歌声分析 Vol.3:中島健人 “声の演技者”として歌に最適な人格を宿すスキル、DNAに刻まれた抜群のリズム感

多彩な声のレイヤーをコントロールする“繋ぎ”の滑らかさ
中島の高音域でもう1曲挙げたいのが「jealous」(2024年/『N / bias』収録)だ。「jealous」は、先述した“歌そのものをビートの一部”(=バックトラックのキック的な役割)にしたような中島の得意パターンで幕を上げるアッパーチューンだが、フレーズの頭を少しディレイさせることでファンキーなグルーヴを加えている。
またこの曲は、中島の母音の処理の多彩さも聴きどころ。たとえば、この曲の最大の見せ場、中島のロングトーンが炸裂する〈Oh, I’m So Jealous…〉の部分では、フレーズ最初の〈Oh〉で、喉を開いてロングトーンへの布石を作り、〈So〉でも“S”をほぼ発音せずに母音を強くすることで勢いをつけ、地声のロングトーンへと繋いでいる。このロングトーンのパートは、途中で転調し、後半はメロディのように展開するが、中島は最初からほぼマックスの声圧で、ノンブレスで歌い切っている。転調以降でビブラートを繊細かつ効果的に使い、自分の歌声ひとつでレイヤーを増やしているスキルは、本当にお見事である。
最後は、中島のDNAに刷り込まれたリズム感が、歌唱にどのような効果をもたらしているかを考えてみたい。ここでは、『IDOLIC』のオープニングを飾る「IDOLIC」をピックアップする。本楽曲は、チャールストンやジャズを取り入れた、スウィングするリズムが艶っぽいダンサブルなナンバー。リズムパターンは目まぐるしく変わり、メロディも最初から最後まで刻むパターンがメイン。
この曲で中島は、低音、地声、高音、ファルセット(裏声)を使い分けているが、驚くのは、繋ぎの滑らかさだ。多彩なアプローチに、大きな“段差”がない。これは、彼の特筆すべきスキルのひとつである。通常、これほど目まぐるしく声のアプローチの種類を変えると、大体のシンガーが力んで声を張りがちになるのだが、中島は声圧やニュアンス、母音の抜き方などを一定に保つことで、段差を埋めている。リズムを耳ではなく身体で捉えている中島だからこそ、成立しているアプローチなのではないかと考察する。
中島の歌声は、単に高音が出る、低音が強いといったレベルで語ることはできない。声の表情を精密に管理し、曲ごとに最適な人格を与えることができるのだ。ハイペースに音源のリリースを重ねている2024年、2025年で、その表情の種類は確実に増え続けている。
中島健人は、“声の演技者”として今なお進化の途中にいる。
























