808(YAOYA) × かりゆし58 前川真悟 特別対談 名曲「アンマー」がつないだ縁と音楽

TikTokを起点に「You」がバイラルヒットしたシンガーソングライターの808(YAOYA)が、今年でデビュー20周年を迎えたかりゆし58の代表曲「アンマー」をリミックス。自らの人生を投影したリリックと新たなメロディラインによって20年越しにアップデートされた「アンマー(808ver.)」もまた、独自の輝きと軽やかさを備えた一曲に仕上がっている。
そこでリアルサウンドでは、同曲の配信リリースを記念して808とかりゆし58のフロントマンである前川真悟(Vo/Ba)の特別対談をお届けする。母への思いをつづった不朽の名曲を縁に出会った2組に、「アンマー」という大きな愛と音楽に導かれた現在地を語り合ってもらった。(奥“ボウイ”昌史)
2組の出会い——「平場でうんちくを傾けるより話が早かった」(前川)
——808とかりゆし58はリリース以前に接点はあったんですか?
前川真悟(以下、前川):僕は一緒にO-ROOTSというバンドをやってるギタリストの久米ちゃん(久米はるき・OSAKA ROOTS)から、「808くんって知ってます? 今度、大阪(・奄美島料理てぃだ)のライブに遊びに来てくれるかも」と名前を聞いて。その後、実際にライブで直接会えたし、作品もクロスして、ご縁を感じましたね。
808:そもそもは能登半島地震のチャリティで、「I MISS feat. TWIGY, 808 & AMAYA」を作ろうと集まったメンバーに久米さんがいて。そこから何度かそのセッションがあったんですけど、去年、沖縄に行ったときにたまたま久米さんが国際通りを歩いてたんですよ(笑)。その頃にはレーベルから「アンマー」の話はもう提案されていて、制作のヒントを探しに沖縄に行ったところもあったんで、久米さんに会って背中を押されたというかガイダンスを感じちゃって。
前川:初めて会ったときも違和感なく遊んでたもんね(笑)。ライブの場でもあったから一緒に音楽もやれたし、平場でうんちくを傾けるより話が早かった。
808:僕は自分の力量がどんなものなのかライブで見せたかったし、やっぱりそこは緊張しました。でもその日、前川さんが僕の好きな『ジョジョの奇妙な冒険』のイギーのアロハシャツを着てくれてたおかげで、勝手にちょっと安心しましたけど(笑)。「アンマー」はいつの間にか知ってたし、いつの間にか歌えたし、きっと僕のお母さんがママをやってるスナックでお客さんが歌ってくれてたんだなって。
——SNSでバズったからって、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで知ってるわけじゃない。「アンマー」はそれだけ世に浸透した国民的ヒット曲ということでしょうね。
808:お母さんが店の掃除をしてる間によくカラオケをしてたんですけど、思春期真っただ中にお母さんに「好きやで」とは恥ずかしくて言えない。けど、「アンマー」はそう言ってくれてる曲だから、歌えばストレートに思いを伝えられる。カラオケながらそこに込めていたものはありましたね。
前川:例えばBEGINの曲とか民謡もそうですけど、歌い手も聴き手も自然に音楽を囲める関係性が沖縄にはあって、それが音楽や人の心を育てる一つのシステムなんだろうなと思っていたことが、808くんの地元でも起こっていた。音楽の継承の端っこにいる人間として、自分たちの作品がそういうところに仲間入りしてるのは最高にうれしいですね。昔は「アンマー」を「いい曲だね」と言われても、まだ24歳の音楽的な理論もクソもないガキが書いた作品だから、「いやいや拙くて恥ずかしいです」と思ってたし、そう口にしてたんです。それを見たのか見てないのか、この道50年みたいな島唄の先輩に「真悟よ。曲、歌詞、メロディは音楽家が作ってるわけじゃないんだよ。何年も前からそこにあった誰かの思い、魂のかけらみたいなものが、砂粒に埋もれていたり、風に溶けていたりする。それをあるべき姿でよみがえらせる助産師が俺たちだから」と言われて。
——その言葉の前後でミュージシャンとしての視野がガラッと変わりますね。
前川:「アンマー」は自分が書いたんじゃなくて、誰かから誰かに届く手伝いに関わったんだと思ったら、スーッと肩の力が抜けた。「アンマー」を支えるんじゃなくて、共に生きていく。せっかく自分の手元を通っていったからには、ちゃんと届ける。その立ち位置でいいんじゃないかと思って。おまじないみたいだけど、謙虚になれたし、真摯になれたし、ひたむきになれた。だから808くんが今回、「アンマー」を自分の解釈で個性際立つ形にしてくれたのも、きっとそうなりたかった曲の原型を捉えたからだと思う。お互いリレーはしたけどスターターとかアンカーは関係なく、この曲が行きたい場所に行く後押しができれば本懐を遂げたことになるのかなって。
808:その言葉を聞いて、むっちゃ生きやすくなりました。でも、先に聞いてたら逆に作れなかったかもしれないです。自分の中で戦って大きな「アンマー」にぶち当たったから、僕なりの「アンマー」があるはずだと分かって、突き抜けられたと思うので。

「「アンマー」は“作った”というより“出てきた”曲な感じがして」(808)
——808が制作していく中で改めて感じた「アンマー」のすごさとは?
808:めちゃくちゃ素直ですよね。曲って歌詞や音をカッコ良くしたり加工できるのにありのままというか、すごくストレートに入ってくる。僕もお母さんに感謝はしてるんですけど、どこをどう縁取って書いたらいいのか最初は分からなくて……。どちらかと言えば僕は、お母さんのことについて電波を張り巡らせて作りにいってたんです。でも、「アンマー」は“作った”というより“出てきた”曲な感じがして。沖縄に行ったとき、地面からすごくパワーを感じたんです。空気としてグルーヴが流れていて。
——今まで書けなかったサビのメロディのフックが、沖縄に行った途端にできたと言ってましたもんね。
808:ただ、沖縄は沖縄のいいところがあるように、僕は僕の地元のいいところを書かないとと思って、沖縄からフィーリングはもらいつつ影響され過ぎないように、僕なりの「アンマー」を作ろうとは心掛けましたね。
——前川さんはそんな「アンマー(808ver.)」を聴いたときはどう思いました?
前川:SNSでいろんな人が「アンマー」を歌ってくれてるのを見るんですけど、これを聴いたらいいのになと思いますね。きっとあなたの母ちゃんがあなたを許すように、この曲もあなたがどう歌っても許してくれる。それを808くんが自由に体現してくれていて。原曲の普遍性を示している変化なら、それが音楽と人の一番いい関係性じゃないかな。その象徴みたいな作品だと思います。

808:僕は意地っ張りなんで「口では何ぼでも言えるから態度で示さないと」と思っちゃうタイプなんですけど、そういうのも取っ払って素直に好きと言わせてくれるのが「アンマー」のすごさで。僕もやんちゃしてお母さんを泣かせたことがいっぱいあったし、今となってはお守りみたいな曲になりました。
前川:母ちゃんのことを歌う動機は感謝とか愛より、もらったものを返せてない、愛されてるのを知ってる上で甘えた罪悪感だと思うんですよ。それを歌うことで自分のお守りにもなる。だから俺たちは、親離れできてない子どもが母ちゃんからのお守りをぶら下げて生きてるようなもので。歌を聴いた誰かの罪悪感が拭えたら、少しでも自分を肯定できる人間になれたら……。“ごめんよ母ちゃんバイブス”を抱える世の娘、息子たちが救われる、気持ちを代弁してくれたような気になる曲が、世の中に一曲でも増えればいいなと思ってますね。




















