Mrs. GREEN APPLE、異例の“映画2作同時公開”が意味するもの 飛躍と孤独ーー別角度から捉えたバンドの核心

『THE ORIGIN』:カメラが捉えたミセスの“聖域”

 ドキュメンタリー映画『THE ORIGIN』は、楽曲「Variety」が観客に届くまでの約300日間の記録だ。今、日本で最も聴かれているバンドの舞台裏。それだけでも十分な魅力があるだろう。

 本作の監督は、大森が菊池風磨(timelesz)とW主演を務めた映画『#真相をお話しします』の監督でもある豊島圭介。本作にはファンですら「ここまで映すのか」と息を呑む場面もあるが、初対面ではなく、監督とバンドとの関係性があったからこそ実現したものだろう。そのうちの一つが、21分間にも及ぶ大森の作曲シーンだ。若井や藤澤も見たことがなかった“聖域”にカメラを入れるという決断が、本作の姿勢を決定づけている。

映画 『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM 〜THE ORIGIN〜』【本予告】11月28日(金)より映画2作品 全国同時公開!

 大森はバンドのメンバーであると同時に、プロデューサー的な役割も担っている。ライブ後の楽屋に、報告や相談を携えたスタッフが絶え間なく訪れる様子は圧巻だ。ミュージックビデオの内容、音楽番組で披露する楽曲、衣装の生地、グッズの配色……大森は一つひとつに目を通し、GOサインを出していく。責任と決裁権を自ら引き受けつつも、独裁に陥ることなく、各ブランチを信頼して任せている点が印象的だった。その上で大森は、各人のアウトプットを「それがあなたの愛情なのね」と受け取るという。つまり、仕事を通して、その人自身の姿勢と覚悟を見ている。寛容なようでシビアな、恐ろしいようで愛に満ちた眼差しだ。

 Mrs. GREEN APPLEはバンドであると同時に、今や、多くの人の情熱と生活が懸かった巨大なプロジェクトでもある。大森は「考えることやクリエイトすることが楽しい人たちじゃないとミセスはやれない」と語るが、それを最も近くで、最も高い水準で体現することを求められるのが、若井と藤澤だ。本作にはリハーサルやレコーディングの様子も収められており、大森が若井と藤澤に対し、「全然ダメ」「今日の2人を見る限り、まだわかってない」と指摘する場面もある。そうしたやりとりや個別インタビューでの率直な言葉から、3人がそれぞれ重い責任とプレッシャーを抱え、異なる悩みや孤独と向き合っていることが伝わってくる。また彼らはメンバーであると同時に、10年以上にわたり、苦楽を共にしてきた“友達”でもある。互いを案じ、時に声を掛け合い、補い合ってきた関係性こそ、このバンドの鍵になっている。

〈愛されたいと歌うたびに 思い知る 愛の当たり前に〉

 「Variety」にはそんな歌詞がある。大森は、大切なものを大切にできなかった後悔、その空白は後には埋まらないという痛みを、キャリアの早い段階で知ったと明かしている。そして『THE ORIGIN』で描かれたように、身近な人たちの貢献を“愛情”として受け取る姿勢の先に、「Variety」は生まれた。『FJORD』終演後、大森は5万人の観客の前で「想像以上に素敵な景色が広がってました」「なんかちょっと報われる瞬間がありました」と語る。その隣には、大森の発言に驚きながらも、笑顔で見守る若井と藤澤の姿があった。自分一人の正解に閉じず、人へ委ね、バンドという総体を信じたからこそ、辿り着けた景色だったのだろう。埋まらないはずの穴が、少しだけ満たされた瞬間だったのかもしれない。

 すでに発表されている通り、2026年からフェーズ3が始まる。『FJORD』と『THE ORIGIN』は、外側の飛躍と内側の核心が等しく報われた局面を刻む、フェーズ2完結の記録となった。ライブフィルムの華やかさの奥にある孤独。ドキュメンタリーの緊迫した空気の裏にある絆。Mrs. GREEN APPLEであることを選び、愛した3人の覚悟が、この2作には刻まれている。

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