて滅!」、=LOVE「とくべチュ、して」など、幅広いアーティストの魅力を引き出す振付で注目を集めている。今回のインタビューでは、自身のキャリアのスタート地点から、TikTokでのバズを生み出す秘訣、そして各アーティストへのリサーチに基づいた制作プロセスまで、ヒットメーカーとしての思考と情熱を深掘りした。(編集部)

PASSPO☆所属時代に感じていた振付への苦手意識

ーーまず、槙田さん自身がダンスを始めたきっかけを教えてください。

槙田紗子(以下、槙田):赤ちゃんの頃、ハイハイしてる時に音楽に合わせて首をアイソレーションしていたらしくて。私は絶対にしていないと思うんですけど(笑)、その光景を見た父親が、リズム感があるからダンスを習わせようと言ったのがきっかけで、自分から始めたというよりは、習い事の一つとして始めました。ダンス以外の習い事は全部続かなかったんですが、ダンスだけはすごく好きで、ずっと続けられたんですよね。ダンス教室は、発表会が年に1回あるんですけど、そこで衣装を着てお化粧とかしてステージに立つことが楽しかったんだと思います。

ーーダンス教室ではどういうダンスを習っていましたか?

槙田:ジャズダンスとヒップホップ、途中からタップダンスを習ってました。通ってたダンス教室が外から見えるガラス張りになっているスタジオで、自分が受けるクラスの前後のレッスンを覗けるんです。なので、憧れの年上の子の姿を見ながら、親に「私もこれやりたい!」と言って、どんどんクラスを増やしてもらって。結局、送り迎えしてもらいながら週に3回、3クラスに通っていましたね。

ーーその後PASSPO☆のメンバーとしてデビューを果たします。アイドルを目指したきっかけは何だったのでしょうか。

槙田:すごい変なこというんですけど、中学生の時に「大勢の人に知られた状態で死にたいな」って思ったんです(笑)。例えば、お葬式をした時にニュースになる人みたいな。それで芸能界に入ろうと思って、自分でいろんな事務所に履歴書を送って唯一受かったところに入りました。だから、アイドルになろうと思っていたというよりは、有名人になりたいみたいな感じで、芸能界を目指していました。そこで、ちょうど事務所内でアイドルグループを作ることになり、事務所内オーディションを受けてくれませんか? と言われて、受かって活動することになりました。

ーーある意味成り行きのような形でアイドル活動がスタートしますが、その後グループでは振付を手がけるようになります。それが現在の活動の原点になっているように感じますが、そもそもなぜPASSPO☆の振付を槙田さんが手がけることになったのでしょうか。

槙田:PASSPO☆って、ダンス経験者のメンバーが私と、もう一人しかいなかったんですよ。なので、自然と“ダンスメン”みたいな感じに言われることも多い状況だったんですね。当時PASSPO☆はセルフプロデュースに力を入れていて、自分たちのことは自分たちでやっていこうという方針になり、自分で歌詞を書いたり、衣装のデザインに挑戦するメンバーも出てきたりしました。そんな中で、自分はダンスやっていたからという理由で「振付をやってみなよ」と言われたのが最初のスタート地点でしたね。でも、もう一人のダンスが得意なメンバーは天才肌というか、振付が降ってくるタイプの子だったんですよ。逆に、私は考えないとできなかったから、あまり向いてない気がして、嫌でしたね。渋々やっていました(笑)。

 でも、振付だけじゃなく演出にも挑戦できるようになって、20歳くらいの時に、ワンマンライブのあるパートを任された時がありました。その時に、自分の頭の中にあるものをメンバーが再現してくれるということを経験して、感じたことがないアドレナリンが出て。すごい幸せな気持ちになったんですよね。そこで、私が目指す先はこっちなのかもしれないな、と感じました。自分が表に立つことも楽しいけど、それとは違う快感があって、誰かを演出したほうが自分らしくいれるかもしれないと思ったのは今でも覚えています。

ーー振付ではなくライブ演出に楽しさを見出していたんですね。

槙田:そうですね。でも当時は、ライブ演出をする人って振付師の人が多かったので、今でこそ有名なライブ演出家さんがたくさんいますけど、当時はあまり演出家さんを知らなかったんです。でも、例えば、仲宗根梨乃さんが少女時代の楽曲の振付を手がけて、ライブも演出しているというようなことは知っていたので、振付を頑張ってみようかなと思い始めました。今思えばその思考が良かったかもしれないですよね。

 だから振付に抵抗があったのも最初の方だけで、2曲目からは楽しく取り組んでいたと思います。2曲目の振付は、新曲の音源をスタッフさんからいただいた時に、「この曲の振付をしたい!」と強く思って、「これの振付の先生って決まっていますか?」って事務所の社長に電話して、まだ決まってないと言われたから「私が振付したいです」と頼んだほどで。それくらい振付は楽しんでやっていました。

作り直した結果、老若男女に愛された「すきっ!」(超ときめき宣伝部)

超ときめき♡宣伝部 / 「すきっ!〜超ver〜」Live Edit ver

ーーその後グループを卒業して、振付師としてのキャリアを歩んでいきます。一つの転機は超ときめき♡宣伝部の「すきっ!」のバズヒットであるように感じます。楽曲のリリースは2018年で、当然振付もその時に付けられたと思いますが、この楽曲は2021年ごろからTikTokを中心に注目を集め、大ヒットとなりました。

槙田:「すきっ!」は私にとって、超ときめき♡宣伝部さんの振付を手がける2曲目の楽曲でした。当時は頼まれた“2曲目”の期待に応えないとというプレッシャーはありました。実は一度振付のデモ動画を送った時に「もっと簡単にしてほしい」と言われたんですよ。その時はまだ新人だったので「マジやばい終わった」と思って(笑)、深夜まで考えて振付を作り直しました。「もっとキャッチーに老若男女誰でも踊れるようなものにしてください」と言われていたので、本当に誰でも踊れるようなものにしました。当時はそもそもTikTokが全く一般的ではなくて、もちろん縦型動画という概念すらなかったので、それらを意識して制作したわけではないのですが、いつの間にかこんなことに(笑)。ちょうど「すきっ!」がバズっていた時に超ときめき♡宣伝部のメンバーも「先生バズってます!」と喜んでくれていました。みんなが頑張っている様子も見ていたので、私も嬉しかったですし。

ーー確かに、言われてみれば「すきっ!」はまさに老若男女にカバーされたことがTikTok上でのヒットの一つの要因になっているように感じます。

槙田:だからあの時の修正はおっしゃるとおりだったんだと思います。この振付じゃなかったらこんなに気軽に踊れるものじゃなかったし、その時に言ってくれたディレクターさんは本当にすごい方だと思いました。

TikTokでのヒットを狙った「わたしの一番かわいいところ」(FRUITS ZIPPER)

【Dance Practice】FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ - Watashino Ichiban Kawaii Tokoro」

ーー2020年代の女性アイドルは、TikTokでのヒットがより注力されるようになります。2022年にはFRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」の振付も手がけました。

槙田:「わたしの一番かわいいところ」は、直球でTikTokでバズりたいんですって言われて。そうオーダーされたのは初めてだったかもしれないです。今は言われすぎてもう麻痺してるんですけど、その時は今ほど女性アイドルがTikTokを重視していなかったタイミングだったので、オーダーを受けて私も素直に、TikTokをたくさん分析して取り組みました。

ーー結果としてはその狙い通りヒットを記録しました。

槙田:冷静に分析すると、自分なりの絶妙なバランス感みたいなものを見つけて渡した振付が、メンバーのポテンシャルやタイミング、運とかと重なって、ヒットにつながったんだろうなという感じがします。「本当にバズるんだ、狙い通りになるんだ」と思って見ていました。この曲はTikTok用に手だけのものを振付して、みんなで試しに動画を撮影してみたら、それがあまりにも可愛くて。「これはいけるかも」という直感はありました。とはいえ、可愛いだけで流行るものでもないし、どちらかというと「流行ったらいいね」くらいの気持ちで話していたんです。そうしたらあれよあれよと再生回数が伸びていって、FRUITS ZIPPERの名前が広がっていく様子を驚きながら見守っていました。

振付を考える上で考える、グループの特性と求められるもの

ーー2025年は=LOVEの「とくべチュ、して」もTikTok上でヒットとなりました。2024年の「仲直りシュークリーム」で初めて振付を手がけましたが、どのようなことを意識しましたか?

槙田:=LOVEに限らずですが、担当させていただく方のことはかなりリサーチをしています。とくに初めて関わる方は入念にリサーチしますね。=LOVEさんは担当させていただく前からMVが公開されるたびにチェックしていたのですが、改めて、このグループの特性や、何が求められているのか、今のグループにどんな要素があったら喜んでもらえるのかを調べます。その上で自分にできることは何だろうと考えます。今までたくさんの楽曲を出してきたグループが、初めてのクリエイターに依頼することって勇気がいることだと思うんです。今までの楽曲の振付も素敵なものばかりの中で、あえて私に依頼してくれたということは、グループにとって何か新しい要素が欲しいからだと思うんですね。だから今までの楽曲のような振付はしないようにしています。

ーーでは、=LOVEには何を追加しようと考えて振付をしたのでしょうか。

=LOVE(イコールラブ)/ 18th Single『とくべチュ、して』Dance Practice ver.

槙田:=LOVEって可愛いし王道なイメージはあるけど、ブリブリな曲って意外とないなと思っていたんですよ。切ない失恋ソングやK-POPライクな曲が結構あって、世間のイメージより本格派なグループなんですよね。だからこそ、世間がイメージするような王道かわいい振付を意識しました。「仲直りシュークリーム」も「とくべチュ、して」もかわいらしさに振り切ったものになっています。

ーー2曲とも=LOVEのファンの間では評判だったように感じます。

槙田:私の友達にも=LOVEのファンがたくさんいて、みんなに感謝されました(笑)。「これが見たかったんだよ」って言っていただいて、「やっぱりそうだったか」と思いましたね(笑)。

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