Official髭男dism、内側から見つめ直した“4人の物語” ノンタイアップシングル「Sanitizer」が充実期に生まれた意味

Official髭男dismの新曲「Sanitizer」が12月1日に配信リリースされた。この曲は、彼らにとって約7年ぶりのノンタイアップシングル。前作のノンタイアップシングル「Stand By You」のリリースが2018年10月だったことを考えると、実に長い時間が経っている。
Official髭男dismはメジャーデビュー以降、数々のタイアップ曲を世に送り出してきた。楽曲のクオリティの高さを評価され、老若男女から愛されるバンドとなった彼らは、今年5~6月には初のスタジアムツアーを開催。大阪・ヤンマースタジアム長居と神奈川・日産スタジアムで計4公演、25万人を動員した。そして8月には『SUMMER SONIC 2025』のメインステージに出演。9月に公開された劇場アニメ『ひゃくえむ。』の主題歌として「らしさ」を書き下ろし、10月にはスタジアムツアー最終公演の模様を収めたライブフィルム『劇場版 OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025』を全国の劇場で公開するなど、バンドのスケールは着実に拡大している。ファンのみならず、あらゆる人に「ヒゲダンの楽曲/ライブならば間違いない」と思わせるほどの円熟味すらある。
パーソナルな世界観で歌われる“愛のスタートライン”
そんな充実の2025年を締めくくる時期に届けられたのが、「Sanitizer」だった。同曲リリースの翌週、12月10日からは4人だけでライブハウスをまわるツアー『OFFICIAL HIGE DANDISM one-man tour FOUR-RE:ISM』(ファンクラブ会員限定)も始まった。巨大な熱狂から、再び4人だけの空間へ。この流れの中でリリースされたノンタイアップシングルには、バンドが今改めて確認したい“核”が刻まれているように思える。
「Sanitizer」は、ミドルテンポのロックバラードだ。イントロで鳴っているのは、楽曲全体を貫くピアノリフ。非常に小さな音量で高音の連符も重ねられており、キラキラとした音色が、ひらひらと舞う雪を連想させる。やがて歌詞が始まると、その内省的な内容から、この雪景色は主人公の心の中に広がるものであることがわかる。各楽器の演奏もシンプルで、パーソナルな世界観に寄り添うようなアレンジが施されている。
パーソナルな内容だからこそ、ノンタイアップでリリースするのがしっくり来たのかもしれない。一般的にラブソングでは、“君”への愛や関係性そのものについて歌われる。一方、Official髭男dismの場合、“君”を愛するために自己と向き合う過程を歌うタイプのラブソングも多い。例えば「Pretender」や「I LOVE...」は前者であり、「Subtitle」は後者だ。そして今回の「Sanitizer」は、後者にあたるだろう。音数も言葉数も多いメロディで、内なる葛藤をひたすら歌い続け、最後にようやく〈会いに行くよ〉と一歩を踏み出す。主人公の心の中だけで完結している曲だ。
楽曲の序盤ではネガティブな感情を吐き出し、自身の暗部を〈心にへばりつく病原菌〉と喩えた上で、〈君にうつしませんように〉と歌っている。しかしこれはただ自分を責めているのではない。君の存在が僕の救いであると歌いながら、〈自分という人を自分で守る事が/君を愛すという事の第一歩〉〈自分という人を自分で誇る事が/君を愛すという事に不可欠だった〉と理由づけているように、全ては相手を思うからこその内省である。つまり、この曲では“愛のスタートライン”が歌われているのだ。
人は誰しも負の感情を抱えているが、それを〈逆剥けを繰り返す指先〉という日常的な比喩に落とし込み、リスナーに自分事として受け取らせる歌詞には藤原聡(Vo/Pf)の巧みさが光る。タイトルに掲げられた「Sanitizer」とは消毒液のこと。主人公は初めは自己嫌悪から痛み止めを欲していたが、力強いバンドサウンドに背中を押されるように、やがて〈たとえ苦しみにまみれたって/僕は僕に僕だけで勝ってみたい〉〈もうどんな劇薬もいらない 不安にうなされながらも/僕は信じている 僕を信じている〉と意思を固める。そして〈そんな暑苦しい想いをせめて表だけでも/拭いて綺麗にしてから会いに行くよ〉という、冬の冷たい空気と内側に抱えた感情の熱さを対比させる描写とともに楽曲は幕を閉じる。
Official髭男dismが一貫して向き合っているテーマ
人生とは、自分にしか解決できない課題に向き合うことだと思う。向き合うことで傷ついたり、自分が嫌になったりもするが、解決やケアを誰かに求めず、自己を克服すること――対等な存在として相手と並び立ち、愛する意思が「Sanitizer」では歌われている。安易な慰めを歌わず、苦しくても自分の全体性を受け入れようとする姿勢は、同じく今年リリースの楽曲「らしさ」にも通ずるものだ。『ひゃくえむ。』との相互作用から生まれた「らしさ」と、ノンタイアップとしてバンドの内側から湧き出た「Sanitizer」。形式は異なるが、藤原が今向き合っているテーマは共通している。
そしてこのテーマは、バンドの現状にも重なってくる。別の思考を持ちながらも同じ目的を持つ者同士が、それぞれの役割を担い、足並みを揃えて活動するのが、バンドというものだ。Official髭男dismは今、スタジアムツアーという大きな経験を経て、4人だけでのライブハウスツアーへ向かうタイミングにある。この曲で歌われる“依存しない愛”、“それぞれが自立した上で対等な関係を築くこと”は、バンドメンバー同士の在り方としても読み解くことができるのではないだろうか。2025年の活動が充実していたからこそ、ここから先のさらなる活動に向けて、健全なバンドであり続けるために、バンドの核である4人の関係性を見つめ直したかった――そんなバンドの物語が、この曲には投影されているのかもしれない。
MVは、スタジオでのリハーサル風景や、ジンギスカンを食べたりカードゲームで遊んだりするメンバーのオフショットによって構成されている。また、外の雪景色や途中に映る文字から、ロケ地は北海道江別市だとわかる。おそらく制作合宿の記録だろう。だとすれば、今回リリースされた「Sanitizer」の他にも、複数の曲が制作されている可能性がある。4人で音楽を奏で、日常を共にするメンバーの原点的な姿が映されたMVは温かく、2026年以降の活動への期待も自然と高まった。
■リリース情報
Official髭男dism「Sanitizer」
2025年12月1日(月)配信リリース
配信リンク:https://HGDN.lnk.to/Sanitizer
























