連載『lit!』第122回:米津玄師、BUMP OF CHICKEN、Official髭男dism……海外/ドーム公演を控えるアーティストの注目作
晩夏から秋口にかけて、多くの注目作が世に送り出されていった。
そんななかから、今回は直近で海外/ドーム公演を控えるアーティストたちの新譜をピックアップ。今一度リリース作品を振り返るとともに、ライブへの期待を高められれば幸いである。
Official髭男dism「Same Blue」
アルバム『Rejoice』を携えたツアーを開催中で、11月以降にソウルと台北公演を控えるOfficial髭男dismの新曲「Same Blue」は、スポーツ強豪校を舞台に高校生の青春と恋愛を描くTVアニメ『アオのハコ』(TBS系)のオープニング主題歌。リリース以降すでに各所で話題にはなっているが、際立つのは5拍子で幕を開けたかと思えば、随所に6拍子を挟みながら激しく展開していくという目まぐるしい拍子の変化。相手に近づきたいまっすぐな想いとは裏腹に、そううまくはいかない自分の不器用さ。さらには勉強、部活、恋愛、友情……忙しくて気づけばあっという間に過ぎ去ってしまう色鮮やかな青春時代が、疾走感のある曲調と変拍子で表されているように思う。
〈やっぱり僕は あなたの前の僕は〉〈好きな想いが あなたを好きという想いが〉という“あなた”を強調するような詩的なリリックも、愛の深さと切なさを表現するのに効果的に使われている。“青春”という普遍的なテーマにおいて、自分たちらしい“青さ”を出し切った彼らの手腕にまたしても驚かされた。
YOASOBI「モノトーン」
10月1日に結成5周年を迎え、12月からは自身2度目となるアジアツアーを開催するYOASOBI。結成日に届けられた新曲「モノトーン」は、10月4日公開のオリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』の主題歌。翌日には、英語版「Monotone」もリリースされている。
映画の脚本を手がけた岡田麿里による小説『ふれる。の、前夜。』をもとに制作された今作は、〈ずっと 僕は 僕らは/一人きりの世界を生きている〉というセンセーショナルな出だしからわかるように、人と人との関係性を歌われている。人はどこまでいってもひとりきりなのだということ。傷つくのが怖くて曖昧な距離を保ちながらも、本当は誰かと深く繋がりたいと願うこと。どうしようもない現実とそれに対する葛藤を描きながら、転調を経て楽曲は壮大さを増し、最終的には〈分かり合いたいと/寄り添い合った心が/ふれるその時/一瞬この世界は一つに見えた〉と結ばれる。孤独に真正面から向き合ったこのポップチューンに“ふれる”ことで、心が救われる人も少なくないだろう。
優里『カーテンコール』
9月4日にリリースされた優里のシングル『カーテンコール』は、7月に先行配信された表題曲と、シンガーソングライターのざらめに提供した「+1」のセルフカバーを収録。TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(TOKYO Mほか)第7期の第2クールオープニングテーマでもある「カーテンコール」は、互いの正義がぶつかり合う作品の世界観を投影したロックナンバー。なかでも、〈僕ら違う物語で出会えてたなら/争う事なんてなかったのかも〉と歌うブリッジパートが切ない。
そこから続く〈与えられた役を与えられた場所で/与えられたままになんて出来ないや〉は、過去に「ビリミリオン」や「うぉ」などでも優里が歌ってきた「自分がなりたい自分になる」というテーマにも通じるものがある。好きなことを、その純粋な気持ちのまま続けていく難しさを歌った「+1」にもその想いは表れていて、「諦めなかったから今この景色を手にし、夢が叶った」と繰り返される歌詞は、夢を追うなかで挫けそうになった時の心の支えになるはずだ。
11月には韓国にて自身初の海外単独公演を控える優里。ステージに立つ彼の目には、諦めなかったからこそ辿り着けた素晴らしい景色が映ることだろう。