2025.11.28 18:00

『バンドリ！』のアジア人気、『ペルソナ』楽曲の大ヒット……ゲーム×音楽業界の課題とIPビジネスの海外戦略

　ユニバーサルミュージック合同会社のパートナーシップビジネス部門 VMGが主催するビジネスカンファレンス『VMG 1st Meet-up』が、11月20日にTRUNK(HOTEL) CAT STREET にて開催となり、その中でVMGが行っている業務の内容と今後の展望が発表された。

　VMGとは、AIテクノロジーを活用しインディペンデントアーティストやレーベルに音楽配信、販売、マーケティング、メディアプロモーションなどのレーベル機能を提供するグローバルサービス。冒頭で井口昌弥氏（VMG マネージングディレクター）から音楽を通じてのパートナーのビジネス拡大がVMGの使命であることが発表され、これまでレーベルが培ってきた知見とグローバルネットワークを活かし、日本のエンターテインメントを世界に届けていく挑戦を行っていくことをあらためて宣言。その中で、ゲーム分野において音楽の可能性を感じていることを、会に招かれたゲーム業界関係者に伝え、「僕らは音楽の力を強く信じておりますし、楽曲やコンテンツ、IPというところでお手伝いできる部分があるというふうに思っております」と約束した。板橋健人氏（VMG Partner Development & Relations Strategic Partner Group Leader）は、VMGが目指すのは、ただのディストリビューターではなく、未来をともに作る真のパートナーであり、アーティストやIPの本質を深く理解し、音楽を届けるだけでなく、音楽の力でビジネスを成長させていくことを目指していることを説明した。

『BanG Dream!（バンドリ！）』を起点としたグローバル戦略

　カンファレンスのメインとなるトークセッションでは、まず「グローバルIP時代のパートナーシップ」をテーマに、小川信弘氏（株式会社ブシロードミュージック取締役営業部長）と山下浩一郎氏（VMG ゼネラルマネージャー）が登壇。『BanG Dream!（バンドリ！）』から生まれ、現在東アジアで絶大な人気を獲得しているバンド・MyGO!!!!!／Ave Mujicaのグローバル市場における戦略について語られた。

　新規ユーザー獲得と海外展開を見据え、アニメシリーズの全世界動画配信と東アジア圏の動画共有サービスにて公式チャンネルを作成したことで、MyGO!!!!!／Ave Mujicaは絶大な支持を獲得した。小川氏は「日本から近いこともあり、日本のコンテンツに対する理解度と浸透度が圧倒的に高い」とその手応えを話しながら、戦略のポイントについて、「海外のファン文化にどれだけ寄り添った活動や展開を行うことができるかだと思っています。コンテンツに触れられるタイミングに関して日本と海外のユーザーの差を極力なくすことを目指しました。結果的にそれが東アジアのユーザーに届いて多くの支持を得る形になったというふうに考えております」とコメントした。

　VMGとの取り組みとしては、“人と音楽を通して感動を届け、特別な体験ができる場所”として原宿・竹下通りにオープンした「UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU」にて、ポップアップストア『BanG Dream! MyGO!!!!!×Ave Mujica POP UP STORE at UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU』を展開。来場者の熱が非常に高く、「初日は95%が海外の方だったような気がします」と山下氏は振り返った。今後の展望として、さらなる東アジアへの展開、アニメ続編の舞台やAve Mujicaの音楽性がゴシックメタル調であることから、「北米や欧州に向けてもアプローチしていきたい」とVMGとの更なるパートナーシップを強調した。

世界に広がる日本のIPの可能性

　「海外アーティストから見た日本のIPコンテンツの可能性」をテーマにしたパートでは、フランスから来日したアーティスト Myd（ミド）を招き、ジェイ・コウガミ氏（ミュージック・ビジネス・ジャーナリスト／Chartmetric 日本ビジネス＆パートナー・サポート）、浅香京子氏（VMG インターナショナルグループ）によるパネルディスカッションが行われた。日本の文化やゲーム音楽に大きな影響を受けてきたMydは、日本がアメリカやヨーロッパとは全く異なる独自の文化を形成していたと話す。サブカル、アンダーグラウンドといった特別なものに惹かれていったMydが感じたのは、互いに特別な作品が組み合わさることで、大きな衝撃を生むということ。ダフト・パンクが松本零士とコラボレーションした『インターステラ5555』が、Mydにとって衝撃を受けた作品だったという。さらに『塊魂』『Streets of Rage（ベア・ナックル）』といったゲームタイトルを挙げながら、これまで聴いたことのないようなビートボックス、90年代のレイヴミュージックから、大きな影響を受けたことを語った。

　平信一氏（電ファミニコゲーマー編集長／「第四境界」プロデューサー）、目黒将司氏（作曲家／サウンドクリエイター）によるパネルディスカッション「ゲームにおける音楽の可能性」では、『ペルソナ』シリーズをはじめとするアトラスサウンドチームのゲーム音楽がテーマとなった。アトラスサウンドチームは、Spotify2025年上半期ランキングにおいて「海外で最も再生された国内アーティスト」の第2位に輝いている。

　『ペルソナ』シリーズの音楽を担っていた目黒氏は、戦闘場面でのBGMを“洗脳ソング”と呼ぶなど、ゲームをプレイするなかで幾度となく音楽を聴かせることがゲーム音楽ならではの特徴であり、中毒性を引き起こす重要なポイントだと話した。ゲーム業界と音楽業界の繋がりがまだなかった頃から、目黒氏はゲーム音楽にボーカルを入れるなど、新たな道を開拓していった。また目黒氏は、ゲーム会社から離れて以降、あらためて感じたこととして、音楽ビジネスの権利と仕組みを理解し活用していく必要と、ゲーム業界と音楽業界の隔たりをいかに解消していくかが、今後の課題だと語った。

　VMGは、ゲーム制作／マーケティング分野における音楽活用のさらなる拡張を目指し、国内外のアーティストとともに、ゲーム音楽における新たな体験を創出する取り組みを、ゲーム領域に特化したサウンドプロダクション・株式会社ノイジークロークと進めていく。それがアーティスト×ゲーム音楽による新たな体験を創出する新サービス「Game Music & Artists」である。

　カンファレンスの終わりには、山下氏が坂本英城氏（株式会社ノイジークローク代表取締役社長）を紹介。世界的なヒットコンテンツを生み出しているアニメ×音楽のコラボのように、ゲーム業界においても有益なコラボが生まれていくのではないかと想像させながら、カンファレンスは幕を閉じた。

「ゲーム音楽には更なる可能性がある」（井口昌弥）

　VMGに関する個別取材に応じた際に井口氏は、海外における日本のコンテンツ需要について、「日本の音楽やエンタメコンテンツの需要が世界的に高まるというのは間違いなくあると思います。そうなった時に僕らができることは、流行っている地域の方々とコミュニケーションをとりながら、こういう角度でアプローチしたらもっと広がる可能性がある、みたいな提案をしていくことだと思うんです」とコメント。VMGとしての展望については、「音楽は権利ビジネスの側面が強いと思うのですが、様々な企業の方とお話をする中でそこにハードルを感じていることも多いんです。我々がパートナー企業のビジネスを拡大するために適切なソリューションを音楽のプロとして提供する、というサービスへの需要の高さは日々感じていて。私が言うのもおこがましいですが、良い音楽やコンテンツを活用しきれていないのはもったいないと思います。様々な企業とパートナーシップを結んでいきたいですし、究極的には音楽の価値をより高められるような取り組みを一緒に作っていきたいです」と語っている。

　ユニバーサルミュージックが培ってきた、グローバルに音楽を届けるためのノウハウが活用できることもVMGの強みの一つ。カンファレンスで語られたアニメやゲーム分野とのコラボレーションが、国内外の音楽エンタメシーンに新たな風を吹かせるきっかけになるのかもしれない。