【シンガーソングライター×歌人】mekakusheと木下龍也が語り合う、言葉を書き続けるということ 幸せと寂しさの中にあるときめき


短歌の力みたいなものを人のために使う
――木下さんの作品には死の匂いがあるというか、何かが終わることの比喩として殺す、刺す、死といった言葉を使うことがしばしばあると思うんですけど、それは木下さんのどういう側面が表れてるんですか?
木下:mekakusheさんにとっての恋と一緒じゃないですか。自分の中で、死というものがなんか引っかかるんですよね。哲学者の中島義道という人が何冊か本を出しているんですけど、何をしても結局人間はまもなく死ぬ運命にある、ということを何冊も通して言っているんです。その人の影響なのかはわからないですけど、やっぱり死というものがずっと頭にあるんですよね。それは死にたいとかそういうことではなく、すべてのものが必ず終わるんだということ。そしてそれは遠い未来ではなく、地球や宇宙の規模からすると間もなくであるということがずっと頭に引っかかっています。ただ、話題として上げやすいというのもありますよね。恋をしない人はいますけど、死なない人はいないので。
――普遍性があると。
木下:うん。それはもうどの時代でも変わらないことだから。扱いやすいテーマではある気がします。
――終末感みたいなところは、mekakusheさんの曲でもしばしばモチーフになっていると思います。
mekakushe:私は死については歌ったことがないかなと思うんですけど、「明日世界が終わる」みたいな、何かが終わっていくことは沢山書いてきた気がします。始まったら終わるとか、なんで死ぬのに曲なんて書いてるんだろう? とか、考えずにはいられないで生きてきた気がしますね。
木下:mekakusheさんがラジオの中で、不在感とか満たされなさとか、そういうものがテーマになるとおっしゃっていて。それがある故に、生まれ変わりたいみたいなこともよく書くと話していたと思うんです。なんかその「足りなさ」みたいなものをモチーフにして書かれているから、それを埋めようとするし、自分で埋められないのであれば誰かで埋めるっていう。でも、ひとりで埋めようとして上手くいかないし、それを埋めてくれる人がいない場合、それって確かに恋に繋がりやすい話だと思うんですよね。だからそういう歌が結構あるのかなーーいや、こういう話をするのは失礼ですね。
mekakushe:いえ、失礼ではないです(笑)。
木下:でも、そのラジオを聞きながら、なんて言うんだろうな。mekakusheさんって今違う人になった感じがあるのかなと思いました。
mekakushe:違う人?
木下:メジャーデビューってそういうことなのかもしれないですけど、ポップであることを選ぶようになったんだろうなと。メジャーデビューって歌人にはない話なんですけど、世の中に受け入れてもらうということは、たぶん世の中というものを受け入れる体制が自分でもできたということだと思うんですよね。なんかそこには明確に違いがあるのかなと思って、こっちから見てると覚悟が決まった人なんだという感じがしました。

mekakushe:音楽はいろんな要素がある総合芸術だから、例えばアレンジをポップにしてみるとか、歌い方をポップにしてみるとか、はたまたミュージックビデオをポップにしてみるとか、いろんなところでそれができるんですけど。私が絶対にポップにしたくないのが言葉です。10年前からずっと変えないできた部分だし、変われない部分なのかなとも思いました。ただ、昔は歌詞の中で死にたいとか言ってたけど、今はそういうのがフィットしないというか。死にたいとか思わなくなっちゃって、幸せになっちゃったのかな? って感じもするんですけど。
木下:いいじゃないですか。書き続けることによって、何か埋まった感じがあるんですか?
mekakushe:埋まりましたね、見事に。今ではなんでそんなに辛かったのか思い出せないぐらい。10代の頃って死にたいわけじゃないけど生きたくもないみたいな、気持ちがフラットじゃなかったんですよ。それで音楽活動を始めたところがあるので、自分が楽になりたくて言葉を書き始めたんですね。なので言葉を書いていった結果、少しずつ楽になってるということだと思います。
木下:僕は第1歌集、第2歌集の時は、なんかもう外に吐き出したいという感じでした。ずっと頭の中でぐるぐるしているものを短歌に落とし込んで、自分とは別物である、というふうにしたかった。封印するような感じです。定型の箱の中に悲しみとか怒りとか、そういう負の感情みたいなものをとにかく収めていく。その収める過程で、漠然とした不安みたいなものを自分で見つめ直すことになるというか、短歌は言葉にして初めてわかるみたいなことがあるんですけど、それをやっていたのが第1、第2歌集でしたね。でも、短歌の作り方を教えないといけないことになって、その頃から明確に変わった気がします。人に説明する時に俯瞰する自分が生まれたというか、自分の意識が外に向いたのかな。今は短歌の力みたいなものを人のために使おうと思っています。
――なるほど。
木下:mekakusheさんのアルバム、最後の「夜明けの扉」の〈わたしの吸う息であなたも生きていて〉はすげえと思った。そんなこと言えなくないですか? 物語の話ではあるんですけど、このメッセージは聴いてる人を引っ張っていくぞみたいな印象を受けます。
mekakushe:この歌詞に関しては、その前で〈あなたの吸う息で生き延ばしたよ〉と歌っていて、それから〈わたしの吸う息であなたも生きていて〉と続くので、やってもらったことへの恩返しなんです。私はまだまだ与えられる側じゃ全然なくて、木下さんみたいに小学生に教えたり、未来のための貢献みたいなことは全然できる立場じゃない。でも、そんな中でも少しぐらい返したい気持ちが出てきて、それで書けた歌詞ですね。
――でも、私も新作でmekakusheさんは劇的に変わったと思いました。
mekakushe:うーん。やっぱり作っているとわかんないですよね、そういう変化って。私は5年前の変化にやっと今気づいたりしますもん。もうあれは書けないな、と思った時に変わっていたんだと気づく。だから正直、自分では地続きのことをしている気もするんですけど、でも最近すごく思うのは、吐き出す言葉がポジティブになった。今はヒリヒリした感じより、あたたかい方に舵を切りたい。そういう表現をしてみたいと初めて思えたアルバムで、それは覚悟というほど大それたものじゃないけど、なんか歌ってもいいターンが回ってきた気がします。

――ただ、敢えて月並みな質問をしますが、ものを作る人は傷を歌う、というようなことも言われますよね。
mekakushe:出た、幸せになったらいけないというやつですか? 私は幸せが第一です。生活があって、幸せがあった上での創作。私は自分の幸せを無視していいものなんて絶対作れないと信じてます。
木下:数えたことはないですが、短歌でも悲しみや苦しみが詠まれているものの方がおそらく多いですし、僕もそういう歌われた傷に惹かれて、それを入口としてこの世界に入ってきたような気がします。あ、自分と同じような傷を持つ人がいるんだ、って。だから自分も最初は傷を歌う。僕の場合は短歌を続けるうちに運よく塞がったというか癒されたというか、傷が中心にはなくなった。だから自分の傷ではなく、誰かの傷や何かの傷に目が向くようになったんだと思います。そういう意味で幸せというのは僕にとって次の創作に向かうために必要だったのかもしれません。
mekakushe:うーん、たぶん幸せな人は自分が幸せなんて思わないと思うんですよ。やっぱり不幸があったから幸せだって思えるみたいに、幸せだって意識してる時点で全然幸せじゃなくて。だからさっき言ったのは、「幸せ」というか「健康」ですね。穏やかでいないと創作は続けていけないなって最近思うんですよ。体勝負、体が資本だから。10代の時は体力もあったしヒリヒリしたまま猪突猛進バン! みたいなことができたけど、今はもう勢いだけではいけなくなってるような気がするので、ちゃんと美味しいもの食べてバランスを取っていこうという感じです。
――おふたりは今後の展望、あるいはこれから作りたい作品について考えていますか?
木下:今後のこととか考えてますか? あ、考えてますよね。お仕事ですもんね。
mekakushe:いや、木下さんもお仕事ですよね?(笑)。
木下:うーん、作りたいものか......。
mekakushe:わかんないですよね。できたものが作りたかったものなんじゃないですか。
木下:なんか「こういうのをやってね」と言われてることは結構あるんですけど。なかなかやる気が出ない。
mekakushe:(笑)。
木下:本の企画がいくつかあるんですけど、結構お待たせしてしまっていて。今は目の前の仕事をこなしていくのがやっとという感じです。でも、個人から依頼をもらって短歌を作るというのはいずれ再開したいです。ここ数年は広告的なお仕事が増えています。今後も自分のための言葉を書くというよりは、誰かのための言葉を書くことになるのかな。そんなことをするとね、「広告に魂を売った」みたいに言われることもあるんですけど、たぶん自分はそっちに行くんじゃないですかね。
mekakushe:元々コピーライター志望だったなら、本望なんじゃないですか?
木下:だと思います。結局自分は言葉で何か人の役に立ちたいというのがあるんですよね。でも、mekakusheさんの曲聴いて今日とりあえず生きてみようと思ってる人もいるだろうから、音楽って短歌なんかより全然届く範囲が広いですし、かなり崇高な活動ですよね。mekakusheさんは教育番組にどんどん出ていくみたいなことはないんですか?
mekakushe:「シナぷしゅ」の活動はすごく大きいと思っています。私が小さい時にテレビで見たNHKのみんなの歌は今でも覚えているので、その機会を今の赤ちゃんに自分が与えられてるのかもしれないと思うとすごく貴重な仕事だと思います。私は『138億年目の恋』で幸せについて歌っている一方で、どうしても最終的なオチが「寂しい」だったから、私ってそういう人なんだなと再確認できました。結局〈きみが今、隣にいたってさみしいの〉(「ずっとエメラルド」)で終わるんです。インディの時に作った2枚(『光みたいにすすみたい』『あこがれ』)はただただ寂しさを歌っていた気がするけど、今回は幸せを歌った上でそれでも寂しかった。その表現が結構自分の中でしっくりきていて、この先もこの気持ちで幸せと寂しさのバランスをとって曲を作りたいです。
◾️mekakushe
デジタルアルバム
『138億年目の恋』
ストリーミング / ダウンロード
https://t.co/nQ9Dge5RUn
プラネタリウムライブ『mekakushe Planetarium Acoustic Live ~138億年目の恋~』
11月27日(木) プラネタリアTOKYO DOME1(有楽町マリオン9階)
1st stage 18:00開演(17:30開場)
2nd stage 20:00開演(19:30開場)
※弾き語り
詳細はこちら:https://planetarium.konicaminolta.jp/planetariatokyo/dome1/mekakushe/
関連リンク
mekakushe 公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@_mekakushe_
mekakushe 公式X:https://x.com/_mekakushe_
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◾️木下龍也
『つむじ風、ここにあります』
https://www.kankanbou.com/books/tanka/shinei/0115
『あなたのための短歌集』
https://nanarokusha.shop/items/6188d1720548e07cf43efdbe
『オールアラウンドユー』
https://nanarokusha.shop/items/633b81105976200a1d267a3a
木下龍也 公式X:https://x.com/kino112?lang=ja




















