BUMP OF CHICKENのアニソンは何が優れている? バンドと作品の“メッセージ”を両立させる手腕を探る
「Sleep Walking Orchestra」「SOUVENIR」に宿る普遍的な感情
『ヒロアカ』の歌でありながら、自分たちの物語としての歌でもある。「I」がそうであるように、BUMP OF CHICKENはタイアップ作品でその手腕を発揮してきた。たとえば、アニメ『ダンジョン飯』(TOKYO MXほか)のオープニング主題歌「Sleep Walking Orchestra」でも、物語の主題である料理や食事にフォーカスするのではなく、その行動の根幹である生きることそのものをテーマに据えていた。食べることとは、生きるための究極の行動であり、空腹は身体が生を求めている証である。では、なぜ身体は生きたがるのか――。どれほど苦しくても鼓動を止めない人間の性(さが)を、死と隣り合わせのダンジョンに身を置きながら、食という生命活動を怠らない主人公・ライオスたちに投影している。
食事をテーマにしたアニメの主題歌としては、このテーマは非常に斬新だ。だが、BUMP OF CHICKENにとって新しい概念ではない。藤原は、16歳の時に制作した「ガラスのブルース」でも、儚い命を持つ猫を通して、生きること、死ぬこと、お腹が減ることに向き合っていた。どんな時でもお腹が空き、呼吸をしてしまう人間の根源を歌う姿こそ、30年近く変わらないBUMP OF CHICKENのテーマと言えるのではないだろうか。
また、アニメ『SPY×FAMILY』Season 1(テレビ東京ほか)の第2クール オープニング主題歌「SOUVENIR」においても、家族やスパイなどの、物語を象徴する直接的な単語は一切使われていない。だが、〈帰り道〉や〈お土産〉といったフレーズと、疾走感あるサウンドが、思わず歩を進める足のリズムが速くなってしまうほど、聴く者に“大切な帰る場所”=“家族の存在”を想起させる。フォージャー家の関係性が、偽りの家族から、日常に彩りを与えてくれる大切な人へと互いに変化していく第2クールの主題歌として、リリース当時これ以上ないアンサーだと感じさせられたのをよく覚えている。大切な人と出会ったことで、なんてことない帰り道すら色づいて、単純だった日常が意味を持ってしまう高揚感。おそらく誰しもが感じたことのある普遍的な感情に、BUMP OF CHICKENがともに寄り添ってくれることで生まれる温かさがたしかにあるのだ。
2024年9月4日にリリースされたアルバム『Iris』では、収録曲13曲中11曲がタイアップ曲だった。だが、アルバムを聴いてみると、背景も作風も異なる作品の楽曲としてリリースされたはずの一曲一曲が、バトンを渡すように繋がり、“BUMP OF CHICKENのアルバム”を作り上げていた。それは、どんな楽曲であってもバンドとしての信念が失われていないからこそできることだ。彼らの楽曲は、作品のためにBUMP OF CHICKENであることを抑えるのではなく、かといって押し付けもしない。バンドとしての信念と、各作品の物語そのものを対話させているからこそ、BUMP OF CHICKENの楽曲でありながらも、ここまでアニメソングとしての味わい深さを担保できるのだ。
来年、バンドは結成30周年を迎えるが、その繊細な心の機微を捉えた歌詞とサウンドはなお輝きを増し、鋭く研ぎ澄まされていると言ってもいい。それは、「I」をはじめ、数々のタイアップ曲を任され続けていることからも窺える。『ヒロアカ』で鳴る“命の煌めき”のように、BUMP OF CHICKENの音楽は優しさと強さを携え、暗闇の中にも希望を描く。彼らの音楽は、聴く者の人生に寄り添いながら、これからも静かに光を放ち続けるのだ。
※1:https://natalie.mu/music/pp/bumpofchicken21/page/2
























