JIJIM、EP『化色』で描いた感情の濃淡 シンジュにとっての希望と東京――今見えている景色を語る

新作EP『化色』を携え、JIJIMが次の段階へと歩みを進めている。音楽的な挑戦はもちろん、上京から2年目にいるシンジュ(Vo)が直面した“自分と向き合う日々”が、そのまま本作の血肉となった。濃淡のある感情が音と色として立ち上がるこのEPは、バンドの現状を映すだけでなく、彼らがどんな未来を見据えているのかを示す指標でもある。初のワンマンを含む全国ツアー『カンカ ノ カンカ ツアー 2025』を通して高まった手応え、山梨から東京へ移った青年が抱える葛藤と希望、そして「もっと先に行きたい」というたしかな渇望。今、JIJIMはどこへ向かおうとしているのか――シンジュにじっくり話を聞いた。(黒田隆憲)
「自分の輪郭が見えてきた」――明るさと儚さを宿す意味
――まずは、EPのタイトルに込めた思いを教えてください。
シンジュ:“化”けるに“色”と書いて『化色』(けしき)と名付けました。本来の“景色”という言葉を踏まえ、情景や見える世界の変化をテーマにしています。誰が、どこから、どんな瞬間に見るかで、景色はまったく違う印象になるし、自分が見た景色と他の人が見る景色は決して同じにはならない。そんな考えが制作の出発点でした。(EPを)作っていくなかで、「この作品は自分の手を離れ、聴いた人のなかで初めて化けるものだ」と思うようになって、そのイメージをタイトルに込めています。それに、『カンカ ノ カンカ ツアー 2025』をまわるうちに、「自分自身も新しい姿に化けたい」という思いが強くなりました。だから、このEPには楽曲が届いた先で変化していってほしいし、自分自身も新しい景色のなかで変わり続けたいという、ふたつの願いを込めています。
――JIJIMは6人それぞれがまったく異なるルーツや背景を持っていますよね。そうした多様な視点が交わることは、今回のEPのテーマとも強く関わっているのでしょうか。
シンジュ:まさにそうだと思います。6人とも聴いてきた音楽も違えば、育ってきた環境も違う。今回のEPは“景色”や“情景”をテーマにしていますが、同じ言葉でも6人が思い浮かべる光景や温度がまったく違うんです。だから、「ここはこう表現したい」「自分はこう感じる」と意見がぶつかることもあります。でも、そのぶつかり合いのなかで「何がいちばん大切か」「どこに心が動くのか」を丁寧に擦り合わせていくと、最終的には6人全員が納得できる形にまとまっていくんです。今回の制作は、その積み重ねをいかに楽曲に落とし込むか、という作業でした。ルーツが違うから表現は広がるし、時には狭まる。その幅をどうやって豊かに広げ、より多くの人に届く音にしていくか――。今回のEPは、まさにその試行錯誤を凝縮した一枚になったと思います。
――アートワークも、曲ごとに違う色が集まってひとつのジャケットになっている印象でした。
シンジュ:メンバーのホリ!!!(A.Gt/Syn)がデザインしてくれたものです。今回のEPでは、5曲それぞれがまったく異なる“景色”を持っているので、そのバラバラさをどうひとつにまとめるかがとても大きなテーマでした。まず、曲ごとに色を割り振っていって、その色たちがどう巡ってひとつになるかをメンバー全員で話し合ったんです。そんななかで、ホリ!!!がiPadに白い画面へ一筆で描いた輪のデザインを見せてくれて。一瞬で全員が「これだ」と納得しました。輪には“巡る”というイメージがありますし、5つの景色がめぐり合ってひとつのEPになるというような意味を持たせられるのではないか、と。曲ごとの化ける色もこの輪に宿るように配置してみたところ、6人全員が迷いなく「これは伝わる」と思えるデザインになりましたね。
――今回のEPを聴いて、あらためてシンジュさんのメロディーメーカーとしてのポテンシャルを強く感じました。ジャクソン・ファイブやマーヴィン・ゲイ、スタックスやモータウンなどからの影響を色濃く感じますし、どの曲もトレンドに流されないオーセンティックでタイムレスな輝きを内包しています。
シンジュ:ありがとうございます。そういった音楽を初めて聴いた時の衝撃や憧れみたいなものは今もずっとあって。それが自然と曲に滲み出ているんだと思います。

――昔の音楽へのリスペクトを持ちながら、現代のシーンでどんな現在進行形の音楽として着地させたいと考えていますか。
シンジュ:東京に出てきてから、人と会う機会や人と比べる場面も増えて、自分と向き合う時間がとても多くなりました。「自分ってどんな人間なんだろう?」と考えるなかで、明るさと同時にどこか儚さもある――そんな自分の輪郭が見えてきたんです。そして、それはJIJIMという6人にも共通している気がしていて。
今、ルーツミュージックの話をしてくださいましたが、なぜ僕らはルーツを大切にしているのか考えると、人生の節々でふと流れていた音楽の情景が“思い出”として根強く残っているからだと思うんですよね。僕以外のメンバーも、家族が家で流していた曲の記憶や初めてライブに行った日の感動、そういう“音楽に救われた瞬間”をそれぞれ持っている。ルーツは違えど、「音楽がいい思い出として刻まれている」という点は共通しているというか。
――なるほど。
シンジュ:だからこそ、僕らは「聴いた人の心にそっと染みる音楽でありたい」という思いをずっと大切にしていて。自分たちの曲が流れる時間が、その人にとっていい思い出になるように、その人自身の何かが少し救われるように……そう願って音楽を作ってきました。ルーツミュージックへの憧れはありつつ、どんな情景でも描けるバンドでいたいし、聴いてくれた人の日常に寄り添う音楽を作り続けたい。この先、自分たちの音楽スタイルが例えどう変化しようとも、相手に届いた僕の声が、その人の心の内側で暖かく灯るような――その“灯り”は絶対に手放したくないと思って続けていますね。
――では、EPの曲をそれぞれ伺わせてください。まず「メトロ」はいつ頃生まれた曲なのでしょうか。
シンジュ:これは、上京して一年ほど経った頃に作った曲です。山梨には地下鉄がなかったので、東京ではどこへ行くにも地下へ潜るという行為が日常の始まりになる。その階段を下りていく感覚が、自分にとってとても象徴的で。というのも、電車に乗るたびに、「今日家を出るの、遅かったかな?」、さっきの会話を思い出して、「あの言い方でよかったのかな?」と、いつも小さな後悔や反省が頭をよぎるんです。どこかへ向かう時も帰る時もそうで、電車に乗る瞬間が一日の区切りのように感じられて。
上京して「誰かに届けたい」と強く思うようになった一方で、「本当に誰かに届いているのか?」という不安も増えて、そのギャップに苦しくなることもありました。地下へ潜るほど周囲の音が大きくなり、自分の声だけがはっきり聞こえてくる。そうやって“声”と向き合う時間を音にしたのが、「メトロ」です。
――続く「スターリースターリー」は、ライブでも非常に印象的でした。ギターとアコギのユニゾンもキラキラしていて、まさに星空のようで。
シンジュ:嬉しいです。この曲は、文字通り星空の曲です。山梨は、本当に星がよく見える街なんですよ(笑)。山梨にいた頃、悩んだり迷ったりしてどうしようもなくなった時は、必ず星を見に行っていました。答えは返ってこないんですけど、空を見上げているだけで気持ちが整理されたり、解決しないままでも「まあ、いいか」と思えたりして。星を見ることは、自分にとって大きな救いだったんですよね。
だから、東京にきて最初に驚いたのは、「あ、星がほとんど見えないんだ」ということ。街が明るいから、星は存在していても見えない。だからこそ思ったんです、「あの星空を曲にして、東京に持っていきたい」って。「自分はどんな時に星を見上げていたんだろう」「星に何を求めていたんだろう」と向き合っていくうちに、あの瞬間そのものを楽曲に閉じ込めたいと思うようになりました。「誰かの星空になってほしい」「僕が見ていた星空が、今度は誰かの夜を照らす光になったら嬉しい」――そんな思いで作った曲です。




















