BUMP OF CHICKENのアニソンは何が優れている? バンドと作品の“メッセージ”を両立させる手腕を探る
BUMP OF CHICKENが『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』(読売テレビ・日本テレビ系/以下、『ヒロアカ』)エンディングテーマとして書き下ろした新曲「I」がリリースされた。
※本稿では、『ヒロアカ』のネタバレ含むストーリーに触れていくため、注意しながら読み進めてほしい。
『ヒロアカ』ED「I」、直接語らず世界観を描き切る藤原基央のソングライティング
“無個性”だった主人公・緑谷出久が、死柄木弔やオール・フォー・ワンとの因縁に決着をつける戦いを彩る楽曲を、“弱者の反撃”という意味をバンド名に冠したBUMP OF CHICKENが担当するのは、もはや必然性すら感じてしまう。そんな本楽曲で印象的なのは、サウンドアプローチの秀逸さだ。疾走感と濁りのない輝きを持つロックサウンドは、聴くものの背中をさらに先へと押し出してくれる。『ヒロアカ』において最終決戦という緊迫した状況で流れる本楽曲は、視聴者に希望や期待を抱かせてくれる――正しくヒーローのような楽曲だ。
また、細かい仕事にも作品への愛を感じる。たとえば、「I」の曲中では“コンコン”と何かが弾けるような音がしきりに鳴っている。この音の意図について、10月16日にBUMP OF CHICKENの公式アカウントで配信されたInstagram Liveにて、藤原基央(Vo/Gt)が「命の煌めきの音」と話していた。これを物語に当てはめて考えるのであれば、筆者は爆豪勝己が息を吹き返すシーンを連想する。最終決戦の中、死柄木に心臓を破壊され、意識不明の重体となっていた爆豪。エッジショットの献身がありながら、意識が戻らない絶望的な状況だったが、突然爆豪の個性“爆破”が誘爆し、彼は息を吹き返す。心臓を失ってもなお、爆豪の個性は必死に彼を生かそうとしていたのだ。そんな爆豪の個性を連想させる弾けるような音は、正しく“命の煌めき”と言えると感じた。
歌詞についても非常に秀逸で、『ヒロアカ』のエンディングテーマとしての文脈を維持しながら、BUMP OF CHICKENの物語としての立ち位置を両立している。
大前提として、彼らはタイアップ先にある作品のためだけの楽曲は作らない。むしろ、「聴いてくれた人の日常において機能するものしか作る意味がない」(※1)とまで語っており、あくまでリスナーの力になれる楽曲を生み出すことを一番に考えながら、音楽を積み上げている。それを念頭に置いた上で、改めて「I」の歌詞を見てみると、ストーリーと関連性の高い単語が使用されていないことに気づくだろう。にもかかわらず、最終決戦を迎えた『ヒロアカ』の世界観を見事に描き切っているのだ。そして、そこにある言葉の一つひとつには、いつものBUMP OF CHICKEN、いつもの藤原基央がいる。
「I」に描かれているのは、誰かを傷つけ、同じように傷つく可能性を持ちながらも、〈君〉を一人にしないために近づこうとする姿勢だ。そこには、人の心に近づくには傷つき傷つける覚悟が必要だという――かつて彼らが発表した「メーデー」のように――BUMP OF CHICKENの哲学が反映されていると思えてならない。同時に、その姿勢は目を背けたくなるほど満身創痍になりながら、死柄木の深く沈められた心にすら寄り添おうとする出久の姿とも重なるのだ。
ほかにも、聴く者に強く訴えてくる〈一人じゃないぜ〉〈僕も生きる〉というメッセージ。BUMP OF CHICKENという視点に立って考えるのであれば、この言葉には藤原が常々口にする「曲は常に君の側にいる」という概念が宿っているのだと思う。一方で、オールマイトのような絶対的な平和の象徴ではなく、ボロボロになりながらも必死に立ち向かう姿に「自分も何かしたい」「一人にはさせない」と感じさせてくれる、等身大のヒーロー=出久の姿もそこには透けて見えてくるのである。





















